Yasei Collectiveが語る、NYレコーディングの充実感「一個の“盤”って感じが今までで一番強い」

ヤセイが語る、NY RECと制作秘話

「僕らなりの起承転結みたいなのが実はすごくある」(中西道彦)

――「Combination Nova」という大枠のテーマがありつつ、楽曲自体はこれまでのアルバム同様に一曲一曲を突き詰めていった感じでしょうか?

松下:そうですね。まずは単曲でのこだわりを強く持ってたんですけど、今回は最初から曲順も組んでアメリカに行ったので、これまでより作品感が強くなったんじゃないかと思います。実はマスタリングで曲順が変わっちゃうミスがあったんですけど、それも逆によかった。ダビングも含めて全部同じスタジオだし、結果として、一個の“盤”って感じが今までで一番強いと思いますね。

別所:今回はわりとそれぞれが曲を作ってるんです。今までは拓郎の比重が大きかったと思うんですけど、僕も2曲、ミッチも2曲、マサナオも1曲作ってて。

別所和洋

――松下さんが作ったのは「The Golden Fox」ですね。

松下:僕はみんな作ってるのにリーダーの自分だけ作らないのは申し訳ないと思って、80sのヒップホップみたいなのをスマホのアプリで打ち込んだだけなんですけどね。それをみんなでジャムったらすげえ曲になって、「ありがとうございます!」みたいな感じ(笑)。

――中西さんは「Okay」と「O.I.A.K.A」。

中西:僕のデモもラフで、「Okay」はテーマとサビだけ作って持って行って、「あとはバンドで広げて」って感じでした。でも、「O.I.A.K.A」のビートは指定で、あのビートの感じと、ベースがワブルになってたりするのは、最近のトラップとか、「そこ持ってくんの?」みたいなのを取り入れたくて、その辺はわりと意識的でした。

松下:「O.I.A.K.A」は未だに何拍子なのかよくわかんないまま叩いてる(笑)。一応4/4だけど、ドラムはすごくスリップしてて、そのスリップの仕方も普通じゃない。だんだんずれて行って、Bセクションで6/8になるんですけど、最初は形で覚えて、最終的にクリックと一緒に演奏したら、「こうなってるんだ」って感じでした。

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――トラップを意識したのは、「Combination Nova」というテーマがあったからこそ?

中西:まあ、あれ聴いてトラップだと思う人はほとんどいないと思うんで、「てへ」みたいな感じです(笑)。トラップとかって、ちょっとチージーな見られ方をするじゃないですか。それをいかにハイコンテクストに持って行くかっていう。たとえば、今のジャズミュージシャンの中にも、トラップっぽいテイストを取り入れてるって公言してる人がいるけど、それを聴いても、「これはそのままですね」ってパターンが多くて。なので、“俺はもっとひねってやる”っていう。まあ、結局僕のプレイ自体は大したことやってないんですけど(笑)、僕は聴く人が解釈できる隙間があるものがいいなって思ってて、かっちりメトロノームみたいに音が置いてある状態じゃない、有機的なものを求めてるんです。そういう意味での、ハイコンテクストってことですね。

松下:機械的過ぎるとつまんないよね。打ち込みみたいなことを人力でやってるわけだから、もちろん機械的にはなるんだけど、そこは上手く線引きしないといけなくて、常にテイスティでありたい。本気でやってるんだけど、絶対ネタでやってるってわかるラインっていうか、音色もフレージングもギリギリ痛いけど、わざとだってわかる。そこには僕らなりのOKラインが常にあって、今回そこもすごく成功してると思います。

松下マサナオ

――斎藤さんが書いた「Splash」はアルバムのリード曲になっていますね。

斎藤:「Splash」はレコーディングの1~2カ月前に作りました。ディレクターと飲んだときに、「もう一曲書け」みたいなことを言われて、「あ、はい」って(笑)。メロディとかは今までの延長線上なんですけど、新しいサウンドを意識してデモを作って、サビやAメロの後で鳴ってるシンセの音とかは、今まで使ったことないような音をかなり重ねてるんで、新しいところに行けたかなって。

松下:シンセの音作りはSPECIAL OTHERSの芹澤(“REMI”優真)さんに相談したのもでかいよね。

別所:そうですね。あとすごくポップな曲ですけど、合間に何か必要だなってなったときに、コンテンポラリーなジャズっぽいピアノの音を入れて、それはすごくハマったなって。

Yasei Collective「Splash」MV

――斎藤さんはブログで「アルバムの一番最後の曲に今僕の言いたいことが詰まっております」と書いてましたね。

斎藤:「David」は一番エモいというか、レコーディングのときに一番感傷的になった曲で、聴くと楽しかったレコーディングを思い出すんですよね。これがラストっていうのは、最初から決まってました。

松下:「Trad」で始まって、「David」で終わるっていうことだけは、制作段階から決まってたんです。

中西:「Trad」のイントロのカウントはデモからあの状態で、僕あれめちゃめちゃかっこいいなって思ってて、あのカウントも曲の一部ですね。

松下:でも、あのカウントと、その後にやってる内容全然違うからね(笑)。あれカウントする自分にカウントしないといけないんだけど、確かにかっこいい。あと「David」で最後に8ビートに行くのもかっこいいんですよ。ヤセイは最後に4/4に戻って解放される曲がよくあるけど、あれは特にその感じが強い。「O.I.A.K.A」も最後で「B’zか!」みたいなリフを弾いてたり、そういうのがいいんですよね。

中西:僕らなりの起承転結みたいなのが実はすごくあるんです。自分たちの中ではめちゃめちゃ整合性が取れてる。それが伝わってるかどうかはわかんないけど。

中西道彦

――“結”の爆発力っていう意味では、以前の取材で松下さんが「下半身の練習をめちゃめちゃした」って言ってて、その成果がすごく出てるように感じました。

松下:そうかもしれない。音量も全然変わったし、スティックのウェイトも上げたし、ペダルの設定とかにしても、今わりとロック寄りなんですよね。でもやってる内容は前よりも細かいっていう。ドラムに関しては、結構アンサンブルの中のドラムっていうか、今回は別所のシンセとかの方が前に出てる。ほかのインストバンドよりはそれでも目立ってるけど、でも僕がガーって出るアルバムではなく、控えめです。その代わり、ツアーでは無茶くそ叩いてやろうと思ってるんですよ。

――(笑)。

松下:「何でそんな怒ってんの?」とか「何でそんな楽しそうなの?」って言われるくらいの演奏がしたい。もともとマーク・ジュリアナとかネイト・ウッドに憧れてヤセイを始めたけど、今はどんどんフィジカルなドラマーっていうか、何が起こるかわかんないタイプのドラマーになりたいんですよね。今まで以上におもちゃ箱をひっくり返した感を出したいけど、でもそれをよく聴くと、全部ちゃんとハマってるみたいな。「馬鹿そうにしてる頭いいやつ」ってドラムを叩きたくて、今回のツアーではそれをちょっと出せるかな。

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