米津玄師のMVはなぜ再生され続ける? 1億回続々突破の背景を7作品から探る
「ピースサイン」(2018年9月1日)
2017年6月リリースの「ピースサイン」は、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマにもなったギターロックナンバー。ほとんどのシーンがフィルムで撮影されているMVは、公開後24時間で再生回数100万回を突破、YouTubeの急上昇ランキングにもランクインしていた。「Lemon」以降、米津の名はもっと幅広い層まで轟いたが、TVなどのメディア出演が少ないこともあり、ライブ以外でパフォーマンス姿を観る機会はほぼなかった。しかしこのMVにはライブ感あるバンド演奏や歌唱シーンが多く含まれており、これも再生回数を伸ばしたひとつの理由なのかもしれない。
「灰色と青(+菅田将暉)」(2019年3月9日)
2017年11月リリースの4thアルバム『BOOTLEG』に収録されている「灰色と青(+菅田将暉)」。ゲストボーカルに菅田将暉を迎えたこの曲は、幼少時代を共にした友人同士が大人になり、すれ違う日々の中で奇跡的に重なる瞬間が描かれている。MVでは菅田と米津が登場するものの、映像の中で二人が出会うことはない。しかし、ブランコに乗るシーンから両者の関係性が伝わってくるのが映画チックでもあり、楽曲と映像が合わさることで、米津がフェイバリットにあげている北野武監督の『キッズ・リターン』の影響がくっきりと浮かび上がってくる。今後は、菅田の新曲「まちがいさがし」でも再タッグが組まれるため、再びこのMVの再生回数にも影響が出てきそうだ。
「orion」(2019年4月3日)
2017年2月にリリースされた「orion」は、羽海野チカ原作のアニメ『3月のライオン』の第2クールエンディングテーマ。米津がアニメ主題歌を手がけたのはこの時が初めてで、同年はこれを皮切りに『僕のヒーローアカデミア』、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』とアニメ作品のタイアップが続いた。「orion」のMV監督は「灰色と青(+菅田将暉)」と同じく映像作家・山田健人が担当。電球がちりばめられた屋内の世界も幻想的だが、そこから朝焼けをバックにした広大な海のシーンに繋がることで、映像の美しさがより一層際立つMVとなっている。
ここまでの7作品からもわかるように、米津のMVは作品毎の個性がハッキリしている。それはストーリーやロケーションと言うよりは、米津玄師というアーティストを構成する様々な要素のうち、毎回違う面を「映像作品のテーマ」としてフィーチャーすることで生まれている変化だと感じる。楽曲や映像の素晴らしさはもちろん、そのMVでしか観ることが出来ない魅力のバリエーションもまた、それぞれの作品が長い期間で再生され続けている要因なのだろう。
■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.com、Real SoundなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。趣味は読書でビートたけし好き。