aikoのパフォーマンスに溢れる不思議なパワーの源にあるもの 『Love Like Pop vol.20』を見て
少し屈みながら低いメロディを正確に歌い、曲が進むに連れてちょっとずつ上半身を起き上がらせ、最後は天井の方を見上げ歌い上げる。目を細め、体を仰け反らせながら歌うその姿は、どこか苦しそうで、だが確かに歌手としての喜びを噛み締めるような恍惚とした表情を浮かべている。そして我々は、そのどこか柔らかなオーラから発せられる力に包まれ、心を解放していく――。
aikoのパフォーマンスにある、この不思議なパワーはいったい何だろうか。
今年デビュー20周年を迎えたaiko。日本の音楽シーンの第一線を張り続け、出す曲すべてがチャートイン。人気、実力ともに衰えを知らない。彼女くらいのキャリアになってくると曲が湿っぽくなってきたり、落ち着いてきたりするものだ。なので今年リリースしたアルバム『湿った夏の始まり』のタイトルを最初に聞いたとき、ちょっと不安になったものである。
しかし、そんなことは杞憂だったのは言うまでもない。11月30日、NHKホールで行われたライブツアー『LOVE LIKE POP vol.20』では、その小柄な身体から無尽蔵に発せられるパワーに、ただただ圧倒されるばかり。ステージを縦横無尽に駆け回り、バンドメンバーたちを躍動させ、観客を熱狂させる。今こそまさにaikoというアーティストの最も脂の乗った時期なのではないかと思ってしまうほど迫力があったのだ。
MCでは観客とのコミュニケーションを欠かさない。ファンの声を拾い上げ、笑いに変えて客席へ送り返す。大阪出身ならではのオチの付いた軽快なトークと、オーディエンスを楽しませるためなら下ネタも辞さないサービス精神。会場の空気は終始一体感で包まれていた。ただし、何もライブすべてを通してずっとアゲアゲムードなわけではない。この日のセットリストは、彼女のいくつかの表情を見せるものであった。
まず序盤は、「ストロー」「エナジー」とアップテンポなナンバーを続けて披露し勢いよくスタートダッシュを決める。カラフルなライティングによるお祭り感覚と、演奏陣の見事な疾走感が合わさって観客からは自然と手拍子が起きた。そして3曲目では中央の花道を進んでセンターステージで「あたしのせい」を歌唱。金管隊3人も加わり演奏陣も豪華になったところで、すでに会場の空気は満足感に溢れていた。
しかし、ここからは落ち着いた世界観へと変化する。「くちびる」「二時頃」「雨フラシ」と、”雨”や”夜”といったテーマをモチーフとした楽曲を、紫を基調とした照明によるしっとりとしたムードを漂わせるステージングだ。歌っている彼女の身体の柔らかな曲線が印象的で、”aikoの大人な魅力”が存分に発揮されていた。
一転して明るい曲調へ。「陽と影」「Loveletter」といった激しい曲調を軽快に歌い叫ぶ。時おり片足をひょいと上げてみたり、くるくると回ってみたり、ステップしたり、ジャンプしたり、しゃがみこんでみたり、とステージ上の彼女は休みなく動く。舞台を目一杯に使うことで躍動感が生まれ、会場の熱気はぐいぐいと上昇。ここで渾身のバラード「瞳」へ。それまでの溜まっていた熱気を一気に冷却させたこと、そして、大きな振り幅を見せていた分、この曲の壮大なスケールに会場全体が吸い込まれていく。前半のクライマックスと言ってよいだろう。中心に佇む彼女を見守るようにして会場がひとつになったのを感じた。