KAT-TUN、『タメ旅』復活から感じる新たな成長物語の始まり 充電期間を経て一段上のレベルへ

 こうしてみても、彼らがそれぞれ“充電”中に見せた成長には目を見張るものがある。そこには常に、活動休止中のグループを必ず再始動させるという強い意思が感じられた。この間、2人ずつで共演する場面などもあったが、そうしたときにもグループへの思いが自然ににじみ出ていた。

 『プラス』の初回にも、その成長ぶりははっきりと見て取れる。番組の復活を知らせるためサプライズで登場した「天の声」が、バラエティの勘が鈍ってしまっていないか心配して3人それぞれをおなじみのスタイルでいじり始める。すると彼らは「正解」を返すだけでなく、予想を上回る見事な返しで「天の声」を喜ばせる場面もあった。地上波時代の『KAT-TUNの世界一タメになる旅!』にはまだバラエティ慣れしていないKAT-TUNの成長物語の側面があったが、“充電”期間を経てそれがこの『プラス』では一段上のレベルで続いていくことを予感させた。

 そこには、地上波時代に培った3人とスタッフの信頼関係も垣間見える。田口淳之介の脱退発表があったのは『KAT-TUNの世界一タメになる旅!』がまだ放送中のことだったが、その後も4人での出演は続いた。それだけでなく、脱退が番組中にネタとして堂々と話題にされる場面さえあった。その点この番組は、ドキュメンタリー的要素を含むKAT-TUNの成長物語でもあったのだ。

 『プラス』の初回配信でも、メンバーの人数を確認する番組お約束の「点呼ネタ」が繰り広げられている。そのようなくだりを遠慮なくやれること自体がスタッフとKAT-TUNの信頼関係の証だろう。言い方を換えれば、それだけこの番組は、KAT-TUNという成長物語にとって特別なものになっているのである。その物語のなかにはファンもいる。いや、むしろファンの存在はそこに絶対に欠かせないものだ。地上波時代の最終回、ヘリコプターに乗った3人に向けてファンたちが地上からメッセージの書かれたパネルを掲げた。そこにあったのは「KAT-TUN 充電だよね?」「放電するなよ!!」の文字。それを目にした3人は、「放電しねえよ!!」「絶対戻ってくるぞ!!」と口々に叫んでいた。

 そしてその約束は果たされた。だから今回、『プラス』の最初の旅の行先をどこにするかファンに委ねられたのも、地上波時代からの物語の続きという観点から見れば必然だったと言えるだろう。場所は3人が再始動のライブを行っている東京ドーム。再び登場した「天の声」から改めて番組復活がファンに告げられ、さらに「ファンに決めてもらいたい大事なこと」としてファンの拍手で旅の行先が決定された。それはまさに、KAT-TUNの新しい成長物語の始まりにふさわしい演出であった。

■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。

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