アーティストが語る“ミュージックヒストリー” 第二十一回:平井 大

The Beach Boys、2pac、Sublime……平井 大が影響を受けた“西海岸の音楽”たち

 隔週木曜日の20時~21時にInterFM897でオンエアされているラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。2月1日の放送には、平井 大が登場。“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介した。今回はそのプレイリストから彼の音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。

The Beach Boys「Surfin' USA」

 平井がまず自身のルーツとして挙げたのは、The Beach Boys「Surfin' USA」(アルバム『Surfin' USA』収録)。サーフロックを自身の音楽性として強く打ち出してる平井にとって、この曲は欠かせないルーツミュージックだという。彼は小さい時から父親と毎週末海に行っており、車のなかでこの曲をヘビーローテーションしていたことが、現在の音楽性にも強い影響を与えていると語った。ほかにも、父親の影響で様々な音楽を聴いていたそうで、ロック、ポップスのほか、オールドハワイアンなども教えてもらっていたそうだ。26歳にしてここまでの知識量と音楽の引き出しがあるのは、彼の父親による音楽の英才教育の賜物だった。

2pac feat Dr.Dre「California Love」Sublime「What I Got」

 続いて、「10代の節目となった曲」として挙げたのが、2pac feat Dr.Dre「California Love」(アルバム『All Eyez on Me』収録)とSublime「What I Got」(アルバム『Sublime』収録)。どちらも1990年代にアメリカの西海岸を中心に活躍したアーティストだ。平井は小学校高学年からヒップホップやミクスチャーが好きになり、「California Love」を聞いてトークボックスを練習したこともあるという。彼によると「イーストコーストのヒップホップはラップがメインになってくるけど、ウエストコーストのラップはメロディが中心になって、そこにリズムとしてラップが入ってくる感じがする」そうで、そこに面白さを感じていると語ってくれた。また、Sublime「What I Got」については、彼自身がスケートボードをやっていたころによく聴いていた曲で、過去を振り返って「あのときは反抗期だったんでしょうね。悪い感じに憧れていたから」と茶目っ気たっぷりに話した。

ジェイソン・ムラーズ「I'm Yours」

 続いて、「音楽を始めてから影響を受けた曲」として挙げたのが、ジェイソン・ムラーズ「I'm Yours」(アルバム『We Sing. We Dance. We Steal Things.』収録)。近年のサーフロックにおける重要人物であり、平井の音楽スタイルにも多大なる影響を与えているアーティストだ。彼は「この曲が出た時、衝撃を受けました。カントリーもレゲエも大好きで聴いていたんですけど、それが上手く混ざっている曲は今まで聴いたことがなかったし、すっと入ってきたんです」と語り、その音楽的な手際の良さを賞賛した。さらに、「裏打ちだからレゲエにもとれるけど、コード進行やメロディはカントリーのもの。すごく気持ちいいなと思いますね」と音楽性を分析、「楽器の量も多くなく、ここまで表現豊かに音楽ができるのはいいなと思いました」と、改めてそのスタイルの優位性について述べた。

ボブ・ディラン「Blowin' In The Wind」

 もう1曲はボブ・ディラン「Blowin' In The Wind」(アルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』収録)。自身でカバーもしており、平井にとっては思い入れのある1曲だ。彼はボブ・ディランについて「基本的にギターと声だけでビシッと決める人。でも、常に新しい表現方法を模索し続けて、それが完成することはない。そのスタンスに憧れる」と語り、自らが弾き語りをするのもボブ・ディランからの影響が大きいことを明かした。

 なお、番組ではほかにも、平井の“100年後に残したい音楽”についてのトークも行われた。

 J-POPのフィールドで活躍しながら、サーフロック、ハワイアン、カントリーといったルーツを最大限に活かし、新たな風をシーンに吹き込む平井大。今回の放送とこれらの楽曲が、彼の音楽を紐解き、より広いリスニング体験を手助けするガイドになるだろう。

(文=中村拓海)

■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫 
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
番組ホームページ

■連載「アーティストが語る“ミュージックヒストリー”」バックナンバー
第一回:イトヲカシの「ルーツ」となっている楽曲は? 伊東歌詞太郎&宮田“レフティ”リョウが大いに語る
第二回:大塚 愛が明かす、デビュー以降の“声の変化”と転機になった洋楽ソング
第三回:藤原さくらが“アレンジの重要性”に気付いた作品とは? 「クレジットをかじりつくように見た」
第四回:MACOの音楽に影響を与えたポップス・日本語ラップの作品は? 本人が語る“意外な”ルーツ
第五回:大沢伸一が明かす、MONDO GROSSO新作にも繋がった“ニューウェーブからの影響”
第六回:Gotchが語る、Weezer楽曲の面白さ「ロックミュージックの美しい部分が全部入っている」
第七回:川谷絵音が明かす、自身の原点にある“不穏な楽曲”への関心 「音楽の好みがガラリと変わった」
第八回:Charaが語る、プリンスへの憧れと後悔 「もっとアプローチしておけばよかった」
第九回:ハイロウズ、ブランキー、アラバマ・シェイクス…never young beach 安部&鈴木を形作る音楽
第十回:Mrs. GREEN APPLEのクレバーな音楽性はいかにして作られた? 大森&藤澤が語る“ルーツ”
第十一回:ドリカム、Bon Jovi、Muse……和楽器バンドを形作る“ハイブリッドな音楽”とは?
第十ニ回:GLIM SPANKYが語る、洋楽への入り口「The White Stripesには音の時代の差を感じなかった」
第十三回:JUJUが尊敬する、3人の偉大なる歌姫「機会があったら声帯を取り替えたい」
第十四回:夜の本気ダンス・米田貴紀が明かす、“ロック”と“ファンク”に目覚めたルーツミュージック
第十五回:松浦亜弥、シルク・ドゥ・ソレイユ、ミスチル……チャラン・ポ・ランタンが明かす“多彩なルーツ” 
第十六回:気鋭のラッパーちゃんみなが明かす、影響を受けた“ストイックなアーティスト”
第十七回:YMO、パット・メセニー、バルトーク……SUGIZOの音楽観を変えた幅広い楽曲
第十八回:八代亜紀が語る、演歌歌手・ジャズシンガーとしてのルーツは?
第十九回:宇多田、ナンバガ、キリンジ……ねごと 蒼山幸子が影響を受けた“ムードを言葉と音楽にする”楽曲
第二十回:小泉今日子、GO!GO!7188、レベッカ、C・ローパー……のんが影響を受けた“パワフルな女性たち”

関連記事