渡辺俊美×瑠伊 特別対談 音楽とファッションから見えるクリエイティブの形
コンセプトがないのがコンセプト(瑠伊)
ーー瑠伊さんは、もともとビジュアル系が好きで、ビジュアル系のバンドを始めた感じですか?
瑠伊:そうですね。僕はビジュアル系を楽しんでやっているところがあって。基本的に、さっき濃いメイクをしてゴシック調の格好をしているって言いましたけど、ライブによって毎回いろいろコンセプトを決めていたりするんですよね。今回はこういう衣装で、新しいことをやってみようとか。で、それをやることによって、僕自身、着ているものとかメイクに左右されて、ステージングとか見せ方が変わってくるんです。スポーティな格好をしたら、ちょっとそっち系の感じになるとか。
俊美:何かスイッチが入るんだ?
瑠伊:そうなんです。そうやって、いろんな自分になれることが、ビジュアル系の楽しいところなんですよね。あと、ビジュアル系って、ある意味、音楽ジャンルの縛りがないんです。だからホント、いろんな音楽ができるというか。vistlipの曲って、結構ふり幅が大きいんですけど、ホント何を取り入れても大丈夫というか。たとえば、ジャズバンドですって言って、違うジャンルのものをやるのって、ちょっと難しいじゃないですか。ビジュアル系は、そういう枠や縛りがないんですよね。
俊美:そうか……逆にロック系の人たちのほうが、「これはロックじゃない」とか言いそうだもんね(笑)。そういうのがビジュアル系は、あんまりないんだ。
瑠伊:そうですね。そこがいいところだと思っています。
ーーちなみに、今日の瑠伊さんの服装は、わりとラフな感じですが、普段はこういう感じなのですか?
瑠伊:基本的には、ストリート寄りのカジュアルみたいな感じが多いですけど、結構いろいろ着るようには心掛けていて。というのも、僕らは、私服で人前に出る機会も、実は結構多くて……握手会とかイベントをやるときは、メンバー全員私服なので。
俊美:あ、そうなんだ? 照れちゃうね(笑)。
瑠伊:そうですね(笑)。そうやって、ファンの方に見られる機会が、僕らはすごい多いんですよね。なので、いろいろ着るようにはしていて。いろんなパターンの僕を知ってもらいたいというか、「瑠伊ってこうだよね」っていうのではなく、「こういうのもあるんだ」とか「このパターンがあるんだ」って知ってもらいたいっていう。だから、いろいろ着るようにはしています。
俊美:最近のビジュアル系は、そういうところはオープンなんだね。昔は、普段着なんて絶対見せないみたいなところがあったような気がするけど。
瑠伊:結構オープンかもしれないです。というか、僕らは今年、結成10周年を迎えたんですけど、始めた頃は、まだまだオフはあまり見せない風潮だった気がします。ただ、僕らは結構ラフにやりたいというか、バンドを組んだときのコンセプトが、そういう感じだったんですよね。だから、イベントとかも全員私服で、しかもメイクも、そんなにせずにやったりするんです。
俊美:それは画期的だね。
瑠伊:もちろん、今でもオフは絶対に見せないバンドはいますけど、僕らはオフを見せまくりなんです(笑)。
ーーソウルセットも、出てきた当初は、ある意味画期的だったような気がしますけど。
俊美:そうですね。僕らは逆に、『バンドやろうぜ!』とかが全盛だった時代なので……バンドと言ったら、一生懸命汗をかいてるようなイメージがあったんですよね。でも、僕らは、そことは違うところを見せたかった。いわゆるバンドっぽい衣装とかって、もういいかなって思って。だから、ホント普段のままの感じで、Tシャツとジーンズでステージに立つみたいなことをやっていましたね。でも、ビジュアル系とかだったら、「ここから外れないように」みたいなイメージも、やっぱりあったりするんじゃないの?
瑠伊:それももちろんありましたけど、そもそもうちのバンドは、コンセプトがないのがコンセプトみたいなところがあって(笑)。だから、ホント何も決めてなくて、この5人がやるからvistlipだみたいな感じなんですよね。
俊美:極端な話、アフロとかでもいいの?
瑠伊:アフロは……でも、ドレッドは、僕、一回やっちゃいました(笑)。なので、とりあえず格好良ければいいというか、その人に似合っていれば何でもいいっていう。
ーーソウルセットは、そういう「外せないイメージ」みたいなものってあるんですか?
俊美:何もないですね(笑)。そういった打ち合わせもしないですし。もう各自がソロみたいな。ただ、そうやってバンドっぽい感じでやるのもいいなっていうのは、猪苗代湖ズで活動しているときに、ちょっと思いましたね。事前に相談して、みんなでいっせいにTwitterで盛り上げたり……「あ、バンドって、こういう感じなんだ」っていう。そういう仲の良い感じも、やっぱりいいなって。そうやって楽しんでいる感じが見えるのは、やっぱり面白いですよね。
ーーちなみに、先ほどチラッと話に出てきましたが、俊美さんがお店をやられていた頃っていうのは……。
俊美:僕がラフォーレ原宿でお店をやっていたのが20歳の頃で、そのあと「DOARAT」を立ち上げたのが、ソウルセットでデビューした後だから……26歳ぐらいですね。
ーー「DOARAT」は、当時どういうコンセプトで立ち上げられたのですか?
俊美:まあ、要はストリート系ですよね。イメージで言えば、STUSSYみたいな感じだったのかな。それプラス、グラフィックみたいな。その頃は、クラブが全盛だったので、クラブに遊びに行くときに着られるようなものを、自分たちで作ったというか。ちょうど裏原とかも盛り上がっていた頃だったので、そういうブランドの人たちと、いろいろ競い合っていたような感じでしたね。
ーー当時って、音楽系の人とファッション系の人が、かなり入り混じっていた印象があります。
俊美:そうですね。僕らのまわりは、そういう人たちばっかりでしたね。というか、そうやって音楽とファッション、両方の匂いのするものを、みんなやっていたというか。
ーー瑠伊さんのまわりにも、ミュージシャンで洋服を作ったりする人が、今は結構いるんじゃないですか?
瑠伊:結構いますね。ネットでの通販が多くて、実際に店舗を構えたりしている人は、あんまりいないと思いますけど、自分でブランドを立ち上げて、服を作って売っている人たちは、ビジュアル系にも何人かいると思います。
俊美:そうか、今はネットがあるから、やりやすいよね。僕がやり始めた頃は、普通にライブをやって、その次の日には、お店に立っていましたから(笑)。でも、さすがに、それだと回らないなって思って……。
ーー音楽活動に重点を置くように?
俊美:いや、両方やっていました(笑)。アルバムを作って、ツアーをやって、戻ってきたら「デザインさせて」って言って、デザインをやって。僕にとって、そのサイクルはすごく重要でした。音楽と洋服っていうのは、すごく密接な関係があると今でも思ってて。やっぱり音楽っていうのは、自分もそうですけど、何々っていう音楽が流行ったら、洋服もそういう感じのものになったりするじゃない。僕らがソウルセットで活動していた初期の頃は、だんだんヒップホップが面白くなってきた頃で……でも、そのファッションをそのまま真似すると、単なるコスプレになっちゃうから、どうしようかって。じゃあ、普段着でやろうっていう。周囲の環境やトレンドとか、いろいろな思考を巡らせた結果、普通になった感じなんですよね(笑)。
ーー瑠伊さんは、ご自分で曲を書かれますが、そうやってファッションだったり海外の音楽から影響を受けたりもするのですか?
瑠伊:僕が曲を作るときは、何かの文化の影響というよりも、その曲を作る前に一個ストーリーを考えることが多いかもしれないです。ホント架空のストーリーというか、オリジナルの物語を作って、「それに主題歌をつけるなら、こんなイメージかな?」っていうところから曲を作り始めるんです。だから、すごい時間も掛かるし労力も掛かるんですけど、自分のなかでは、それがいちばんしっくりくるんですよね。
俊美:それは、すごいなあ。今、海外でこれが流行っているとか、そういうのは、あまり気にしない?
瑠伊:あんまり気にしないですね。音楽の流行りとかは気にせず、街を歩いているときに耳に入ってきたもので、「あ、いいな」ってパッと思いついたり。あとは単純に、自分がこういうのを作りたいと思ったものを作っていきます。
俊美:J-POPポップも聴かないの?
瑠伊:あ、J-POPは、ちょいちょい聴きます(笑)。ジャニーズは、いまだに好きなので。そう、基本的に日本のポップスが、僕はすごい好きなんですよね。
俊美:なるほどね。そのへんが多分、僕と違うところかもしれない。僕は逆に、日本の音楽をいっさい聴かない時代があったから。
瑠伊:あ、そうなんですか?
俊美:東京に出てくる前は、それこそ『ザ・ベストテン』みたいな音楽番組ばっかり見てたけど、東京にきてからは、そういうものはいっさい見なくなって。まあ、単純にテレビを持ってなかったっていうのもあるんだけど(笑)。でも、敢えてそっちを選んだみたいなところもあって……。
ーー何か理由があったのですか?
俊美:うーん、何でだったかな(笑)。ただ、僕が今、こうして何十年も音楽を続けていられるのは、その頃からずっと、世界の音楽を意識しているからかもしれないです。日本の音楽だけを意識していたら、もうとっくの昔に音楽はやめていたと思う。そうじゃなくて、音楽は、世界でひとつなんだっていう意識がいまだにあるから僕はこれまで音楽を続けられてきたんだと。なので、いまだに洋楽はチェックし続けているんですよね。瑠伊くんは、洋楽はあまり聴かないの?
瑠伊:あ、多少は聴きます。好きなのは、やっぱりバンド系になってしまうんですけど、MUSEは好きですね。あと、MY CHEMICAL ROMANCEとか……。
俊美:ああ、何かわかる(笑)。マイケミとかは、結構ストーリー性があるもんね。