北野創の2018年アニソンベスト10
北野創が選ぶ、2018年アニソン/声優アーティスト年間ベスト10 過渡期の中で若手の台頭も
そしてアニメ音楽ならではの取り組みと言えば、演者がキャラになりきって歌うキャラクターソングという形態。フィクショナルな存在に歌で命を吹き込むという意味では、歌唱力だけではない声優としての力量が問われるわけですが、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』のEDテーマ「不可思議のカルテ」は、瀬戸麻沙美、東山奈央、種崎敦美、内田真礼、久保ユリカ、水瀬いのりの声優6人が、“思春期症候群”という不思議な症状を抱えた劇中ヒロインたちの戸惑いや揺れ動く心情、そしてその向こう側に覗く希望を巧みに表現してみせた素晴らしい楽曲に。カワイヒデヒロ(fox capture plan)が作編曲した6/8拍子の優雅かつアンニュイなジャジーサウンドと、児玉雨子による思春期の繊細かつ不安定な自意識をロマンティックに切り取った歌詞も秀逸すぎます。
役者ならではの歌唱表現を追求した作品ということであれば、実際のミュージカルとTVアニメの相互展開で新しいエンターテインメントの形を切り拓いた『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』も2018年のアニメ音楽を語る上で外せません。本作では通常の2.5次元ミュージカルとは違って、ミュージカル版の役者がアニメ版の声優も担当。メインキャストであるスタァライト九九組の演者には、舞台経験も豊富な声優の三森すずこ、元々ミュージカルの世界で活躍していた小山百代や富田麻帆といった実力者が揃っていて、物語自体も演劇学校に通う舞台少女たちが“トップスタァ”を目指して競い合うという内容に。アニメでは彼女たちの決闘シーンで必ずミュージカル調の劇中歌が披露されるのですが、小山と富田が堂々たる歌声をぶつけ合う「誇りと驕り」ほか、90年代の名作アニメ『少女革命ウテナ』(とJ・A・シーザー)の世界観にも通じる壮大かつケレン味の利いた大曲がズラリと並んでいます。
ラストは女子高生を中心とした正義のスパイ組織“ツキカゲ”の戦いを描いたアニメ『RELEASE THE SPYCE』より、ツキカゲの声優陣(安齋由香里、沼倉愛美、藤田茜、洲崎綾、のぐちゆり、内田彩)が歌うOPテーマ「スパッと!スパイ&スパイス」をピックアップ。キャッチーで中毒性の高いキャラソンを作らせたら右に出るもののいないヒゲドライバーが作詞・作曲・編曲を手がけたこの楽曲、ブリブリのスラップベースと怒涛のドラミング、シャープなブラスが織り成すキメを満載したサウンドがとにかく凄まじい(ベースは中村泰造、ドラムはササブチヒロシが演奏)。加えて女性声優6人の歌声が重なる華やかさ、〈スパッパッパラッパ スパパパパパラッパ〉という何だかよくわからないけど口ずさみたくなるフレーズ、どこか歌謡的ないなたさを残した日本人の耳に馴染むメロディと、どこを切ってもクセになる旨味を凝縮した作りにはヤラれました。作品やキャラクターというフィルターを通したがゆえに生まれる先鋭性と自由度の高さ、それこそがアニメ音楽の魅力であるということを改めて感じさせてくれる一曲です。
■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。