青龍『AO-∞』リリース記念対談
Ryu☆×kors kがbanvoxと考える、“音楽ゲーム”からしか生まれないダンスミュージック
KONAMIの音楽ゲーム『beatmania』シリーズなどで活躍するトラックメイカー・プロデューサーのRyu☆が主催するレーベル<EDP(EXITTUNES Dance Production)>が、Ryu☆のボス曲用名義“青龍”の新作『AO-∞』や、コンピレーションアルバム『EDP presents ravemania speed』をリリースした。<EDP>はほかにも、先日新木場STUDIO COASTで『EDP×beatnation summit 2017 -beatnation 10th Anniversary-』を開催し、6月からは大阪、名古屋、福岡で初となるEDPの全国ツアー『EDP Lab -TOUR 2017-』を行なうなど、トピックが目白押しだ。今回リアルサウンドでは対談企画として、Ryu☆と先日EDPの新プロデューサーに就任したkors k、そして『ravemania』に参加経験もあり、新作『Take No Defeat』をリリースしたばかりである気鋭のトラックメイカー・banvoxの3名を迎え、音楽ゲームとダンスミュージックの現在地や、新作での挑戦、今後の<EDP>が目指すビジョンなどについて、大いに語り合ってもらった。(編集部)
「音楽ゲームを入り口に、ダンスミュージックへ足を踏み入れていくのは素敵」(Ryu☆)
ーーRyu☆さんは以前、<EDP>について「次世代と呼べる10代や20代の才能あるダンストラッカーをより世界へ向けて広げていくことを目的としたレーベル」と述べていましたが、まさにbanvoxさんもその世代のひとりですよね。
kors k:インターネットカルチャーから出てきた、時代を象徴するようなアーティストですからね。banvoxさんを含む<Maltine Records>や<TREKKIE TRAX>周辺のトラックメイカーは、フリーDLやSoundCloudで曲をリリースし、様々なメディアがフックアップしたあとにフィジカルを出す、という今っぽいやり方を定着させたといえますし。うちらはCDにして売ることが価値になる、という考え方だったので。
Ryu☆:banvoxさんの楽曲は「時代の音がする」というか。GoogleのAndroidやモード学園など、CMでいくつか使われている楽曲にしても、今を切り取ったスタイリッシュで最先端な音楽を鳴らせていると思います。
ーーbanvoxさんは過去にRyu☆さんがプロデュースを手がけるダンスコンピレーションシリーズ『ravemania』にも参加していました。あのラインナップに並べて、彼の音楽はどのように映りましたか?
Ryu☆:『ravemania』自体、いま活きのいい人たちをコンパイルするプラットフォームになればいいなと思って始めたもので。ラインナップを決めるうえで、セルフプロデュースのできている人を揃えていくという面が大きくて、banvoxさんはまさにその筆頭株といえる方なので、『EDP presents ravemania』では「Connection (Original Mix)」を一曲目に置かせていただきました。
ーー今回のbanvoxさん楽曲は既発曲の収録という形ですが、若手トラックメイカーに新曲を依頼する際、リクエストを出されたりはしないのですか?
Ryu☆:このシリーズは自分がプロデューサーとして関わっていますが、あれをしろ、これをしろとあまり強制しないことが面白味に繋がっていると感じていて。今の10〜20代のトラックメイカーはあまりメジャーのことを意識していないですし、セルフプロデュース能力も高い。デビューの仕方が自分たちのいた90年代の音楽シーンを通っているか否かで違いますし、インターネットという力も上手く使いつつ、日本を通らずにいきなり海外からデビューする人もいる。そんな力を信じたいという気持ちも大きいです。
ーーでは、banvoxさんにとってRyu☆さんとkors kさんはどのようなトラックメイカー・プロデューサーに映りますか?
banvox:お二人とも、僕には作れない曲ばかりを手がけていて……。僕はイマジネーションから音楽を作るタイプなんですが、そこでは思いつかないような音が、お二人の楽曲からは生まれていると感じていて、かなり新鮮な気持ちにさせてもらっています。
ーーbanvoxさんは以前、インタビューで自身のルーツがフレンチ・エレクトロやクラッシュにあるという話をしてくれました(参考:世界が注目するbanvox、覚悟の音楽人生を語る「生きるために、僕は音楽をやらなくてはいけない」)。Ryu☆さんとkors kさんはこの辺りの音楽をどう捉えていたのか気になります。
kors k:僕はトランスが流行った時期にダンスミュージックにハマったこともあり、あまりエレクトロにはドップリいかなかったんです。派手な音が好きなので、シンプルな音を太く聴かせるエレクトロは好んで聴いていませんでしたが、UKからレイブサウンドやダブステップが出てきて、ベースミュージックに再び注目が集まって、エレクトロが華やかになってきたくらいに、Madeonを始めとしたプロデューサーも登場してきて、「かっこいい音楽だなあ」と改めて受け取りましたね。
Ryu☆:僕とkors kは大体通ってきたものが同じで、ダッチトランス・サイバートランスやワープハウスなどの四つ打ち系がルーツなんですけど、その辺はやっぱり派手だったんですよね。クラブサウンドも聴いていたんですけど、どちらかといえばマハラジャとかヴェルファーレで流れていたようなディスコ寄りのものが多かった印象です。あ、でもフレンチ・エレクトロならDaft Punkの『Discovery』が出たタイミングは良く聴いていました。ベースの音色がゴリゴリとしていて、一種の発明のように感じたのを覚えています。
ーーkors kさんからMadeonさんの名前が上がりましたが、彼やPorter Robinsonさんのように、音楽ゲームを通って楽曲制作を始めるという海外のクリエイターも増加しています。国内だとkz(livetune)さんやMasayoshi Iimoriさんなどもそうですよね。彼らに関してはbanvoxさんとも繋がりがあるわけですが、クラブミュージックのサブジャンルひとつでは括れないくらい、ミュータント的なクリエイターがシーンに増えてきている印象です。
Ryu☆:その例を話すなら、やっぱりPorter Robinsonが一番わかりやすいですよね。『Dance Dance Revolution』をきっかけに音楽制作を始めていることもレアだし、それをプロフィールに書く人ってなかなかいない。普通書きたがらないですから(笑)。
ーーそうなんですか?
Ryu☆:ある時期は「音楽ゲームの曲はまがいもの」という風に誤解されていたことは間違いないですから。僕らはそれをひっくり返したくて、いままでこのシーンでやってきたわけなので。
kors k:音楽業界が今よりも元気がある時期、音楽ゲームの楽曲はクラブシーンのサブジャンルにもなれずに「これはクラブミュージックではない」と言われてしまっていましたからね。そこに対する葛藤やアンチテーゼは10年くらい前からずっと抱えています。
Ryu☆:まだダンスコンピが売れてた時期だよね。いまは初めから音楽ゲームが当たり前のようにあって、スマートフォンでの音楽ゲームも普及して、当たり前のように聴いてくれてるから、まがいものと思われなくなったことも大きいと思います。最近いろんなところで話していると、「音楽ゲームの曲」として作ることでしかできない、面白いダンスミュージックもあるんだなと感じるんですよ。このアプローチは普通にクラブトラックを作っている人にはないアイデアなので、ミュータント化が加速して、やたら音数の多い「フロアでかけたらガチャガチャするな」と思えるものもどんどん登場してきて、それを海外のクリエイターが面白がって「J-CORE」のようなカルチャーも出来上がっています。
kors k:ベースミュージック周辺も、音楽ゲームから入ったというクリエイターが多いんですよ。Blacklolitaは昔から『pop'n music』のプレイヤーで、同人シーンでインディーズレーベルから曲を出したりしていましたし。
Ryu☆:音楽ゲームを入り口に、ダンスミュージックへ足を踏み入れていくというのが素敵ですよね。ボカロPはその割合が多いような気もします。
ーーbanvoxさんも、自身のヒット曲「Summer」が『beatmania IIDX 24 SINOBUZ』に収録されるなど、音楽ゲームとの縁も出来ましたよね。
banvox:一度だけプレイしてみたんですが、難しすぎてまったく上手くできなかったです(笑)。
ーー音楽ゲームの楽曲ってどういう印象ですか?
banvox:展開が激しくて、テンポが早い、シンセメロが激しいという印象ですね。
Ryu☆:かめりあは「2分間で8個の展開を入れないとダメ」と言ってましたからね。
banvox:めちゃくちゃですね(笑)。だからこそ、僕の想像を超えているように感じました。
ーー難しくて激しいという話だと、その極北みたいなアルバムが青龍の新作『AO-∞』ですよね。青龍はRyu☆さんがボス曲(特定の条件を満たすと解禁される高難易度楽曲)を作る際に使用する名義ですが、今回のアルバムはこれまでのボス曲に加え、様々なゲストを迎えた作品に仕上がっています。
Ryu☆:激しいにもほどがありますよね(笑)。ゲストに関して、まずは聴いてくださる方へのサービスという側面が大きいです。ボス曲は期待されがちですし、音楽ゲームでたくさん遊んだ人しかできない、クラブシーンで言うとエクスクルーシブ的な楽曲なので。だからこそ人選でも楽曲でも「こうきたか!」と思われたかったし、フックや気になるポイントはたくさん作るようにしました。
ーー同作には、kors kさんもボス曲名義であるEagleとして、コラボ曲「3!dolon Forc3」に参加しています。この曲は他のものと比べて、中盤の落とし方などの質感・作り方が違うように思えたのですが。
kors k:この曲は、ベースのトラックを僕が作って、Ryu☆さんに音とメロディを乗っけてもらって、そこから仕上げていったんです。その過程で、Ryu☆さんが過去の青龍楽曲の声ネタを入れてきたので、僕もEagle名義で使ってきた手法を上手く混ぜ合わせて「青龍 vs Eagle」というコンセプトにふさわしい楽曲になればいいかなと思いました。途中でテンポがハーフになってベースミュージックっぽくなる箇所は、banvoxさんを参考にしたり。HARMOR(Image-Line社のソフト・シンセ)使ってるんですよね? 俺はあまり詳しくないけど、頑張って使ってみました(笑)。
banvox:えっ、そうなんですか? そこまで研究していただいたんですね!
kors k:自分はトレンドな音を意識してしまうのですが、Ryu☆さんにしか作れない音も上手く混ぜ込んでいただいて、面白いものが作れたと思います。
ーーその中でkors kさんが気になった楽曲は?
kors k:まだ細かいところまで聴けてはいないんですけど、コラボ系は気になっていて。sampling masters MEGA & sampling masters AYAさんを迎えた「VOX RUSH」は、一聴して「おっ」と思わされました。
Ryu☆:これは完全に『リッジレーサー』イメージの強い楽曲やからね(笑)。
ーーRyu☆さんは過去にsampling masters MEGAさんと「VOX UP」でコラボしていましたが、AYAさんは初めての共作になりますね。
Ryu☆:10年越しの願いが叶った感じですね……。自分はこの作品においては調整役のようなもので、リスナーが「コラボ曲はこんな感じだろうな」というところを外さないように心がけています。もちろん、時代におけるトレンドの音はあって、そこをやりたくなってしまうんですけど、バランスを崩しちゃうとコアな曲が出来上がってしまうんですよ。お互いプライドもあって、互いの「カッコいい」を追求したら渋い曲ができたり(笑)。それは青龍名義に求められているものとは違う気がするので、しっかり青龍っぽさは残しながらゲストの味も出そうとした作品です。