渡辺志保の新譜キュレーション 第10回
A$AP Mob、BROCKHAMPTON……渡辺志保が注目するヒップホップ・クルー4組
タイラー・ザ・クリエイターが「Yonkers」、A$AP ロッキーが「Peso」をリリースしたのはともに2011年。タイラーはOFWGKTA(Odd Future Wolf Gang Kill Them All/以下、オッド・フューチャー)、そしてA$AP ロッキーはA$AP モブというグループを率いる存在であり、二人の人気が高まるとともに、それぞれのグループにも注目が集まるようになっていった。オッド・フューチャーもA$AP モブも、ただのラップ・グループではなく、そこにはラッパー以外にもビートメイカーやマネージャー、デザイナーらも名を連ね、音楽に限らぬ総合クリエイティブ集団として機能していた。そして、彼らや我々はそうしたグループのことを“クルー”や“コレクティブ”と呼ぶようになり、それを契機としたように、クルーを一つの単位にしたヒップホップ・シーンの盛り上がりが加速していったのだ……というわけで、本稿では2017年の今、筆者が注目するヒップホップ・クルーを紹介します。
まずは今も勢い衰えぬA$AP モブの最新ミックステープから。事実上は解散してしまったオッド・フューチャー(しかしタイラーはもちろん、フランク・オーシャンやシド・ザ・キッドら個々の活躍具合は言うまでもなく半端ナシ)ですが、屋台骨となっていたA$AP ヤムズ逝去後も、こうしてまとまった作品をコンスタントに発表してくれるA$APクルーはやはり心強い。そして、最近では「Magnolia」がスマッシュヒットを記録したプレイボーイ・カーティや、アルバム『12』で骨太なイーストコースト・サウンドを聴かせてくれたA$AP トゥエルヴィー、そしてそして、最新アルバム『Still Striving』ではさすがの存在感見せつけてくれたA$AP ファーグなど、メンツの濃さも十二分。
モブの最新作『Cozy Tapes Vol. 2: Too Cozy』ではいつものモブ・メンバーに加え、ジェイデン・スミスやグッチ・メイン、チーフ・キーフにスクールボーイ・Qら幅広いゲストが参加。ギラついたフックを持つような曲は少ないですが、タイトル通り“cozy=(彼らにとって)心地よい”雰囲気、そして、研ぎ澄まされたクルーの美学が溢れる作品です。フランク・オーシャンにリル・ウージー・ヴァートが参加したことも話題になったA$AP ロッキーの新曲「RAF」(MVではラフ・シモンズのアーカイブ・アイテムをフィーチャー!)も収録されているので、未聴の方は是非チェックしておいて。ちなみに本作において4曲で参加しているスムーキー・マルジェイラはブロンクス生まれの14歳(!)。ラップはまだ始めたばかりだそうですが、早くもA$AP ロッキーに見初められ、将来が楽しみな逸材です。