細野晴臣が語る、『HOSONO HOUSE』リメイクとサウンドの大変革「まだまだすごい音がある」

細野晴臣、サウンドの大変革

サウンドの変化にいつもさらされてきた

ーー話を伺えば伺うほど、興味深いです。オリジナルの『HOSONO HOUSE』は、当時のアメリカのシンガーソングライターの音響に影響を受けていたわけで……。

細野:そう、当時はシンガーソングライターたちが作っていた個人的なサウンドに関心があって。一方でファンク、ソウルミュージックがヒットチャートをにぎわせていて、僕は両方とも好きだったから。どちらの要素も入っているんですよね、あのアルバムには。そう考えると、いまの状況と似てますね。『HOSONO HOUSE』を作る前は、鈴木茂と古い音楽ばっかり聴いてたんですよ。(ジョージ・)ガーシュウィンとかね。ディスクユニオンのビンテージコーナーに通って、1930年代のレコードを買って。それを1年くらい続けた頃に茂が「僕たちはここのままで大丈夫なのか?」と言い出したんだけど、ちょうどその頃、Sly & The Family Stoneの『Fresh』を聴いて、「これはすごい」と思って、いろいろと新しいものを聴き始めて。

ーー確かにいまの状況と相似してますね。ブギウギ、エキゾチカなどのミッドセンチュリーの音楽を追求した時期が10年ほどあって、ここにきて新しいサウンドに興味が向いて。

細野:いまもブギウギは好きだし、続けたいんだけどね。だから、音楽的にはあまり変わらないんですよ。音的に変わっただけで。こういうサウンドの変化は10年に1回くらいあって、いつもそういう変化にさらされてきた世代なんですよ、我々は。The Beatlesの時代にマルチレコーディングになって、レコーディングのテクニックに大変革が起きたこともそう。50年代と60年代の音もぜんぜん違うし、いま聴いても「これは80年代の音だな」とわかりますからね。90年代以降もそうですよ。まずアンビエントがあって、それが00年代のエレクトロニカにつながって。それは音楽が環境を取り込んでいった時期ですよね。音楽のうえに環境音やノイズを乗せるのではなく、それ自体を取り込みながら表現している人たちが出てきて。それも個人の音楽ですよね。僕も「どうやって作っているんだろう?」と興奮して、手作りでやってみたりね。それがSKETCH SHOWの1枚目(『AUDIO SPONGE』2002年)なんです。その後、「このソフトを使えば、いとも簡単にできる」ということがわかって、途端につまらなくなっちゃった(笑)。いまのバーチャルなサウンドも、いずれはそうなるでしょうけどね。エレクトロニカが衰退したのも、ソフトがアップデートされて、当時の機材が使えなくなったことが一因ですから。ずっとそういうことを繰り返しているんですよ。いまに始まったことではなくて。

ーーこの50年は、テクノロジーの進化とともに音楽が変化することの連続だったわけですね。

細野:振り返ってみると、全部そうですよね。YMOもMC−8(シンセサイザー用のシーケンサー/ローランドMC−8)という機材のほうが先にあったわけで。新しい音、聴いたことのない音には刺激されるし、「どうなってるんだろう?」とおもしろくなって、没頭しちゃうんですよね。日本のミュージシャンも宅録派が多いから、密かに葛藤しつつ、それぞれのサウンドを獲得しているんじゃないかな。それがいまの時代だと思います。

ーー最後に今後の活動について。まず、現在行われているツアー『細野晴臣コンサートツアー』の手応えはどうですか?

細野:去年のツアーと大きく変わったところはないんだけど、違うところといえば『HOSONO HOUSE』の曲を演奏していることかな。目玉とは言えないけど、それは新しいことかもしれない。リメイクアルバムのためにずっと打ち込みでアレンジしていたから、生バンドでやると新鮮なんですよね。レコーディングを通して消化できているから、生でやっても気持ちいいんです。

ーーオリジナルの『HONOSO HOUSE』のときとは、歌に対する意識も違いますよね。

細野:ぜんぜん違いますね。当時は「歌いたくない」と思ったままやってたから。もしかしたら、それが(『HOSONO HOUSE』を)「聴きたくない」と感じていた理由なのかも。いまは無理なく、自然に歌えるように変えてますからね。それはリメイクアルバムも同じかな。こんなに『HOSONO HOUSE』と向き合うとは思ってなかったけど(笑)。

ーーそして2019年は音楽活動50周年です。

細野:それはどうでもいいんです。だって、みんなそうなるでしょ。小坂忠も去年が50周年だったし、幸宏(高橋幸宏)の『サラヴァ!』が40周年。モーニング娘。も20周年だしね(笑)。なので50周年もぜんぜん気にしてません。ただ年を取っただけ(笑)。“まだ続けていられるな”という気持ちはあるけどね。ここしばらく“音楽は衰退の一途だな”と思っていたけど、71才にして“まだまだすごい音がある”ということに気付いて、これからどうなるんだろう?と。気が付かなきゃよかったよ(笑)。

ーーまずはリメイクされた『HOSONO HOUSE』、すごく楽しみにしています。

細野:ありがとう。まあ、大したことはないですよ(笑)。

(取材・文=森朋之)

■リリース情報
ニューアルバム『HOCHONO HOUSE』(読み:ほちょのはうす)
発売:2019年3月6日(水)
価格:¥3,000(税抜) 全11曲収録予定
※アナログ同発
2枚組、¥5,000(税抜)

「薔薇と野獣(new ver.)」
配信中

■ツアー情報
『細野晴臣 コンサートツアー』
1月18日(金)open18:30/start19:00 @兵庫・神戸文化ホール・中ホール
1月24日(木)open18:00/start19:00 @東京・中野サンプラザ
2月11日(月・祝)open17:30/start18:00 @福岡・都久志会館
2月23日(土)open19:00/start19:30 @台湾・Legacy台北 

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