崎山蒼志が生み出す、他の何者にも似ていない音楽 宗像明将の『夏至 / 五月雨』評
もし何の情報もない状態で、7月18日に配信された崎山蒼志の「夏至」と「五月雨」を聴いたとしたら、私は彼が15歳の高校生シンガーソングライターだと気づく自信がない。
たとえば「五月雨」。アコースティックギターの激しい掻き鳴らし方、普通なら長年歌い続けないと生まれないような癖のある歌い方、聴き手に確実にフックするメロディ、抽象的であるもののイマジネーションの飛躍力の強さを感じさせる歌詞。そして、楽曲だけを聴いているとまるで音楽的な出自がわからない。
そして「わからない」というところに、才能の大きさを感じることになる。
崎山蒼志が大きな注目を集めることになったのは、5月9日に配信されたAbemaTVのバラエティ番組『日村がゆく!』の企画「第3回高校生フォークソングGP」だった。崎山蒼志は、自転車に乗れないという悩みを持つ朴訥とした高校生として登場したものの、「五月雨」を披露して多くの人々に衝撃を与えることになる。いや、朴訥とした高校生と呼ぶのは正しくない。彼の目の輝きは聡明すぎるのだ。
「第3回高校生フォークソングGP」にはスカートの澤部渡も出演しており、崎山蒼志を絶賛していた。不思議な話だが、崎山蒼志を初めて見たときの衝撃は、澤部渡を初めて見たときの衝撃によく似ている。2011年8月18日の下北沢SHELTERのステージに澤部渡が登場したとき、私は会場のスタッフがセッティングをしているのかと思ったのだが、そのまま澤部渡はエレキギターを抱えて光GENJIの「STAR LIGHT」を歌いだしたのだ。
澤部渡の音楽を正しく形容するのは容易ではない。古今東西の音楽を聴いて吸収し、膨大なインデックスとともに新たなものを紡いでいるのが彼の音楽だ。そして、他の何者にも似ていない。
同じように崎山蒼志の音楽も、他の何者にも似ていない。わずか15歳なのに。
ほどなく私は、焼津市で活動するミュージシャンにして長年の友人でもあるJIMMYの配信番組に、崎山蒼志が出演していたことを知る(崎山蒼志は同じ静岡県の浜松市在住だ)。しかも、中学2年生と中学3年生の頃である。特に2016年、中学2年生の頃の歌う姿を見て感じるのは、幼さの残る風貌とは裏腹に、他者を突き放すかのような視線だ。媚びというものが一切ない。堂々としている、という次元ではない。
この番組で崎山蒼志は、さまざまな音楽を聴いて、インターネットで検索したり本を読んだりしていると語っている。そして、好きなミュージシャンとして挙げているのはナンバーガールだ。
2017年、中学3年生の頃の動画では、さらにギターの演奏に磨きがかかり、コードの展開にも驚かされる。そして、ここで気になっているミュージシャンとして挙げているのは、韓国のバンド・HYUKOH(ヒョゴ)だ。かと思うと、YMOを聴いているとも言っている。
崎山蒼志は、ヴィジュアル系ロックバンドで音楽に目覚めたという。核心はそこからのリスナーとしての体験の豊かさだろう。YouTube以降の世代だからだと片づけてはいけない。前述のように、音楽関連の本も読んでいると言うのだから。