嗣永桃子はプロフェッショナル・アイドルだった 後輩に“未来”託したラストステージ

カントリー・ガールズの嗣永桃子として

 後半はカントリー・ガールズとしてのステージだった。Berryz工房活動停止以降、「魔法が使えなくなった」と封印していた“ももち結び”姿で再登場し、大歓声が起こった。トレードマークとはいえ、たまには普通の髪型を……、とあの当時誰もが思っていた、“ももち結び”に皆が歓喜する日が来るなんて。しかも、おそらくこのももち結びをするために、髪の毛を切った様子だったのだから、なおさらだ。激しいパフォーマンスでも乱れることのない髪型であり、さぞかし多量のヘアスプレーを、などと考えていたものが、わずか数曲で通常のロングの髪型に戻っていたのを見ると、ももち結びは本当に魔法によって変幻自在なのかもしれない。

 カントリー・ガールズを従えて乱舞する「cha cha SING(Berryz工房)」を、この日約2年半ぶりに集まったBerryz工房メンバーたちはどのような想いで見ていたのだろうか。Berryz工房の活動停止が発表された後、いち早く己の進退を決め、カントリー・ガールズを兼任していた嗣永だったが、そのことからカントリーのメンバーに嫉妬した徳永千奈美としばらくの間、喧嘩していたこともあった。

 この日、もしかするとBerryz工房の一夜限りの再結成や、メンバーの登壇などを期待していたファンもいたのかもしれない。しかし、そうしたことは一切なかった。最後に彼女が選んだのはカントリー・ガールズのプレイングマネージャーとしての嗣永桃子であり、最後に見せたのは、可愛くもたくましくなった後輩たちにこの先を託す“ももち先輩”の姿だった。

 「せんぱい」ーー語りかけるように、カントリー・ガールズの5人から嗣永への送辞曲「明日からはおもかげ」が歌われる。これまでカントリー楽曲を多く手がけてきた作詞家・児玉雨子が彼女たちの関係性をあてがきした新曲だ。

〈私たちは、ももち先生の教え子 第1期生です。〉

 凛とした面持ちで口にした山木のセリフに合わせ、横一列に並んだ5人が小指を立てながら敬礼をする。遠くを見つめるその眼差しと表情は誇らしげで眩しかった。

 「愛おしくってごめんね」で冒頭のセリフを嗣永に強奪され、しょんぼり顔でじっと見つめる梁川。2番では小関が自分のセリフこそ取られまいと、嗣永とステージの場所取り合戦を繰り広げるも虚しく、まんまとセリフを奪われてしまう。そんなやり取りを見れば、嗣永がどれだけカントリー・ガールズというグループに愛情を注いできたのかは一目瞭然だった。曲の大部分がメンバーからももち先輩へのメッセージのセリフで構成されている「アイドル卒業注意事項」という、ちょっと古めかしい安易な発想の楽曲なのに、思いっきり感情を揺さぶられてしまうのは、5人に“ももちイズム”がしっかりと受け継がれている証にも思えた。そんなカントリー・ガールズであるから、嗣永が自分の最後のステージを彼女たちとだけで作り上げたいと思ったことも当然のことだったように思えた。〈未来しかなくてごめんね〉と6人のカントリー・ガールズ、最後の曲「VIVA!!薔薇色の人生」で大団円を迎えた。〈困難 荒波 大歓迎 私なら大丈夫です〉と歌い上げる、5人のカントリー・ガールズも新たな体制を迎える。

 ダブルアンコール、嗣永最後のスピーチ。自分をアイドルへ導いてくれたつんく♂への感謝にはじまり、Berryz工房、Buono!と、所属してきたグループに対しての想いを語る。「まさか、ここまでこのグループを好きになるとは思いませんでした……」カントリー・ガールズに話が移ったとき、思わず涙ぐんで言葉に詰まった。正直、今日までカントリー・ガールズとしての嗣永のステージを見ていないファンも大勢いただろうし、“Berryz工房のももち”のままで止まってる人にとっては、こんなにも母性と慈愛に満ち溢れた嗣永の姿に驚いたはず。だが、これから進もうとする教育者としての片鱗をうかがわせるそんな彼女の姿は、誰の目にも輝いて見えたはずだ。

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