北野創の2018年アニソンベスト10
北野創が選ぶ、2018年アニソン/声優アーティスト年間ベスト10 過渡期の中で若手の台頭も
・亜咲花『SHINY DAYS』(2018/01/24)
・Run Girls,Run!『スライドライド』(2018/02/28)
・LLENN starring Tomori Kusunoki『To see the future』(2018/05/09)
・神崎エルザ starring ReoNa『ELZA』(2018/07/04)
・スタァライト九九組『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 劇中歌アルバム Vol.1 ラ レヴュー ド マチネ』(2018/08/22)
・桜島麻衣、古賀朋絵、双葉理央、豊浜のどか、梓川かえで、牧之原翔子(CV:瀬戸麻沙美、東山奈央、種崎敦美、内田真礼、久保ユリカ、水瀬いのり)『不可思議のカルテ』(2018/10/03)
・ミルキィホームズ『毎日くらいまっくす☆/そして、群青にとけていく』(2018/10/17)
・ツキカゲ『スパッと!スパイ&スパイス/Hide & Seek』(2018/10/24)
・山崎エリイ『夜明けのシンデレラ』(2018/11/21)
・rionos『百年のメラム』(2018/11/21)
2018年1月から本連載でアニメ/声優ソングを紹介し始めて早1年。ここではリリースタイミングやテーマの都合で過去の連載にて紹介できなかった作品を中心にピックアップし、2018年のアニメ/声優ソング界隈の個人的な注目どころを振り返ってみようと思います。なので上記10作品については順位付けしておらず、並びは単純に発売日の早い順になってます。ちなみに今年チャートを席巻した声優ラップコンテンツ『ヒプノシスマイク』を含む男性声優/ボーカル作品の私的一押しについては、アニメ音楽誌『LisOeuf♪ vol.11』の「スタッフが選ぶ2018年の3曲」という記事で紹介したので、よろしければそちらもご覧ください。
2018年の大きなトピックとしては、やはり東京ドーム単独公演を成功させて『第69回NHK紅白歌合戦』の企画コーナー出演も決定しているAqours、初のベスト盤2タイトルに続いて最新シングル『赤い罠(who loves it?)/ADAMAS』もヒット中のLiSA、そしてPoppin'PartyやRoseliaといった関連バンドの作品を年間通じてチャート上位に送り込み続けたメディアミックス作品『BanG Dream!』の躍進といったところが挙げられます。ただ、これらはいずれも2017年以前からすでに人気を獲得していたアーティスト/コンテンツであり、その勢いがより強い形で顕在化したのが今年だったと言えそうです(そして彼女たちは2019年、さらに大きくなることでしょう)。
キャリアを着実に重ねる人たちがいる一方で、ミルキィホームズやWake Up, Girls!といった人気声優グループの解散発表、声優アーティストで前述のRoseliaではベースを弾いていた遠藤ゆりかの引退といった惜しむべきニュースもあったのが2018年。その中でもミルキィがラストシングルと銘打って発表した「毎日くらいまっくす☆」は、いつでも面白おかしく元気いっぱいに駆け抜けてきた彼女たちらしさが詰まった、相応しい超ポジティブ&ハイテンションなアップチューン。みんなとの別れの時を歌ったバラード「そして、群青にとけていく」も、そこに込められたメッセージと歌声はあくまで前向きで、有終の美を飾る一枚になりました。
そのようにシーン自体がある種の過渡期に差し掛かっている状況で、やはり目がいくのは新人や若手たちの活躍。2018年デビュー組の中で個人的に凄まじいポテンシャルを感じたのが、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』に登場する歌姫・神崎エルザの劇中歌でその名を広く世に知らしめたReoNa。透明感の中に深いエモーションを宿したその歌声の魅力は、神崎エルザ starring ReoNa名義の楽曲集『ELZA』はもちろん、愛の痛みと重みを繊細に表現したソロデビュー曲「SWEET HURT」でも発揮されています。年明けには『ソードアート・オンライン アリシゼーション』の新EDテーマ「forget-me-not」を歌うことも決定しており、来年はさらなる活躍が期待できそう。
また、2018年にはWake Up, Girls!の妹分である3人組声優ユニットのRun Girls,Run!もデビュー。高校生のメンバーを含む彼女たちはまだ原石のような粗削り感を残していますが、フレッシュさは間違いなくピカ一。デビューシングル『スライドライド』は広川恵一(MONACA)が得意のオルタナ〜ポストハードコア系のバンドサウンドで攻めつつ、そこに彼女たちのピュアでひたむきな歌声が合わさることでキャッチーな中毒性を獲得していました。石濱翔(MONACA)による和フューチャーベース「秋いろツイード」(3rdシングル『Go! Up! スターダム!』のカップリング曲)など、Wake Up, Girls!と同様にMONACA勢が楽曲面でバックアップしてるところも注目でしょう。
他にも2018年には、『マクロスΔ』発の音楽ユニット、ワルキューレの一員でもある鈴木みのり、『アイドルマスター ミリオンライブ!』の高山紗代子役や『キラキラ☆プリキュアアラモード』の主題歌を歌っていたことで知られる駒形友梨、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の北条加蓮役やTridentなどで美声を届けてきた渕上舞など、すでにパフォーマンス力は折り紙付きの声優たちが続々デビュー。若手声優では現在19歳の楠木ともりも注目すべき存在で、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の主役・レン名義で歌ったキャラソン「To see the future」では、音楽イベント『Animelo Summer Live』に出演して数万人の観客を前に堂々たるパフォーマンスを披露しました。彼女は『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』より虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の優木せつ菜役、『温泉むすめ』より大手町梨稟役などで、すでに多数のキャラソンを歌唱。学生時代には軽音部に所属していたほどのロック好きで、自身のバースデーライブでは自作のオリジナル曲を披露するなど、音楽的に大きな可能性を秘めていそうです。
そして2018年デビューではないですが、今年を飛躍の年としたのがアニソンシンガーの亜咲花。まだ19歳ながら朗々とした歌声の持ち主である彼女、『ゆるキャン△』のOPテーマ「SHINY DAYS」ではジャクソン5「I Want You Back」を下敷きにしたような快活極まりないポップソウルを気持ちよく歌っていて、fhana「青空のラプソディ」(2017年)に続く渋谷系オマージュ曲という意味合いでも象徴的な一曲になったのではないでしょうか。余談ですが、この曲のように過去の名曲のオマージュを感じさせる手法を用いたアニメ/声優ソングとしては、声優の大橋歩夕が今年発表した「SPLASH」もプリンスの某曲をトロピカル風に換骨奪胎した痺れる一曲でした。
昭和の特撮ソングっぽさを組み込んだフランシュシュ「徒花ネクロマンシー」(『ゾンビランドサガ』OPテーマ)や、元Superflyの多保孝一が提供した伊藤美来「恋はMovie」、JUNNA「Be Your Idol」における60'sガールポップ〜歌謡曲テイストもそうですが、こういった懐かしい音楽の要素を採り入れつつ現代流のモダンな音楽に仕立てる試みはポップスの醍醐味のひとつであり、今の音楽シーン全体を見渡した時の潮流のひとつでもあると思うので、2019年以降もその流れはさらに強くなりそうな予感。そういう意味でも声優の中島愛が来年1月にリリースするカバーミニアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』は、松原みき「真夜中のドア」や今井美樹「雨にキッスの花束を」といった選曲の妙と、tofubeatsやKai Takahashi(LUCKY TAPES)ら若い世代のクリエイターの起用を含め注目作になりそうです。
また、若手声優の作品では山崎エリイの2ndアルバム『夜明けのシンデレラ』が、甘やかな歌のベールの向こう側にチラチラと凄みが垣間見える一枚に。特に冬の清らかな空気にも似たミディアムポップ「シンデレラの朝」で胸を締め付けるような美メロと共に歌われる覚悟のような気持ちは衝撃(microstarの佐藤清喜によるラグジュアリー歌謡路線のアレンジも完璧!)。大橋彩香の2ndアルバム『PROGRESS』における「Sentimen-Truth」(作詞:田淵智也、作曲・編曲:佐藤純一)にせよ、自作曲を多く並べた早見沙織『JUNCTION』や斉藤壮馬『quantum stranger』といったアルバムにせよ、普段は役者としてキャラクターを演じることに徹している人たちが、音楽を通して自身のパーソナルの核を表出する、という構図そのものが作品のユニークさに直結しているタイトルも、2018年には多かったように感じます。
クリエイター系の若手であれば、rionosの活躍も見逃せません。今年は劇伴作家として『メルヘン・メドヘン』『あさがおと加瀬さん。』に関わり、脚本家の岡田麿里による初監督作品『さよならの朝に約束の花をかざろう』で主題歌「ウィアートル」を歌った彼女ですが、『ユリシーズ ジャンヌ・ダルクと錬金の騎士』ではEDテーマ「百年のメラム」を歌唱。自身が作詞・作曲・編曲を手がけた表題曲に加え、アニメの放送話ごとに歌詞とアレンジが異なる8バージョンが制作され(編曲には北川勝利、yuxuki waga、保刈久明らが関与)、ひとつの歌で神話の物語を描き出す、アニメの世界観に寄り添ったからこその実験的な試みを実現させていました。