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姫乃たま『音楽のプロフェッショナルに聞く』003 大谷能生

姫乃たま、大谷能生に“批評の原理”を聞く「書き言葉は現実と距離を取ることができる」

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批評を書く理由――音楽を取り巻く複雑な環境を、批評で縦断する

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姫乃:音楽雑誌でライターの人が音楽に点数を付けたりしてるじゃないですか。ああいうのって何か基準があるんですか?

大谷:だいたい勘だね(笑)。個人的な主張。もともとはアメリカの『ダウン・ビート』っていう音楽雑誌で、1930年代に始まったんだけど、それはミュージシャン本人と論争するために付けてたの。エンターテインメントだよね。あと、我々が良いとか悪いとか言ってるのは、基本的にレコードの話なんだよ。それは音楽とニアイコールなので、音楽の話をしているのか、レコードの話をしているのかはホントは分けたほうがいい。レコードを聴くのと、音楽を聴くことは、ちょっと微妙に違う。レコードを聴くっていうのは、だいたい「商品として買ってきたレコードで個人的に音楽を聴く経験」のことなんです。

姫乃:あっ、たしかにそうですよね。純粋に音楽を聴く経験ってないのかな。

大谷:純粋に音楽を聴くっていう発想自体がレコードから生まれたものなんじゃないかなあ。出来事には常に条件があって、劇場があって、そこで食べるお弁当とか、衣装があって、レコードがあって、映像もあって、放送も複製もあって、もともと音楽を取り巻く状況っていうのはものすごいこじれているんです。レコードの場合、音楽自体がテキストというか、黙読出来るものになってるんだよね。レコードで何度でも聴けるっていうのは、書き言葉的な死の領域に入ってる音楽を聴いているわけです。我々は触っても、裏返しても返事してくれないものとしてのレコードを聴いているんです。何回も好きなところを聴いたりとかさ。止めるといなくなって、流すと出来事になって。そういうものは実際のライブとも全然違うけど、同じような顔をしている。

姫乃:ライブ盤とかもありますもんね。

大谷:本当に倒錯していると思うんですけど、変態行為だよね。死体みたいなものを家に買ってきて、好きなところを何度も聴いて。

姫乃:わはははは。

大谷:そういう複雑な状況を、書き言葉の体系を通してどう分離させられるかっていうのが、音楽批評を書き始めた時の最初のテーマでした。僕は散文と呼んでいるんだけど、あ、韻文だと歌(詩)になっちゃうからね。対象を正確に認識することが散文になるので、歌は歌で生活の中にあるけど、そこから距離を取って書き言葉にすることが必要だし、その時間が僕にとっては大事なんです。生きても死んでもないみたいな。でも、まあ、そういうことがみんなあんまり好きじゃないと思うの。耐えられないよね、人が聞いてないのに延々と語り続けることって。

姫乃:だから対象が好きな音楽だったら、長く書けるとかじゃないんですね。

大谷:そういうのはないね。上手く書けたらそれで終わりで、モノには正確な大きさがありますし。

姫乃:そもそも音楽って好き嫌いはあるにせよ、善し悪しってあると思いますか?

大谷:音楽に善し悪しはないけど、音楽は商品でもあるので。いま僕たちが楽しくふたりで歌うぶんには良いとか悪いとか全然ないけど、「商品」としては、社会的なものとしてそれを流通させようとするなら、そこには明確に善し悪しというか、出来不出来はある。売れるかどうかもあるし、売れないものが悪いとも言い切れないし、音楽は商品でもあればデータでもあるし、当たり前だけどそんなに一枚岩でもないからね。

姫乃:好き嫌いに関してはどう認識していますか?

大谷:好き嫌いもね、今は、流行っていうサイクルが生まれにくくなってて、昭和期みたいに商業音楽が強く前に流れて行かなくて、データとして横一列に並んでいるだけで、そこへ好きにアクセスできるんで、好き嫌いも、善し悪しも、基本的には昔のようには強くは生まれないんじゃないかなあ。薬効と一緒で、お薬と一緒で、好きとか嫌いとかじゃなくて、効くか効かないかなんだよ。音楽はいまほとんどの人に対して薬効化してるわけ。個人的な対処療法というか、その場で必要な機能に合わせて、人と喋りたくないとか、いま音楽っていうのはだいたい、人に声をかけられないために聴くわけ、電車の中とかで。

姫乃:わはは、新宿でキャッチに声をかけられないために。

大谷:いまの音楽の最大の使われ方は、多分、人ごみの中で他人を切断するためのものなんじゃないかなあ。その時には音楽に過剰にのめり込まない方が楽なのよ。耳が潰れるのが一番周囲のデータを切れるから、耳が潰れればなんでもいい。入れ替え可能で、廉価で、手軽ならなんでもいいんだよ。聴覚メディアはそのようにも使えるし、それも音楽と言うわけ。それと、新しいデータをダウンロードするのはなんであれ興奮するから(笑)、新しい物が入ってきたっていう刺激が、ほどよくいい感じで。画像だと目で見ないといけないから、ちょっと歩いてたりする危険だし、ながらでやるなら音楽がちょうどいいんだよね。

姫乃:大谷さんはいつ頃から文章を書こうと思ったんですか?

大谷:23〜4歳くらいの頃かな。表に出したのは『EsPresso』(※大谷さんが執筆、編集していた音楽批評誌)だけど、それ以前もひとりで書いてた。最初に原理的な話は書いておく必要があると思って30枚くらい書いて、あと昔は、美術作品と漫画作品はどう違うのかとか書いてました。

姫乃:わっ、どう違うんですか。

大谷:印刷物だって事だね。印刷されてるものは機能も形も違うと。ちなみに散文っていうジャンルも、印刷物ができてからだから、かなり新しい。印刷物ができるまでは、書き言葉自体が貴重だったので。

姫乃:壁に石でガリガリ彫って。

大谷:だから、だらだら書けない。舞台と映画も違うよね。映画とか写真は細かいところまで写るから、情報が多く入ってくる。レコードと生演奏は何がどのくらい違うのかとか。意外と同じだ、とかね(笑)。そういうことを分離するのは、自分の外側にある書き言葉の体系を使えば出来るんですよ。

姫乃:作業的にはどうやって書いてますか?

大谷:あっ、ノート全部持ってくればよかったね。いつも4冊くらい持ち歩いてて、これは歌詞用。電車の中とかで、ぱっと思いついたら書く。長い文章を書く時は、書き出しの調子が決まるまで、延々と書き出しを書きます。

姫乃:わあ、それ良い方法ですね!

大谷:2、30枚とか長めに書く時は、要素とか構成とか資料とかをノートにメモして、分量を確認したり。これを実際の出来事から離れて、僕の声じゃなくても読める状態になるまでには時間がかかる。

姫乃:最後に改めて音楽批評とは何かお話しいただいてもいいですか?

大谷:僕は散文の散文的な能力だけを使って書くことを批評だと言っています。極端な話ですが、僕はそういうものが好きなんですよ。でも、詩も好きだし、文字で書かれた物語も読みますし、もちろん演奏もするし、ラップとかもいろいろやるわけですが、「書き言葉」だけで出来るジャンルってのがあって、それを僕は「批評」だと思ってる訳です。今日お話ししたように、音楽も生の演奏とレコードは結構違うのにごっちゃになってしまいがちだし、声と書き言葉も違うのに、Twitterをやってるとごっちゃになるでしょう。いまは書き言葉が完全に一般化して、誰でも言葉を書いてみんなで共有する状態が一般化している訳ですが、改めて「書き言葉」独自の能力を確かめてみるのもいいんじゃないかなーと思ってます。そういった作業によって、声とかリズムとか韻文とか、悪口だとか(笑)、書かれていないところに本質がある言葉の力も、もっともっと正確にアゲてけるんじゃないでしょうか。

■姫乃たま(ひめの たま) 地下アイドル/ライター

1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。

■大谷能生
1972年生まれ。音楽(サックス・エレクトロニクス・作編曲・トラックメイキング)/批評(ジャズ史・20世紀音楽史・音楽理論)。96年〜02年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。菊地成孔との共著『憂鬱と官能を教えた学校』や、単著『貧しい音楽』『散文世界の散漫な散策 二〇世紀の批評を読む』『ジャズと自由は手をとって(地獄に)行く』など著作多数。音楽家としてはsim、mas、JazzDommunisters、呑むズ、蓮沼執太フィルなど多くのグループやセッションに参加。

<大谷能生ライブ情報>

2017年2月5日(日)「赤い砂漠」@荻窪velvetsun
2017年2月16日(木)〜19日(日)横浜ダンス・コレクション「Choreograph」に音楽・演奏・出演
2017年2月25日(土)〜26日(日)蓮沼執太フィル@スパイラル・ホール
2017年3月1日(水)「吉田アミ、か、大谷能生2017 vol.2」@荻窪velvetsun (ゲスト:滝口悠生)

大谷能生の朝顔観察日記
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