ISH-ONE、ワールドワイドな活躍と今後「母国語で歌うことがユニークだと思ってもらえる状況に」

ISH-ONE『ONES』インタビュー

人生が見えてくるフレーズを出せるラッパーが好き

――時期的にもCDから配信に徐々に移行し始めたり、YouTubeの発達や、SNSの普及など、様々な部分でゲームチェンジが起きていましたね。

ISH-ONE:僕はTwitterで有名になったようなもんですからね(笑)。当時はビートジャックやミックスCDが流行ってたんで、毎週毎週新しい音楽を作ってたし、海外のフリーダウンロードシーンと同じような感覚で制作して、矢継ぎ早にリリースしてっていう。だからすごくワクワクしてましたね。とにかくスタジオに集まって、ワイワイガヤガヤしながらいろんなアイデアが飛び交って、そこからフレッシュなモノがポンポン生まれてくる。『JP STATE OF MIND』のシリーズなんて、その最たるものだと思いますね。逆に今はスタジオに一人で籠って、自分と向き合う事が多いんで、そういう感覚が懐かしくも思えますね。

ーーいまお話に出たS7ICKCHICKsなど、「TEAM2MVCH」としてアーティストのプロデュースも手がけられるようになりますね。

ISH-ONE:S7ICKCHICKsに関して言うと、彼女たちが「NEW MONEY」をリミックスをやってくれた時に、ポテンシャルをすごく感じたんですよね。世界中どこ探しても、女の子のラッパーがグループやってるというアプローチは無かったんで、この子達をちょっとテコ入れしたら、スゴく面白いことになるなって思ってプロデュースを始めて。リリック的にも、自分ではちょっと書きにくい内容のリリックや、自分では動きにくいアプローチであっても、彼女たちに仮託すれば具現化出来るってことに気づいて。そこからですね、自分で勝手にプロデューサーと名乗りだしたのは(笑)。


ーー結果が伴っているので、自称という事もないと思いますが(笑)。

ISH-ONE:でも、最初は言った者勝ちみたいな感じでしたよ(笑)。だけど、それから色んなお話をいただくようになって。それこそいま話題になってる孫GONGも、最初は「ラップ上手くなりたいねん」みたいな感じで俺とTEAM2MVCHを組んでるプロデューサー/エンジニアのDELMONTEのスタジオ「DELMONTE STUDIO」に遊びにきて。最初は全然がっちりしてなかったんだけど、フロウのやり方を教えたりしたら、どんどん成長していって。

ーープロデュースというよりは塾のような感じなんですね。

ISH-ONE だからトラック渡して終わり、アドバイスして終わりじゃないですね。カウンセリングみたいな感じで、スタジオに来させて1、2時間くらい話すんですよ。「最近どう、人生?」みたいな部分まで(笑)。そこからキーボードを叩いて、その人にあったトラックを作っていくんですよね。そうやって、1曲1曲カスタマイズで作って、ラップなり歌を作ってもらう。そうすると、その人の面白さが出てくるんですよね。そこで人を作るっていうことの面白さみたいなのを学んだんだんですよね。自分としても、プロデュースによって人から学ぶ部分も大きかったし、自分自身にとっても「次はこうしよう」みたいに、いろんな観点を与えてくれたんですよね。ただ、人を育てるには責任あるし、労力も使う。だから、最近は控えようとしてるんですよね。自分のことをやりたいっていうのもあるんですけど。

――また、サウンドクリエイティブも手がけられてますね。

ISH-ONE:元々、ビートメイクは高校生くらいからやってたんですよね。だから、どちらかというとプロデューサーになりたかったんですよ。その意味でも、自分がやってたことを、また新しい形で再構築してるのが、いまの動きっていう感じですね。でも、意識的にというよりは、自然といえば自然にサウンドクリエイトもスタートさせたんですよね。

――今作に収録されている曲に限っても、KOJOEやAKLO、EGOなどマルチリンガルなラッパーに加えて、MIDCRONICAの894など、客演の人選は非常に幅広いですが、その基準は?

ISH-ONE: 基本的には「一緒に遊んでるかどうか」ですよね。人気だからとか、最近面白いからとかはあんま無くて、実際に遊んでる仲間と曲を作ってのが多くて、フィーチャリングしてるやつらも本当にちゃんと繋がりがあるやつらなんですよね。それこそGASHIMAもニューヨークの頃からの後輩だったりするし。だから基準としては、ラップが上手いっていうことと、一緒に遊んでる、感覚が似てるっていうことがあると思いますね。

――「ラップの上手さ」を言葉にすると?

ISH-ONE:全てですね。円グラフあったら全て。1個だけ飛び抜けててもダメで、フロウ、言葉遊び、メタファー、プレゼンス、声の出方、そいつの実際の人生……みたいな、全てにちゃんと特徴があって、総合力としてもスゴイのが、ラップが上手いっていうことだと思いますね。それから、こいつじゃないとこのラインは絶対出ないなっていう、パンチラインがあると最高ですよね。そいつの人生が見えてくるフレーズを出せるラッパーはすごい好きだし、それが出せるのが本当の意味で上手いラッパーだと思う。


――ISH-ONEさんのラップはSWAGやパーティ・シットが基本だと思われがちですが、「SAME NIGHT」のようなポリティカルな内容も描かれますね。

ISH-ONE:あの曲はパレスチナとかイスラエルのような、中東の紛争の話を歌っていて。そういうでかいテーマの話ってなかなか日本てやらなかったりするし、僕自身も社会派じゃないんであえて書こうっていう気持ちは無かったんですよね。でも、本当にある時あの曲が「降ってきた」んですよね。それで降ってきたから、DELMONTEに電話して、「今日録りたいんだけど」って勢いで作って。この曲はヴァースごとに視点を変えて作ってるんですけど、そういう新しい切り口が出来たと思うし、自分にとっても手応えのある作品になりましたね。作品としても、SWAGだったりとかパーティ、女の子とかは、もうやり尽くしてきてるんで、そこじゃない違った側面というか、もっと語るべきこともあるんじゃないかなっていまは思ってますね。ラッパーって言葉に力があるから、その力をもう少し良いことに使ってみたいなっていう気分にはなってきていて。

――6枚目はそういう形に?

ISH-ONE:内省的な曲も多いですね。 フューチャリングもいますが、今までよりはぐっと少ないですね。ただ、スキルという部分では、マックスのレベルで見せられるように、現行のラップをちゃんと超えられるレベルのモノを作らないといけないっていうのは意識していて。そのために、今回は海外のプロデューサーを起用して、もう一段階レベルが上のプロダクションに向き合ったんですよね。それによって自分のスキルも底上げ出来た作品になったと思いますね。

――リリースの目処はもう見えてますか?

ISH-ONE:6月くらいとか7月くらい、夏前には出したいなとは思ってますね。早く出したいなと思うし、早く出して次のステップに行きたいなっていう。それから新しく作った「#SIXSIXSIK」っていうユニットでは、結構わかりやすいものだったりとかも取り入れたりとかしようとは思ってて。それは世界を照準にしているし、世界に発信出来るものを考えてますね。

――いま、「アルバム」というパッケージを作る理由はなかなか見えにくくなってますね。それよりも、You Tubeや配信の形で単曲で出していく方がメインになっている。ISH-ONEさんのようにトレンドや現行を意識する人が、アルバムという、ある意味では古式ゆかしい形式で作品を出す理由は?

ISH-ONE:先程も話したとおり、今回のアルバムは、海外の一流のプロデューサーと一緒に曲やろうっていうのがコンセプトで、日本人だけど世界の現行のトップのやつらとやってる事実を、一つのパッケージにしたかったんですよね。その意味でも、そのコンセプトをちゃんと提示するために、アルバムっていう単位で作品作りをするのが大事なのかなって。それに、やっぱり盤で欲しいっていうコレクターの子もまだいると思うんで、今回のベスト盤含めて、CDというパッケージでリリースしようと。それから、今回収録した曲を押さえておいてくれたら、これから出るアルバムとか、自分のこれからやっていくことも垣間見てもらえるのかなって。その意味でも、一つのまとまりにしたかったんですよね。

――では、このアルバムを出したことで、ご自身にエフェクトはありましたか?

ISH-ONE:自分を振り返ることで、自分はちゃんとやってきたなって、自分の中で自信になったと思いますね。振り返らないでずっと進んでいくと、「あれ? 何やってきたんだろう」ってたまに思うことって、人生にはあると思うんですけど、こうやって纏めたことで、「こうやって歩いてきたんだな」っていう、自分が歩いてきた道をちゃんと見る事が出来たと思いますね。それがあったから、次のアルバムで世界に出て行こうと思った自分の意思に対して、自分自身でブーストかけられたと思いますね。


(取材・文=高木"JET"晋一郎/写真=稲垣謙一)

ISH-ONE『ONES』

■商品情報
『ONES』
¥2,500(税込)

1. NEW MONEY
2. 2MVCH
3. MR.PROBLEM
4. MR.SWISHER feat’ EGO
5. KILLER DANCE ft’ KOJOE,AKLO
6. WE MADE IT ft’ GASHIMA
7. ラジオ体操参拾八 ft’ SAGGA
8. WOLVES ft’ JINMENUSAGI
9. MR.SUMMER pt.4 feat’迷子,894
10. NYJP
11. SAME NIGHT
12. MUSIC
13. I’M HOME
14. LIVIN' ON THIS FEELING (新曲)
15. LET IT FLY -DEV LARGE TRIBUTE- (BONUS TRACK)

公式Twitter
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