FORWARD ISHIYAのアメリカツアー体験記 現地のパンクシーンから学んだ伝え続けることの重要性
今回のアメリカツアーは、各地域ごとに帯同するバンドが変わるものとなった。2004年に初めてアメリカツアーを行った際も同じような形のツアーであったが、その間に多くのアメリカツアーの経験を経ているため、今までとは違ったツアーになったように思う。
大きく分けると、西海岸は4年前の前回全米とカナダを一緒に周ったLONG KNIFEがサポートしてくれ、南部テキサスをOBSTRUCTIONとCRIATURAS、東海岸をHEAD SPLITTERがサポートとして一緒に周ってくれる形となり、北中東部のシカゴ、デトロイト周辺とカナダ、各バンドとの引き継ぎの間はFORWARDだけで行う4つのツアーを合わせたような形となった。
2004年の初めてのアメリカツアーでは、各地域ごとに運転手が変わり、地域によってはサポートしてくれるバンドがつくこともあったが、初めてのアメリカであるために右も左もわからず、アンプやドラムセットなどの機材もその日ごとに借り、場合によってはレンタカーも借りに行くというようなものであったが、今回はツアー全体をオーガナイズしてくれたLONG KNIFEのドラムでもあるキースが全てを整えていてくれたため、演奏にも集中することができた。
過去4回のアメリカツアーで、過酷なスケジュールであることは理解していたが、25日連続休みなしのライブというのは初めてである。2006年の2度目のアメリカツアーの際に、23日間で26回ライブというものがあったが、それと同等、もしくはより過酷なスケジュールになった。
ツアーで周る範囲としても4年前と同じ規模で、ほぼ全米とカナダというものなので、移動距離も半端ではない。しかし今回のツアーは、今までのアメリカツアーのようにニューアルバムを発売し、そのプロモーションと販促のために周るだけではなく、日本のバンドとして、アメリカに対してメッセージを伝えることを趣旨とするツアーにしたいと思っていた。そのために筆者の拙い英語ではあるが、MCでは毎回必ず歌詞の内容に関することを伝えるようにしてライブを行なった。どの街でもそれが観客に伝わっていると思えたことは、今回のツアーでの最大の収穫であったように思う。
必ず観客たちに投げかけていたことは「アメリカよ、戦争を作り出すのをやめてくれ」「アメリカ政府の言う正義とはなんだ? 俺には理解できない。アメリカの正義は胸糞悪い正義である」「日本の憲法には重要なものがある。戦争の放棄だ。アメリカよ、戦争を放棄するんだ。人類共通の敵は戦争そのものである」といった内容のものの他にも、放射能汚染の現状や無関心でいることは人を殺すことになるといったことなども伝え、最後にFORWARDの代表曲である「WHAT'S THE MEANING OF LOVE?(愛とはなんだ?)」を投げかけることで、今までのアメリカツアーとは違った観客の反応があったように感じた。ライブ終了後にも様々な観客から「驚いた」「その言葉は心に沁みた」など、今までにない反応が返って来たことで、思いが伝えられたという実感があった。
アメリカツアーといえば、ライブをやりパーティーで馬鹿騒ぎというのが定番である。いわゆる「HAVE FUN」の感覚であると思うのだが、同じ英語圏で隣り合うカナダとアメリカでは「HAVE FUN」の意味が全く違ったようにも感じた。パンクスという反社会的な立ち位置であるにも関わらず、政府や国家がすすめてきた政策が、子供の頃から住み続けている環境によって染み付いてからなのではないか? そしてそれは日本でも同じように起こっていることなのではないか? 自らを見つめ直す良い機会にもあった。
ツアーの途中からはMCで「アメリカよ。違うということを理解してくれ。違うということは新しいということなんだ。違うものがあることを理解してくれ」というようなメッセージも付け加えるようになっていった。
これはクリーブランドでのライブ終了後、会場のバーで呑んでいるときに、たまたまやって来たアフリカ系アメリカ人と話していて「俺の英語はひどいものなんだ。何か英語を教えてくれないか」」と言ったところ教えてくれた「DIFFERENT(違う)ってわかるか? DIFFERENT is NEW(違うってことは新しいんだ)」という言葉がきっかけになったものである。彼が笑顔で教えてくれたこの非常に深い意味を持つ英語は筆者の胸に突き刺さり、頭から離れない言葉となった。
ルイジアナ州ニューオリンズでのライブ終了後に、腹が減っていたので夜中に街にあるワッフルやパンケーキ、ハンバーガーなどを提供するチェーン店に行ったところ、店員も客も全員アフリカ系アメリカ人で、アジア人の筆者たちと運転手であるスパニッシュで入って行くと、客が露骨に「出て行け」というようなことを呟いている。なぜ、自分たちが受けた迫害や差別、偏見を他の人間に対して向けるのだろう。それがアメリカでの実情なのかもしれないが、非常に悲しく暗澹たる気持ちになった。