広瀬香美の楽曲はなぜ聴衆の心を掴む? ゲレンデからオフィスまで“平成の女性”象徴したヒロイン像
広瀬香美が新曲を含む3枚組みコンプリートベストアルバム『THE BEST ”1992-2018”+ ”雪” Set List Non-Stop Mix』をリリースした。本作は「ロマンスの神様」「ゲレンデがとけるほど恋したい」「promise」といったおなじみのヒットソングや選りすぐりの楽曲に、書き下ろしの新曲「歌いたいわ」を加えたDISC-1、2と、現在開催中の『広瀬香美コンサートツアー2019~The Winter Show “雪”』のセットリストを、ライブ曲順そのままにDJ和がノンストップミックスしたスペシャルコラボレーションディスクを含む豪華仕様。往年のファンはもちろん、改めて彼女の魅力に触れたいビギナーにとっても満足のいく作品となっている。
15秒の中で一際異彩を放っていたメロディとハイトーンボイス
1992年のデビュー以来、世界的ボイストレーナー、セス・リッグス仕込みの美声と、幼い頃より培ったソングライティング力でJ-POPシーンの第一線で活躍してきた広瀬香美。中でも170万枚を売り上げた「ロマンスの神様」をはじめ、「幸せをつかみたい」「ゲレンデがとけるほど恋したい」「DEAR...again」「promise」など、90年代にリリースした楽曲は、スポーツ用品店「アルペン」の冬のCMソングともなり軒並み大ヒット。そのイメージから“冬の女王”とも称されてきた。この時代に青春を送った方々の中には、楽曲を耳にすると当時の思い出が甦るという人も少なくないだろう。そしてそれらは20年以上を経た今も、冬の定番曲として聴き継がれている。
なぜ彼女の楽曲はこれほどまでに聴衆の心を掴んだのか。スキーなどウィンタースポーツが華やかなりし時代に、それらのグッズを取り扱うショップのCMに抜擢されたことはきっかけのひとつだろう。しかしそれだけではない。キャッチーなメロディと伸びやかなハイトーンボイスが、わずか15秒のCMの中では一際異彩を放っていた。「ゲレンデがとけるほど恋したい」では〈急上昇!真冬の恋スピードに乗って〉の歌詞の通りに徐々に盛り上がっていくサビ、「promise」では〈揺れる、廻る、振れる、切ない気持ち〉と呼応するようにメロディもくるくると弧を描く。短い時間で楽曲を印象付けるフレーズがどの曲にも散りばめられていた。加えて、聴き手を魅了したのは歌詞だ。時代を象徴するワードを巧みに織り込みながら、恋する気持ちの昂まりや切なさを描いてきた。たとえば「ロマンスの神様」では〈今夜飲み会期待している 友達の友達に〉幸せになれるものならば 友情より愛情〉など、まだ婚活という言葉もない時代、運命の出会いに憧れる女性たちの胸の内を代弁し、多くの共感を呼んだ。明るくポジティブで恋に一生懸命。そんな広瀬の楽曲の中に登場するヒロイン像は、女性の力が飛躍的に増した平成の世を象徴していたとも言えよう。