パスピエ 成田ハネダ×tofubeats特別対談 サウンドメイクにおける“音楽的ユーモア”の重要性

パスピエ成田×tofubeats対談

「バンドの概念がどんどん変わってる」(成田)

ーー『more humor』のリードトラック「ONE」は、ここ数年のUSのR&B、ヒップホップの流れも感じられて。もはやバンドの音楽の枠を超えてますよね。

成田:バンドというものの概念がどんどん変わってると思うんですよ。アメリカもヨーロッパもそうですけど、音源はバキバキに打ち込みで、ライブは生ドラムというバンドが当たり前になってきて。ビートのスタイルもかなり変化してますよね?

tofubeats:確かにレンジは広がってますね。「ライブと音源が違っていても、別に良くない?」っていうのも浸透して。ビヨンセのライブ、生ドラムなんだ?!とか。

ーー去年の『コーチェラ・フェスティバル』ですね。

成田:特にコーチェラでは、ソロアーティストが生バンドでロックフェスにアプローチする流れもありますよね。

tofubeats:しかもライブ自体もすごくて。ドラムのことでいうと、打ち込みが完全に浸透してからのドラマーはビートの捉え方が全然違うと思うんですよ。トラップ以降のハイハットの叩き方だったり、リズム全体の精度も上がっているので。

成田:いまの若い世代、僕くらいの世代、もっと上の世代によってもリズムの感覚が違うだろうし。

ーービートのトレンドもすごい勢いで変化していますが、そこも当然、意識してますよね?

tofubeats:毎週新譜を聴くのは仕事だと思ってやってますけど、自分の曲に取り入れるかどうかは別ですね。ただ、クラブでは新譜をかけたいから、自分の曲もそっちに寄せないと上手く混じらないんです。なのでJ−POPとしてリリースしている自分のインスト曲をクラブでかけるときは、別バージョンにすることが多いですね。それはたぶん、バンドのみなさんがリリースした曲をライブのためにアレンジするのと同じだと思うんですが。

成田:そうですね。いま、ちょうどツアーの準備をしているところなんですが、(ニューアルバム『more humor』の曲は)初披露の曲ばかりなので、ツアーのなかでアレンジが変わることもあるだろうなと。人力の演奏はそのときの熱量次第というところもあるので、そのときに思い付いたアレンジが良ければ、そのままやるかもしれないし。

ーーtofuさんも“ライブならでは”の熱量も意識してますか?

tofubeats:よく言ってるんですけど、僕が途中で撃たれても、フェーダーさえ上げておけばライブは最後までやれるんですよ(笑)。

成田:ハハハハハ(笑)。

tofubeats:ワンマンライブだと、一部の楽器を演奏することもあるんですけど。でも、お客さんは僕がステージにいなくても、音楽が流れていれば楽しいわけじゃないですか。ライブ中にツマミを回したところで、お客さんにとって何の意味があるんだろう? って思うんですよね。もちろん自分はやっていておもしろいし、それなりに意味もあるんですけどね。

「ドラムマシンのリズムにも気持ちを込められる」(tofubeats)

ーーtofubeatsさんの新曲「Keep on Lovin' You」についても聞かせてください。かなりポップに振り切ったナンバーですが、成田さんはどんな印象を持ちましたか?

成田:めちゃくちゃカッコ良かったですね。これは僕個人の印象なんですが、あえて“生感”を入れているというか。

tofubeats:ギターだけは生なんですよ。あとは全部打ち込みで。

成田:なるほど。ブラスやストリングスもかなり生っぽいし、でも、最初と最後はしっかりシンセが入っていて。すべてを打ち込みのビートに合わせるのではなくて、あえて外しているのもいいんですよね。僕らは人力でマシン的なリズムを表現することがあるけど、逆のアプローチだなと。

tofubeats:そうですね、クオンタイズをかけないこともあるので。ドラムマシンのリズムにも気持ちを込められると思ってるんです、僕は。“ドン、ドン、ドン、ドン”という一定の間隔で音が置かれているだけではグルーヴも何もないんですけど、そのなかでずっと踊ってると、だんだん気持ちよくなってくる。これは何かというと、定期的なビートと不定期的な体のズレから生まれるものだと思うんです。楽曲のアレンジに関しても、正確に音を揃えるだけではなくて、あえて手で打ち込むパートを加えることでグルーヴが出てくるんですよね。今回の曲でいうと、フルートのパートは鍵盤で弾いたものをそのまま使ってたり。“ズレ”をどう作るか? ということなんですけどね。

成田:理由がハッキリしてるのがすごい。バンドだったら、「いまの感じ、良かった」みたいなスタンスだったりするので(笑)。

tofubeats:いま言ったことは、先輩からの受け売りだったりするんですけどね(笑)。(石野)卓球さんが「パーカッションだけは手打ちなんだよね」みたいなことを仰っていたり。そうすることで作り手の気持ちを入れるというか……。クリックに合わせてドラムを叩いてれば、バンドも同じだと思いますけどね。

成田:そうですね。

tofubeats:「クリックに合わせて叩いても気持ちが入らない」というオジサンがいますけど(笑)、そんなことはなくて。「ここは合わせる」「ここは合わない」ということで個性が出るし、おもしろいところだと思うんですよ。

成田:聴く側の耳もそういう音に慣れてますからね。

tofubats:そう思います。特にポップスはガチガチに編集されているし、ボーカルもしっかり補正されているので。

ーー「Keep on Lovin' You」にはタイアップ(「サントリー天然水 GREEN TEA」コラボ曲)も付いてますが、この楽曲は次のtofubeatsさんのモードと考えてもいいんでしょうか?

tofubeats:あ、そうですね。「今年は明るくて爽やかな曲ばっかり作るな」って自分でも思っていて。ついに外向きになってきたのかも(笑)。

成田:以前も“ポジ変”してませんでした?

tofubeats:『POSITIVE』(2ndアルバム/2014年)を出したときですね。あのときは外部的な要因というか、最初の1曲がなかなか出来なくて、レコード会社の担当者に「もうちょっとポジティブになってみたら?」と言われて。今回は自発的なポジティブですね。あと、シリアスなアルバムを2枚作ったから(『FANTASY CLUB』/2017年、『RUN』/2018年)、というのもあります。一人でやってるので、ほっとくと暗くなっちゃうんですよ。「暗い感じのアルバムを作った後は、明るくて爽やかなアルバムを作る」みたいな感じで変えていくほうがいいし、それを繰り返すことで両方とも上手くなれたらなと。成ハネさんはどういうことを考えて曲を作り始めるんですか?

成田:今回のアルバムに関しては、「とにかく思い付いたことをどんどん形にしていこう」という感じで鍵盤の前に座ってましたね。自分のなかでボツにしたものを含めると、90曲分くらいのデモを作って。

tofubeats:アルバム1枚のために90曲はすごいですね。全体像はあったんですか?

成田:いや、それはなくて。さっきのtofuくんの話と同じで、最初の1曲というか、自分のなかで軸になる曲、心の置き所になる曲を決めるのが大事なんですけど、どうしても時間がかかるので。

tofubeats:「この曲があるから大丈夫」という曲ですよね。

成田:そう。今回もそうですけど、そういう曲はアルバムの最後に置くことが多くて。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる