「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第43回 『Girls Are Back In Town VOL,1』
フィロソフィーのダンス、生バンド編成ライブで到達した“新しい次元”
もうひとつの新曲「ライブ・ライフ」は、ディアステージのYumiko先生による振り付け。奥津マリリの脚を十束おとはが持ちあげると、その下から日向ハルが出てくるなど、ユニークな振り付けだ。でんぱ組.incが2018年にリリースした「おやすみポラリスさよならパラレルワールド」では、他のメンバーに身体を支えられて藤咲彩音が宙を歩くシーンがあるが、そうした複数人ならではの身体表現を見せる振り付けだった。
そして本編ラストの「すききらいアンチノミー」では、宮野弦士のギターがナイル・ロジャースを彷彿とさせるカッティングを聴かせた。「すききらいアンチノミー」はフィロソフィーのダンスのデビューシングル。この楽曲とともにフィロソフィーのダンスの物語は始まったのだ。
一旦閉じた幕が再び開いてアンコールに。「ジャスト・メモリーズ」では、福田裕彦が作曲者である宮野弦士のキーボードで演奏。そして、この日の「ジャスト・メモリーズ」の一番は、フィロソフィーのダンスのボーカルとキーボードだけによるものだった。
最後のMCでは、フィロソフィーのダンスの4人がそれぞれに思いを語ったが、なかでも十束おとはが生演奏で歌うことになって円形脱毛症になったという話には驚かされた。かと思うと彼女は、「彼女ができないとか、仕事ができないとか、いろいろあると思うけど私を見て元気を出してください!」と笑わせた。
アンコールの最後は、フィロソフィーのダンスの最新の代表曲となった「ダンス・ファウンダー」。宮野弦士はこの日は全編でコーラスも担当していた。そしてアウトロでのファンのシンガロングは、フィロソフィーのダンスというグループの未来を飾るものとして感じられた。
アイドルに生演奏が必要かは、さまざまな意見がある。しかし、『Girls Are Back In Town VOL,1』東京公演では、否定的な意見が出ようがない次元にまで到達していた。フィロソフィーのダンスはリハーサルでバンドの生演奏を初めて聞いたとき泣いたという。彼女たちはファンの後押しによって新しい世界へと飛びこんだ。フィロソフィーのダンスは、ファンクやR&Bといった音楽性とともに語られ、多くのミュージックフリークによって支えられてきたが、彼女たちは遠くないうちに、そうした形容をも不要とする次元に到達するのではないだろうか? それはまだ予感にすぎない。ただ、満杯のLIQUIDROOMでの熱狂はそんな予感を確信に変えるのに充分だったのだ。
(撮影=新元気)
■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter