2018年、音楽にまつわるサービスはどう変化する? 有識者3人が予測する“新たなフェーズ”

柴那典&ジェイ・コウガミ&レジー座談会(後編)

 音楽ジャーナリストの柴那典氏、デジタル音楽ジャーナリストであり音楽ビジネスメディア『All Digital Music』編集長のジェイ・コウガミ氏、音楽ブロガーのレジー氏による、音楽にまつわるサービスについての座談会。前編ではストリーミングサービスとスマートスピーカーについての議論を繰り広げたが、後編ではクラウドファンディングや音楽とテレビメディアの関係、2018年の傾向分析へと話は及んだ。(編集部)

クラウドファンディングは「D2C体験を与えるプラットフォーム」に?

ーー海外と日本で普及している音楽にまつわるサービスといえば、クラウドファンディングもそれに当てはまると思うんです。今年はKickStarterの日本上陸もありましたし、CAMPFIREの音楽にまつわるプロジェクトも多くなってきたような気がします。

柴:クラウドファンディングって、海外ではもう普及フェーズに入っているんですか?

ジェイ:クラウドファンディング自体の浸透率、一般的な認知レベルは上がっていますね。今は「それをどう使うか、プロジェクトを成功させたあとにどうするか」といったものや、コミュニティ作りのために使われている気がします。クリエイターとユーザーがSNSではないところでダイレクトに繋がれるためのリレーション構築の一助になっているというか。

 海外では、YouTuberが自分でクラウドファンディングを立ち上げていて、チャンネル登録と一緒にプロジェクトを案内するなど、常に間口をオープンにしておくためのツールにも使われているんです。つまり、D2C体験を与えるプラットフォームですね。

レジー:コミュニティを作る、か。面白いですね。

ーー日本と海外のクラウドファンディングについては、そこまで状況はかけ離れていないかもしれません。

柴:それはなぜかというと、良くも悪くも西野亮廣(キングコング)さんのおかげで、言葉の意味が一気に広がったからだと思います。彼が『革命のファンファーレ』という本を出したり、CAMPFIREの『えんとつ町のプペル』プロジェクトで総額約1億円の支援を集めたりと派手な実績を残したことによって、クラウドファンディングの「個人がやりたいことをやるためにお金を集める」という意味合い自体は、結構正しく伝わってる気がするんです。もちろん、社会貢献的に使う人たちもいるわけですが、一時期はそのイメージが強すぎてカジュアルに取り組めない人たちもいたけど、西野さん以降はもう少し気軽に挑戦できるようになったと思う。

ジェイ:日本って今まで、直接的にアーティストを支援しますという形が、明確なものとしてなかったと思うんです。

レジー:そうですね、だからその気持ちが「CDを買って支えなきゃ」みたいな話にすり替わりがちだったような気がします。もちろんそれはそれで一つの支援だとは思いますが。

ジェイ:だから、「買った枚数の多い方が偉い」みたいな話になる。

柴:別に全然そんなことないんですけどね。

ジェイ:音楽業界って、お金に関してはブラックボックスにしがちなんですよ。利益分配とか、消費者からアーティストへの価値の対価を支払う部分ってなかなか見えづらくて。でもそういった部分を一つ見えやすくしてるのがクラウドファンディングだと思うので、こういう考え方を中心にアーティスト活動する人がいて、新しいブレイクスルーを起こせば、流れが変わるかもしれない。

レジー:直接お金を起点に繋がれることに「正しい」も「正しくない」もないはずで、選択肢の一つとして当たり前にあるべきだと思うので、そういう価値観や手法が定着すればもっと考え方が楽になると思うんですけどね。

柴:僕はクラウドファンディングとスマートスピーカーって、すごく対極だと思ってるんですよ。スマートスピーカーはなんとなく心地良い音楽をかけていて、そのアーティストの名前すら知らない場合もある。それでも再生回数あたりの収益はアーティストに入る。一方でクラウドファンディングは音楽を作っている人の人間性に対してお金を払うわけですよね。応援したいからお金を先に払って、リターンとしてモノが届く。すごく対極的な感じがする。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる