「宗像明将の現場批評〜Particular Sight Seeing」第39回 『Do The Strand VOL.3』
フィロソフィーのダンスは今、転換点に立っている 3rdワンマンから見えたグループの目指す先
フィロソフィーのダンスというグループは、「アイドルがファンクを歌う」というコンセプトを掲げて活動してきた。そして、2015年8月6日のデビューライブ以降、フィロソフィーのダンスが私たちに体験させてきたのは、ファンクに根づいた音楽的な昂揚感のみならず、アイドルとヲタの「現場」にしか生まれえないような熱狂でもあった。フィロソフィーのダンスとは、いわばファンクとアイドルとヲタのキメラのようなグループなのである。
そうしたアイドルシーンに根づいてきたフィロソフィーのダンスの状況が静かに変わりだしている。ニューシングル『ジャスト・メモリーズ』は、日向ハルのボーカルをメインに据えたバラード。しかも、日本のR&Bシーンのさまざまなアーティストを凌駕してしまいかねない楽曲なのだ。「ジャスト・メモリーズ」のMV制作のためのクラウドファンディングも行われた。
フィロソフィーのダンスは、ニューシングル『ジャスト・メモリーズ』をリリースした今、確実に転換点に立っている。この先の彼女たちが目指すのは、より広いJ-POPのフィールドであるべきだ。もちろんヲタは全員抱えたままで。
そんな転換点の話だ。2017年7月15日、新宿BLAZEでフィロソフィーのダンスの3回目のワンマンライブ『Do The Strand VOL.3』が開催された。前述のように2015年に活動を開始したフィロソフィーのダンスだが、初めてのワンマンライブは2016年11月20日と、現在のアイドルとしてはむしろ遅い部類だった。
しかし、2016年11月20日に原宿アストロホールで開催された『Do The Strand VOL.1』(当日のレポート)以降は、2017年3月19日に渋谷WWWで開催された『Do The Strand VOL.2』、2017年7月15日の『Do The Strand VOL.3』と、ワンマンライブのペースを上げてきている。そこには、ウルフルズ、氣志團、ナンバーガール、Base Ball Bear、相対性理論などを送りだしてきたことで知られる加茂啓太郎による、プロデューサーとしての戦略もあるだろう。その戦略が正しいことを証明していたのが、満員の新宿BLAZEだった。
ライブの冒頭は、英語のセリフとSEでスタートした。フィロソフィーのダンスは、2015年8月6日のデビューライブで、Deee-Liteの「Groove Is In The Heart」を登場時のSEとして使っており、2016年末まで使っていた。
それも『Do The Strand VOL.3』ではすでに一新され、フロアもライブというよりは巨大なパーティーのような盛りあがりに。開演と同時に熱気に包まれたフロアに向けて最初に歌われたのは、「オール・ウィー・ニード・イズ・ラブストーリー」。作編曲を宮野弦士が担当した楽曲で、1960年代モータウン風味の中にアメリカ南部の香りもするサウンドだ。そこにファンの熱く激しいコールが入る。<モータウン・レコード>の創設者、ベリー・ゴーディ・ジュニアに見せたくなるような光景だ。
平均身長が低いフィロソフィーのダンスは、ステージに4つのお立ち台を設置して、そこに登って歌うことも。結成当初は、奥津マリリと日向ハルがメインボーカル、佐藤まりあと十束おとはがサブボーカルという位置づけだったが、現在ではそれを忘れさせるようなボーカルの安定感が全員にある。
マイクトラブルで、冒頭から佐藤まりあの声がマイクから出ない事態も起きたが、佐藤まりあのソロパートでは、日向ハルが機転を利かせて、自分のマイクを佐藤まりあに向けた。こうしたトラブルを乗り越える力も、多数のライブをこなしてきた成果だろう。
「告白はサマー」は、イントロのキーボードやエレキギターが1980年代AORを彷彿とさせる楽曲。そして、サビの<告白はサマー>という歌詞でファンも「サマー!」と叫んだり、横移動しながら「オー、ハイ!」と叫んだりするのはフィロソフィーのダンスのライブらしい光景だ。「はじめまして未来」は軽いソウル風味が利いた楽曲。
そして、「好感度あげたい!」はフィロソフィーのダンスのファンク・グループとしての面目躍如と言いたくなる代表曲のひとつだ。この楽曲も作編曲を宮野弦士が担当。イントロにファンのMIXが入り、日向ハルが「踊れー!」と叫ぶと、よりフロアの熱気が増していった。
1980年代ロックの手触りがするサウンドなのが「パラドックスがたりない」。そこにフロアからのMIXやケチャが迷いなくミクスチャーされていく。
「バッド・パラダイム」は、『ジャスト・メモリーズ』のカップリング曲。他の楽曲に比べてBPMが遅く、じっくりと汗がにじみだすかのようなファンクナンバーだ。ライブでは、奥津マリリによるボーカルの繊細なニュアンスが光った。
フィロソフィーのダンスにとって「バッド・パラダイム」はもっともエッジの尖った楽曲だ。このBPMまできたら、P-FUNKももうすぐかもしれない……と過剰な期待もしておこう。
その「バッド・パラダイム」からノンストップでつながれたのが「アイム・アフター・タイム」だ。この日のもっともディープなファンクゾーンを形成していたのがこの2曲の流れだった。
さらに「アルゴリズムの海」は、フィロソフィーのダンスの作詞をすべて担当しているヤマモトショウが作曲も担当した楽曲。タブラとシタールの鳴るイントロから展開される「アルゴリズムの海」もまた遅いBPMでじっくりと聴かせる楽曲だ。それに対して、BPMが一気に上がる「熱帯夜のように」はさながらデジタル・ファンク。
この日のライブでもっとも驚いたのは、「コモンセンス・バスターズ」のイントロだ。SMAPの「Fly」で知られる野戸久嗣が作曲し、宮野弦士とともに編曲した「コモンセンス・バスターズ」が、カーティス・メイフィールドをイメージしていることは加茂啓太郎が語っていた。ところが、この日はイントロがそのままカーティス・メイフィールドの「Move On Up」だったのだ。思わず「Move On Up」のカバーが始まったのかと思うと、イントロが終わると同時に「コモンセンス・バスターズ」になるという大胆な技が披露された。「一杯食わされた」と思うような見事なアレンジだ。
そしてメンバーが一旦ステージを去り、インタビュー映像を挟んでから後半戦へ。白をベースにした新衣装で登場したフィロソフィーのダンスは、スペシャルゲストを招く。そのゲストとは、12歳のギタリスト、Li-sa-X。そして、彼女のエレキギターとともに始まったのが、もともとは夏フェス向けの楽曲として制作された「DTF!」だった。「Van Halenっぽい」と書くのがためらわれるほどVan Halenな楽曲だ。Li-sa-Xのギターソロでの早弾きに、フロアからは感嘆の声が上がった。