『stateSment』インタビュー
Yasei Collectiveが語る、NYレコーディングの充実感「一個の“盤”って感じが今までで一番強い」
Yasei Collective(以下、ヤセイ)のニューアルバム『stateSment』が素晴らしい。ニューヨーク・ロチェスターにあるスタジオ「The Green Room」に赴き、一週間で録音・ミックス・マスタリングまでをすべて終えたという本作は、もともとロサンゼルスでの松下マサナオと中西道彦との出会いを契機に2009年にスタートしたバンドが、9年かけてひとつの円環を描いたことを感じさせる、キャリアにおいての重要作である。
ヤセイはこれまでもジャズが現代におけるクロスオーバーであることを体現し続けてきたわけだが、今回改めて「Combination Nova」というテーマを掲げることによって、メロコアからトラップまでを自由に組み合わせ、非常にポップな、風通しのいい仕上がりへと結実させている。この“混ざり合うことで生まれる抜けの良さ”は、人種の坩堝であるニューヨーク、ロチェスターの空気がそのまま内包されているようであり、もう少し言えば、2020年に向けて坩堝化しつつある、未来の東京を描く作品でもあるかもしれない。(金子厚武)
「最初のコンセプトはいろんなジャンルを混ぜること」(斎藤拓郎)
――アルバム、素晴らしい仕上がりだと思います。ヤセイがアメリカでレコーディングすると聞いて、「もしかしたら、ちょっとマニアックな作品になるのかも」と思ったけど、むしろこれまで以上にポップだし、でも決してストレートというわけではなく、演奏は非常に濃密で、とても一週間でマスタリングまですべてを終わらせたとは思えないなと(笑)。
松下マサナオ(以下、松下):ミチくん(中西道彦)と僕はもともとロスで出会って、帰国してからバンドを始めたんですけど、僕、頭が固い人間なので、「次アメリカに戻るときは、絶対プロミュージシャンとして戻る」って決めてて。旅行で行く分には良かったんですけど、たまたま機会がなくて、今回10年ぶりのアメリカだったんですけど、ロスで同期だったドラマーのマット・ラマーマンのスタジオで録れることになって、ニューヨークも初めてだったし、そこで録音すること自体が今回の僕の中のテーマだったんです。
別所和洋(以下、別所):音楽的なテーマで言うと、「Combination Nova」って曲があるんですけど、そのタイトル通り、それぞれの音楽的土壌というか、いろんなものをミックスする、混ぜ合わせるっていうのは意識してました。たとえば、「Silver」で後半2ビートになって、パンクっぽくなった裏で、僕がジャズの速弾きをしてたり。音をかなり重ねたので、どこに何を入れるかはすごく気を使って精査して、その上でアメリカに行って、バーッと録った感じ。準備期間は大変だったけど、“50m走のために、半年準備した”みたいな感じでしたね。
――作品の出来に関して、斎藤さんはいかがですか?
斎藤拓郎(以下、斎藤):いろんな意味で完成度が高いというか、ポップだし、ミックスの具合も好きな感じだし、すごく満足してます。別所くんが言ったように、最初のコンセプトはいろんなジャンルを混ぜることだったんですけど、それが結果的にすごく自由な広がりを見せたなって。これまでは曲を作るにあたって、自分たちに縛りを設けるというか、「あからさまにポップになり過ぎないように、難し過ぎないように」とか、微妙なとこを突いてたんですけど、今回のコンセプトを意識することによって、自由度が広がって、今までは一発録りにこだわってきたけど、オーバーダブもありになったり、個人的には、メロコア的なギターも解放されたり(笑)、今までで一番楽しかったですね。
中西道彦(以下、中西):オーバーダブに関しては、しようと思ってしたっていうよりは、自分たちが欲しいところに音を入れていったら自然とそうなっただけっていうか、今まで以上に“自分たちが聴きたいものを作る”って感じが強くて、それに尽きるのかなって。大枠で「Combination Nova」っていうコンセプトは決めてたけど、それって結局はこれまでもヤセイがやってきたことであって、それをどう表現するかって考えたときに、今回のやり方になった。その過程として、オーバーダブもあったって感じなんですよね。
――松下さんは今作の音楽的なテーマについてはどう捉えていますか?
松下:「Combination Nova」っていうテーマはあったけど、ミチくんも言ってたように、それって今までやってきたことでもあるんですよね。僕としては、新しい音楽なんてものはもうないと思ってて、結局組み合わせで新しいものができた風になるだけ。あとは見せ方によって聴こえ方が変わったりもするから、そこも含めて「新しい音楽」って言ってる人たちもいるけど、僕はそこに対する欲求はなくて。それよりも、新しい組み合わせをやってる音楽に対してかっこいいなって思うことが多いから、自分たちもそれをやってて、今回はそれがより色濃く出るようにした。こんなにプリプロを詰めたのは初めてだったけど、その分向こうに着いてからの一週間は、僕としては“作業”に近かったかな。
――レコーディングにおける、日本との違いをどんな部分で感じましたか?
松下:日本だと、「23時までやって、一回帰って、また朝11時に集合」みたいな感じなんですけど、向こうは23時になるとマットの友達が「乾杯しようぜ」ってスタジオに遊びに来て、一緒にバーに行くんで、「終わったら終わり、また明日」って感覚が日本とは全然違って。ある意味、逃げられないというか、楽しまざるを得なくて、ストイックになりきらないっていうのが、今までのヤセイとは全く違うところ。「録音中は録音だけだから、お前らマジ集中しろよ」ってスタンスで全員やってたのが、「その録音終わったら、また明日やればいい」って、エンジニアとその友人、こっちのスタッフ含めてみんなで飲みに行くっていう。ティザー映像でもわかると思うんですけど、すごくリラックスした感じでやれました。
Yasei Collective『stateSment』ティザー映像
――その雰囲気も作品の自由度に繋がったのかもしれないですね。現地の人たちはヤセイの楽曲に対してどんなリアクションをしてましたか?
松下:みんな口を揃えて、「こんなの聴いたことない」って言ってくれて、それは嬉しかった。俺らは本国(US)から盗んできたものを、俺らなりにアレンジして、ヤセイとしてやってきたわけだから、「この10年は間違ってなかったな」って思えましたね。僕は自分のルーツとしてジャズが大きくて、ヨーロッパのジャズもかっこいいけど、やっぱりアメリカでできた音楽だから、ニューヨークの全員が切磋琢磨してる中でできあがっていく、あの様が僕の中のジャズなので、ネイティブな連中にすげえって言ってもらえるのはホントに嬉しかったです。
中西:アメリカで得たものを、日本で熟成させて、もう一回向こうに持って帰るみたいな、ここ2人(中西と松下)はそういう気分が大きかったと思います。
松下:一緒に行ったミックスエンジニアの葛西(敏彦)さんのミックスに対しても、向こうのトップエンジニアの連中が「これはすごい」って言ってて、ものすごく嬉しかったし。アメリカから帰国した当時は、「やっぱり世界は広い」って思ってたけど、今はどんどん狭く感じるっていうか、世界のトップクラスのドラマーと日本で共演したり、今回ニューヨークに行ったりしたことによって、さらにそういう風に感じられました。