MONDO GROSSOが『Attune / Detune』で示した音楽的発展 宇野維正が前作との関係性を考察
MONDO GROSSOとしては実に14年ぶりの作品となった昨年のアルバム『何度でも新しく生まれる』のリリース時におこなった、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦(同作には収録曲「ラビリンス」の作詞で参加。また、大沢伸一は東京スカパラダイスオーケストラのニューアルバム『GLORIOUS』にリミキサーとして参加している)との対談で、大沢伸一は自身の活動について、実は「行き当たりばったり」であること、そして「音楽でやりたいことが、まだまだたくさんある」ということを語っていた。(参考:大沢伸一×谷中敦が明かす、満島ひかりとの「ラビリンス」制作秘話「このテイクが一番“歌っていない”」)
その時にはまさか翌年にこんな作品と出会うことになるとは思わなかったが、今になってみれば、あの時の「行き当たりばったり」(実際のところはわからないが)という言葉にも「音楽でやりたいことが、まだまだたくさんある」という言葉にも深く頷かずにはいられない。14年ぶりにアルバムをリリースしたMONDO GROSSOが、今度はなんと9カ月ぶりにアルバム『Attune / Detune』(アチューン / デチューン)をリリースする。
UAやChara、代表作の数々のプロデュースを手がけたbirdから、安室奈美恵や椎名林檎、最近では私立恵比寿中学まで。90年代半ば以降、日本の音楽シーンにおける最も重要プロデューサー/アレンジャーの一人として活躍してきた大沢伸一。昨年の『何度でも新しく生まれる』では、まるでこれまでのキャリアを総括するかのようにUAやbirdをシンガー(それぞれ作詞も)に招集した曲のほか、やくしまるえつこや齋藤飛鳥(乃木坂46)をはじめとする新しい才能との邂逅も果たしていた。中でも満島ひかりをフィーチャーした「ラビリンス」は、MVがYouTubeで 約1000万回の再生回数を記録、『MTV VMAJ 2017』でも最優秀ダンスビデオ賞を受賞するなど圧倒的なバズと評価を巻き起こし、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『FUJI ROCK FESTIVAL '17』のステージで実現した共演も大反響を呼んだ。
3月21日にリリースされる『Attune / Detune』はそんな昨年のアルバム『何度でも新しく生まれる』の「続編」アルバムとのこと。なるほど、アルバムの終盤3曲である「ERASER」と「ラビリンス」と「惑星タントラ」は、『何度でも新しく生まれる』のバージョン違いを収録。「ERASER」は『FUJI ROCK FESTIVAL '17』のステージで初披露されたバージョンをもとにした再録バージョン。「ラビリンス」は原曲のイメージをまったく塗り替えるようなピアノと弦楽器による繊細なインストゥルメンタル曲。「惑星タントラ」は原曲での齋藤飛鳥に代わって作詞を手がけたやくしまるえつこによるセルフカバーで、演奏には相対性理論のメンバーも参加している。まさにアルバムタイトル通りに、曲が「何度でも新しく生まれる」ことを鮮烈に示したみせたわけだ。
昨年のアルバム『何度でも新しく生まれる』は「MONDO GROSSOといえばダンスミュージック」というパブリックイメージをギリギリ守りつつ、これまでトレードマーク的なサウンドの意匠であったハウスミュージックの四つ打ちにはこだわらない多様なビートと有機的なアンサンブルで、新しいMONDO GROSSO像を打ち立てた作品だった。今回の『Attune / Detune』はそこからさらにもう一歩踏み越えて、もはやダンスミュージックという縛りからも解き放たれて、それでもMONDO GROSSO的としか言いようがない流麗でメロウなサウンドが縦横無尽に展開している。大沢伸一が語っていた「音楽でやりたいことが、まだまだたくさんある」というのは、きっとこういうことだったのだろう。