『第6回アイドル楽曲大賞2017』アフタートーク(後編)
Task have Fun、フィロソフィーのダンス、sora tob sakana……2018年期待のインディーズアイドルは?
ピロスエ氏、岡島紳士氏、宗像明将氏、ガリバー氏による、4年連続となる『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会の後編。前編ではメジャーアイドルのランキングからシーンの現在について語ってもらったが、後編ではインディーズアイドル部門の結果から、2017年のアイドルシーンと2018年のブレイク候補などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)※取材は1月3日に実施。
「横ノリで盛り上がる現場というのはいいですよね」(ピロスエ)
ーー『第6回アイドル楽曲大賞2017』、インディーズ部門の1位はTask have Fun「3WD」でした。
宗像:「3WD」はみんなが1位を予感していましたね。Task have Funは、夏のアイドルフェストップバッターである『アイドル横丁』で、「3WD」というフロアボムを叩き込んで、今年の勝負が決まった感じがあります。あそこが関ヶ原でしたね。ドラムのキックの軽さや、チープなシンセのブラス音など、サウンド的には洗練されたものとは言い難いところではありますが、それを問われずにぶっちぎりで1位になった。なぜなんだろうと思いながら聞いていると、ついつい体が(サビの振り付けをしながら)こうなっちゃうんですね(笑)。
ーーチョップの振り付けはマネしたくなります。
宗像:冒頭の「タスク行きます!」ってセリフも、横移動のステップも、フックの塊なんですよね。アイドルには「振りコピ」のカルチャーがありますが、それにしてもライブで大変な盛り上がり方をしているんです。
ガリバー:音に関しては、アイドルネッサンス、フィロソフィーのダンスが並ぶ上位陣の中で比べ物にならないくらい荒い。でも、いわゆる現場の楽しさがポイントに繋がっているんですよね。
宗像:歴代のインディーズ部門1位の中で最も音源を持ってる人が1番少ない曲かもしれない。現場(と一部店舗)にしか盤がないし、配信もmoraだけ。流通もすごく限られていて、特殊な曲なんですよね。
ピロスエ:低予算を逆手に取ったようなMVの作りも、ウケた要因かも。セット等が無くて黒バックでメンバーが歌い踊っているだけなんだけど、テロップの入れ方などによってスタイリッシュな仕上がりですね。在宅派の人も「Task have Funの曲が話題になってるぞ」と聞きつけてMVを見に行くと、その印象を損ねるようなものにはなっていないと思います。
岡島:アイドルファン的に「TIFなどで一番売れたのは誰か?」という視点で、Task have Funがちょうどいい位置にいたというのも大きいでしょうね。ライターやインフルエンサーが記事の中でグループの名前を出していくと、また新しい層に伝わっていくわけですし。夏フェスが終わった後の10月には新宿BLAZEでワンマンライブを行っていました。
ガリバー:そのライブがプレミアチケットになるくらい、勢いはありましたね。
岡島:あと、1位になったのは、強力な対抗馬がいなかったのもあるかもしれません。アイドルネッサンスは、オリジナルの4曲がどれも良くて、ファンの票が割れてしまったことも影響していると思います。
宗像:2014年にアイドルネッサンスの「17才」が1位になった時、唯一僕が「カバーが1位でいいのか?」と苦言を呈したわけですが、その彼女たちが最高のオリジナル曲を出したという。ミニアルバム『前髪がゆれる』は文句のつけようがありません。
ガリバー:でも、対バンでもオリジナルは1、2曲ぐらいしかやらないんですよ。カバー中心のセトリなので、もっとオリジナル曲に自信を持っていいと思う。カバーによる“名曲ルネッサンス”も続けている分、オリジナルだけにしたら、他のアイドルと同じになってしまうから、そこのバランスは難しいところですね。しかし、小出(祐介/Base Ball Bear)さんの書き下ろした4曲が、本当に素晴らしいと思いますね。
岡島:もともとはシングル用に1曲だけの発注だったんですよね。でも小出さんから4曲をパターンとして運営に提出したら、4曲とも採用されたという。アイドルネッサンスの1stシングル「17才」(Base Ball Bearの楽曲)が小出さんの曲で、初オリジナル曲も小出さん、というのはファン的にも納得できるストーリーだったでしょう。小出さんも楽曲制作にあたり、YouTubeにあるアイドルネッサンスのチャンネルの膨大な量の動画を全て観たそうで。そうした強い愛情やこだわりを感じさせる4曲になってると思います。
宗像:アイドルの運営は、クリエイティビティを高めることに積極的ではない人たちも少なくないので、アイドルネッサンスは突出した力を持っているように見えます。
ガリバー:その流れで言うと、フィロソフィーのダンスはプロデューサーの加茂(啓太郎)さんのプロデュースもあってか、2017年も素晴らしい作品をリリースし続けました。
宗像:3位の「ダンス・ファウンダー」はアルバム『THE FOUNDER』のリード曲としてできたもので、分かりやすくファンクっぽい雰囲気かつ、4人の歌唱力が活きる曲で、「新しいダンスを踊らせてあげる」というシンプルなメッセージが打ち出されるなど、いろんな要素が積み重なっている曲です。それに加え、フィロのスは現場が非常に強い。アイドル×ファンクのマーケットがなかなか厳しいなかで、勢いのあるライブをしてくれます。先日のライブでも最前列でトランス状態になっているファンがいて、すごく胸を打たれました。
ピロスエ:やっぱりどうしても縦ノリの曲の方が盛り上がりやすいですが、横ノリで盛り上がる現場というのはいいですよね。
宗像:同じフィロのスで13位に入っている「ベスト・フォー」は、イントロの元ネタがボズ・スキャッグス「Lowdown」ですから。AORも参照している。
ガリバー:これまでアイドル楽曲大賞上位の常連だったEspeciaが、2017年3月に解散して。フィロのスは、Especiaと入れ替わるように入ってきたイメージがあって、曲調的にも横ノリの近しい感じはあると思っているんですよね。
宗像:そこでさっきの現場の話に戻すと、女子流でもEspeciaでも実現し得なかった、アイドルオタクのノリを全開で出せるのがフィロのスの特徴かもしれない。多種多様な人が集まって発信力の強い現場を東京中心に作り上げてきている最中のように見えます。
ガリバー:オサカナちゃん(sora tob sakana)も遠征は少ないけど、しっかりと地盤固めをしている印象です。
岡島:sora tob sakanaはメンバーが幼いイメージなんですけど、もうほとんどが高校生なので、今年が勝負かもしれないですね。
ーー2017年のsora tob sakanaは、マスロックのバンドを中心としたイベント『BAHAMAS FEST』にも出演していました。
宗像:そこに出て文句をつける人もいないくらいの領域に行っていると思います。ポストロックの音楽的な部分はグループのプロデューサーである照井(順政)さんが、フィジカルな部分はバンドが担っていて、それに加えてメンバーが歌い踊るというフォーマットは、世界に彼女たちしかいない。
ガリバー:そんな照井さんをフックアップ(「春の嵐」の作編曲を担当)したエビ中運営はすごいですよね。
岡島:それについては発表イベントで詳しく話しましたが、今年は照井さんがブレイクした年だったと思います。話題となったテレビアニメ『宝石の国』(TOKYO MX)主題歌のYURiKA「鏡面の波」を制作したり、既にアイドル業界以外にも進出している。元からハイスイノナサなどのバンド活動を含め、音楽的評価の高い人でしたが、正直今のアイドルシーンの作り手としては、数段突出した力のある人だと思います。また、知名度のあるメジャーアーティストに楽曲制作の依頼をすることの多いエビ中が、照井さんをフックアップしたのもすごいです。エビ中の楽曲選びのセンスは最初期から変わりなく素晴らしい。
ーーそして、8位のlyrical schoolはインディーズに戻ってきました。
ガリバー:新体制のリリスクは最高ですよ。新メンバーが上手くハマって、アッパーチューンも多いし。
宗像:僕の周りには旧来のヘッズが多いから、今の体制にポジティブ層とネガティブ層がいるんです。昔の曲を振り付きでやらず、よりヒップホップっぽいスタイルでパフォーマンスしていることに、賛否も分かれている印象で。
ガリバー:そう思いたくなる気持ちは分かるんですけど、過去との比較を強く感じてしまわない形で、全く別のグループの印象になってると思います。
宗像:そういう視点のほうが楽しめますよね。5位のNegicco「愛は光」に関しては、KIRINJIの堀込高樹が作詞・作曲。堀込高樹が作るコード進行は好きなので、個人的にも評価が高いです。
ガリバー:歌詞が素晴らしいなと思いますね。Negiccoはここ数年、地元・新潟を拠点にしながらバランス良くやっていると思いますし、そろそろ目標に掲げている日本武道館公演も見えてきているんじゃないかと。