岡村靖幸とYUKI、“ドキドキとワクワク”に懸けるプライド ホットスタッフ40周年イベント2日目

ホットスタッフ『Ultra Boy Meets Super Girl』レポ

 こんな素晴らしい一夜だったのだが、この宴に3時間近く浸りながら僕の脳裡によぎったことについて、いくつか書き留めておきたい。

 イベントの間、思わず回想モードになったきっかけは、実は会場内のBGMだった。それは先攻の岡村の開演前のことで、僕が座席についた時点で場内に流れていたのは大澤誉志幸(当時の表記は大沢誉志幸)のヒットシングル「ゴーゴーヘブン」だった。曲はその後、BARBEE BOYSの「女ぎつねon the Run」、TM NETWORK「Get Wild」と続いていった。このアーティストたちは、いずれも80年代に登場したEPIC・ソニーの所属だった。そして岡村も、JUDY AND MARYおよびYUKIも、EPICからデビューした経歴の持ち主なのである。

 EPICは、現在ではソニー・ミュージックレーベルズという会社の傘下でEpic Records Japanという名のレーベルとなっているが、元はEPIC・ソニーというレコード会社だった。創立は1978年で、ということはホットスタッフと同い年になる。その歴史の中ではアイドルや歌謡ポップスもリリースしてきたEPICだが、音楽ファンに一番印象深いのは、やはり80年代以降の時代を先導したロック/ポップスの新鋭アーティストを多数輩出したことだろう。ちなみにデビューした年で言うと、岡村は1986年、JUDY AND MARYは1993年である。

 そして会場のBGMには、さらに粋な選曲がほどこされていた。岡村のセットの開始直前、およびその終了後に流れたのは吉川晃司の「ラ・ヴィアンローズ」だった。しかもそのあとには尾崎豊の「17歳の地図」も聴こえてきたのである。岡村ともども、彼らは80年代に新たな音楽シーンを作り出した男性ソロアクトたちであり、しかも三者は当時、お互いに近しい間柄にあったことが知られている。おそらくこの選曲はホットスタッフの制作サイドによるもので、そこには当イベントが、アーティストが生きてきた時代背景に意識を向けながら作られているという事実が感じられた。

 そして、もうひとつ。何よりもこの夜を体験して感じたのは、岡村とYUKI、2組のアーティストが持つ表現文体の強烈さと、その核にあるものの大きさだ。ふたりとも、もはやすっかり大人の年齢に差しかかっていながら、そのパワーは翳りを見せるどころか、さらに出力を増している。そこには彼、彼女が、自分の一生をかけて表現し、それをパフォーマンスしていくであろうことの覚悟のようなものまでが垣間見えた。

 岡村の歌の世界においてデカい存在感を持つのは、強靭なファンクビートとともに描かれる、異性との危なくも刺激的な交歓の悦楽だ。それは初期から現在まで歌われ続けているものではあるが、彼が年齢を重ねたことで、その際どさはさらに強まっていて、それが圧倒的なのである。たとえば「ステップアップLOVE」の〈まだ15の子くらいの大切な心〉、「ぶーしゃかLOOP」の〈たぶん23歳〉といったフレーズは、今この時点の岡村だからこそ刺激性が強い。決して若いとはいえない年齢に差しかかっているからこそ、そうした若さへの過剰な感情が、あるいは年齢差を超えて煮えたぎる衝動が、よりヤバい響きとなってビートを加速させている節がある。

 対してYUKIは、キャリアを重ねながら、自身のポップワールドをつねにレベルアップさせてきた。その中では、時にクールなイメージを強めたり、また、時には人間味を見せたりもしてきたが、一貫しているのはガーリーなキュートさ、あるいはスウィートネス。さらに、それらを踏まえた上でのポップネスと、ポジティブな歌の追求だろう。その磨き方はひとつも妥協されることなく、今もって新しいスタイルを更新し続けている。あちこちからYUKIに向けられる「かわいい!」という語感には、見た目や雰囲気、イメージだけではない、もっと巨大なエネルギーのようなものが込められているように感じる。

 そんなふうに思っていた今夜、このふたりにぴったりのフレーズを見つけた。まさに共演曲となった、YUKIの「JOY」の一節だ。

〈死ぬまでドキドキしたいわ/死ぬまでワクワクしたいわ〉

 ステージではこれを岡村が主に歌い、YUKIはアドリブのように絡んだ。まるでふたりのパッションが集約されたような言葉だと、僕は感じた。

 今あらためてそのシーンを思い出すと、先ほどのフレーズはふたりそれぞれにとっての業(ごう)のようなものにも思うし、また運命のようにも感じる。実は、決して軽々しい言葉なんかではない。ふたりはドキドキすること、ワクワクすることに、アーティストとしての生涯を、プライドを懸けて、日々挑んでいる。

 最後に、あらためてイベントのタイトルに目をやると、それはあまりに両者の核心を突いていると感じたことをお伝えしておこう。『Ultra Boy Meets Super Girl』……そう、どちらのアーティストも、並外れた才能とオーラを獲得しているのは言うまでもないことで、しかも岡村は少年であり、YUKIは少女なのだ。

 それは今もって。そして、きっとこれからもそうであり続けることだろう。

(文=青木優/写真=岡村靖幸:TEAM LIGHTSOME、YUKI:川田洋司、岡村靖幸 × YUKI:川田洋司)

■公演概要
『Hot Stuff Promotion 40th Anniversary MASAKA』
『Ultra Boy Meets Super Girl』
10月27日(土)日本武道館
出演:岡村靖幸、YUKI

40周年イベントオフィシャルサイト

■『40th Anniversary Magazine HOT STUFF HISTORY』
創立40周年のホットスタッフ・プロモーションが手がけたライブの記録を記したムック本「40th Anniversary Magazine HOT STUFF HISTORY」が10月25日に発売。
【コンテンツ】
・HOT EYE/1978年のホットな話題を集めてみた
・MASAKA ライブ直前インタビュー/YUKI、岡村靖幸、きゃりーぱみゅぱみゅ、けやき坂46、東京スカパラダイスオーケストラ他
・原宿70’S
・1978~2018のライブの歴史
・HEADZ、FUJI ROCK…ホットスタッフが手がけたイベント・フェス
・アラフォー世代に送るコラム集/音楽デバイス、紅白歌合戦、バックステージパス…etc

タイトル:40th Anniversary Magazine HOT STUFF HISTORY
ページ数:172ページ
出版社:マガジンハウス
価格:1500円(税込)
発売日: 2018年10月25日(木)

ホットスタッフ・プロモーション オフィシャルサイト

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