小西康陽と日テレ次屋Pが語る、ドラマと劇伴の“理想的な関係”「ようやく匿名的なものが作れる」

小西康陽と日テレPが語り合う“理想的な劇伴”

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「ピチカート・ファイヴを始めた頃は、自分が前面に出ない音楽を意識していた」(小西)

ーー『戦力外捜査官』では「スポーツ行進曲」という大ネタを使っていますが、なぜこの曲を使おうと?

小西:これは落ちこぼれの人達が活躍するドラマで。だったら、応援歌みたいな曲でいこうってことになって。水前寺清子さんの「だめでもともと」という和モノDJの間で有名な曲があるんですけど、その曲が使えないかっていう話も出たんです。そこから、「日テレで応援歌といったら、あの曲じゃないですか」ってことで「スポーツ行進曲」が出てきた。

ーーこの劇伴は登場人物達への応援歌なんですね。

小西:そう。それでいろんなバージョンを作ったですけど、スキャット・バージョンでタイムファイブの皆さんとレコーディングしたんです。あの時は嬉しかったですね。これまで2回お仕事しているんですけど、この時はサインもらっちゃいました(笑)。

ーー「スポーツ行進曲」とタイムファイブ! 昭和感溢れる良い組み合わせですね。「スポーツ行進曲」というネタが出た時、次屋さんはどう思われました? 

次屋:ハッとして「それだっ!」と思いました。さっきも言いましたけど、小西さんのところに足を運ぶのは、企画書を書く前の段階なんです。それでお話させて頂くなかで、だんだん僕のなかで番組が見えてくる。例えば『デカワンコ』の時も、「刑事もので女の子が犬のようにクンクン匂いをかぐんです」って話をしたんです。そしたら、小西さんが「日テレの刑事ものっていえば『太陽にほえろ!』でしょ」っておっしゃって、「それだっ!」って番組の方向性がいっきに見えてきた。まあ、(『太陽にほえろ!』の曲を使うのは)権利的な問題があるので、それに関しては日テレの関係者が頭を掻きむしったんですけど(笑)。

小西:ほんとに嫌がってたもんね(笑)。今回のアルバムには、肝心のその曲(『デカワンコ』で使われた『太陽にほえろ!』のリミックス曲)を入れることができなかったのが残念なんですけど。

ーー『デカワンコ』では、小西さんのオリジナル曲も『太陽にほえろ!』を思わせるジャズ・ファンクっぽい曲調ですね。

小西:そう。大野克夫さん大リスペクトってことで。

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ーーそれにしても、番組の内容が固まっていない段階で小西さんに相談をしに行くということは、次屋さんにとって劇伴は番組づくりのなかで重要な要素なんですね。

次屋:かなり重要ですね。

ーー次屋さんが頭の中にあるイメージを吐き出して、それを小西さんが黙って聞いてコメントする。まるでカウンセリングみたいですね(笑)。

次屋:そうなんです(笑)、小西さんはセラピスト。だから小西さんは音楽だけじゃなくて、番組の企画に大きく関わっているんです。

ーーそんな小西さんにとって、劇伴の面白さとはどんなところでしょう。

小西:ピチカート・ファイヴで音楽を始めた頃は、裏方仕事というか、自分が前面に出ない音楽というのをすごく意識して作っていたんです。でも、そんな気持ちとは裏腹に、僕名義の作品というのは自分のパーソナルな部分がすごい出てて、作家性が高いじゃないですか。こういう劇伴の音楽をやる時は、ようやく、その匿名的なものが作れる。それでもなお、自分が出ちゃうのであれば、それは仕方ないと思うし。『デカワンコ』を偶然テレビで見た日の次の晩、Twitterを見てたら音楽の評判がすごく良くて。青山真治監督が「小西さんがやってるのを知って納得」みたいなことを書いててびっくりしたし、すごく嬉しかったんです。そうやって、どんどん自分(の作家性)を殺していってもなお、自分が出ちゃうものがあればいいなと思いますね。

ーー劇伴は作りたかった音楽だったんですね。

小西:そうなんです。イージー・リスニングみたいな音楽が一番好きだから。

ーーこのアルバムに入っている曲は、劇伴なんですけどすごくキャッチーで、物語を離れたところでも使える、汎用性の高い音楽ですよね。

小西:次屋さんに、僕が劇伴で作った曲が他の局でも使われてるって教えてもらった時は嬉しかったですね。

次屋:毎日のように聴きますよ。料理番組で『喰いタン』の音楽を使わない番組は無いくらい。『喰いタン』(のサントラ)が出て以来、料理番組では、『喰いタン』を使わなかったとしてもクラシックが使われるようになった。食べ物が出た時にはクラシックがかかるということが、テレビ局のサウンド・デザイナーさんや選曲さんの頭の中に刷り込まれたんだと思います。

ーー『喰いタン』の劇伴が「料理番組の音楽といえばクラシック」という“お約束”を作った。スゴいですね。このアルバムは小西さんの劇伴のベストであると同時に、最強のライブラリー・ミュージックでもあるわけですね。

小西:この収録曲って、僕が選んだ曲じゃなくて、他番組で使われることの多い人気曲をなるべく集めたんです。

ーー裏付けのあるベストなんですね。

小西:すごいでしょ?

ーーもともと匿名性の高い音楽を作りたいと思っていて、実際にそういう音楽を作って、それが高い人気を獲得しているって素晴らしいじゃないですか。

小西:多分、バラエティ番組とかで聴いた人は僕が作ったって知らないと思うな。

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ーーそうでしょうね。曲を依頼した次屋さんとしては、このアルバムを聴いてどんな感想を持たれましたか?

次屋:アルバムとはよく言ったもので、曲を聴くと当時の事をいろいろ思い出しますね。ドラマのシーンはもちろん、その時の自分の生活とかも。で、気がついたら7作も小西さんとやっていたことに驚いています。

小西:ほんと、これは次屋さんの作品集でもあり、石井さんの作品集でもあり、中島さんの作品集でもあるんですよ。

ーーずっと、続いていってほしいチームですね。

次屋:それはもう、小西さんが許して頂けるのであれば今後もずっと。

小西:こちらこそ、よろしくお願い致します(笑)。

(取材・文=村尾泰郎/写真=下屋敷和文)

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『なぜ小西康陽のドラマBGMはテレビのバラエティ番組でよく使われるのか。』

■リリース情報
『なぜ小西康陽のドラマBGMはテレビのバラエティ番組でよく使われるのか。』
発売:2月22日(水)
価格:¥2,800+税
<収録曲>
01.Brindisi from “La Traviata”
02.Bolero
03.Spring from “The Four Seasons” Allegro (I)
04.Funiculi Funicula
05.Opera “die Walkure” Ride of the Valkyries
06.Prelude from “Carmen”
07.Vii.Dance of the Reeds from “Nutcracker Suite.Op.71a”
08.槇子のテーマ。(+8ヴァージョン)
09.容子のツイスト。
10.正義の味方の現実。
11.「激情」のテーマ
12.「平穏」のテーマ
13.「嗅覚」のテーマ
14.「急転」のテーマ
15.前を向いて歩こう
16.このグルーヴィーな世界で
17.図書館の音楽
18.東京はメリー・ゴーラウンド(+8ヴァージョン)
19.スポーツ行進曲(戦力外捜査官リミックス)
20.スポーツ行進曲~スキャット編 featuring タイムファイブ
21.スポーツ行進曲~口笛編
22.スポーツ行進曲~ディキシーランド編
23.ロックンロール・ハイスクール
24.ファンキー学園
25.勝ち抜きエレキ学園
26.ゆとり教育

01~07:『喰いタン』&『喰いタン2』より
08~10:『正義の味方』より
11~14:『デカワンコ』より
15~18:『東京全力少女』より
19~22:『戦力外捜査官』より
23~26:『でぶせん』より

小西康陽公式サイト

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