小室哲哉、最後の映画音楽作品を検証 シンセサイザーというタイムマシンが伝えるもの

 TM NETWORKとしてメジャーデビューした翌年の1985年に、小室は音楽家として映画『吸血鬼ハンター"D"』のサウンドトラックを手がけている。以降も、映画『ぼくらの七日間戦争』(1988年発売)、映画『天と地と』(1990年発売)、ミュージカル『マドモアゼル モーツァルト』(1991年発売)、ドラマ『二十歳の約束』(1992年発売)などの時代を彩ってきたサウンドトラックを、TM NETWORKの活動と並行して手がけるなど、多彩な才能を発揮してきた。もちろん、その後もglobeの活動と並行してたくさんのサウンドトラック作品を世に残した。

 小室は、これまで自身の音楽活動で振り返ることを良しとしなかった。TM NETWORK時代の逸話で言えば、ツアーを回る際には新規アレンジが楽曲に施され、原曲に忠実なアレンジを聴ける機会がほぼなかったぐらいだ。結果、数十曲ともなる複数バージョンが誕生した「Get Wild」が生まれたという経緯もある。時代に応じて扱う楽器もアレンジもジャンルもビートにも変化があった。そんな小室哲哉が最後に手がけた映画音楽は、自身の栄光の時代であった90年代へタイムマシンに乗って振り返るかのような俯瞰した視点からの作品となった。

 しかし、音楽は時を超えていく。昨年、浅倉大介と結成した“デジタル・オーケストラ”を提唱したユニット、PANDORAは未完のままだ。2018年の音でプログレッシブロックを、2人のシンセサイザーによってオーケストラのようなダイナミズムで表現した新境地のサウンド。あらためて小室哲哉の“ネクスト”を聴いてみたいなと、ラストナンバー「エピローグ」を聴きながら思いを馳せた。

■ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
Yahoo!ニュース、J-WAVE、ミュージックマガジン、Spotify、音楽主義などで書いたり喋ったり選曲したり考えたり。会員制サイト『BOØWY HUNT』で、関係者によるBOØWY伝説を裏付けるドキュメンタリー「BOØWY STORY ARCHIVE」を連載中。Spotifyで公式プレイリスト『キラキラポップ:ジャパン』を毎週火曜日更新で選曲中。
https://twitter.com/fukuryu_76

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