野田洋次郎は“運命”を思索する RADWIMPS 『サイハテアイニ / 洗脳』の物語性を読む

 野田は、2015年に『ラリルレ論』というエッセイ集を出していた。当時のライブツアー中の日記でありつつ、時おりそれまでの半生を回顧し、社会、政治、震災などに関する思いや考えを浮かぶまま自由に綴ったものだ。今、読み返すと、その後の曲につながる要素もみつけられて興味深い。

 彼は同書で「僕たちは信じたいものを信じる」と記している。そのうえで「相性の良さに喜び、「運命の糸」を自分と相手との間に勝手に結ぶ。それはただの「運命の意図」」だと、上手いことをいっている。

 野田は「運命の糸」を信じるロマンティックなラブソングを書くと同時に、意図的に「運命」を創作してしまう人間について哲学する曲も書く。『サイハテアイニ / 洗脳』のビジュアルに関し、RADWIMPSの公式サイトでは、白を基調にした通常盤は「サイハテアイニ」をイメージした「天使」、黒を基調にした初回限定盤は「洗脳」をイメージした「悪魔」だと述べている。苦悩する「天使」とそれを嘲笑うごとき「悪魔」は、互いに影響しあい、片方だけでは成立できないのだという。『ラリルレ論』の先の部分を念頭におくと、「天使」は「運命の糸」を祝福し、「悪魔」は「運命の意図」を捏造する存在と見立てたくなる。

 さらに、このシングルにはもう1曲、ドラマ『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)の主題歌に選ばれた「棒人間」のストリングスバージョンが収録されている。「棒人間」は『人間開花』の収録曲だったが、人間という存在が咲き誇り祝福されているようなタイトルを冠したアルバムのなかで、自分が人間ではないことを謝罪するなんとも奇妙な歌だった。これもまた、通常とは異なる視点から人間を眺め、野田らしい作詞術が発揮された曲だった。

 このように『サイハテアイニ / 洗脳』には、「天使」と「悪魔」だけでなく、人間になりきれない何者かまでいあわせている。かなりコンセプチュアルなシングルだと感じられるし、わずか3曲ではあるものの内容は濃い。野田の物語性の美点を味わえる作品になっていると思う。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

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