>  >  > 星野源楽曲にみる「配合の素晴らしさ」

星野源の音楽はなぜ“キャッチーでマニアック”なのか? 「ひらめき」から「恋」まで楽曲分析

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 さて、前述したように『YELLOW DANCER』は星野がブラック・ミュージックのエッセンスを大々的に取り込んだアルバムだが、8枚目のシングル表題曲にもなった「SUN」は、それを象徴する楽曲だ。キーは、またしても<A♭>で、イントロは<D♭Maj7 ・Cm7 /B♭m7・D♭onE♭ーD♭Maj7・Cm7/B♭m7・D♭onE♭ーD♭Maj7・Cm7/B♭m7・D♭onE♭ーG♭(-5)>。これはまさしく、ジャクソン5の「I’ll Be There」を始めとするモータウン・ソング王道のコード進行。キメのリズムも、ジャクソン・シスターズ「Miracles」などでお馴染みだ。Aメロのコード進行は、<A♭/ Gm7(-5) ・C7ーFm7 /E♭m7・A♭7(9)ーCm7/Fm7ーB♭m7/E♭7>。経過和音マイナーフラットファイブの<Gm7(-5)> や、ドミナントマイナーの<E♭m7>など、お馴染みのコードを用いつつ、メロディはファンキーな譜割になっていたり、フラット気味に歌って黒っぽさを出していたりと、これまで紹介してきた楽曲にはなかったアプローチが取られている。サビは、前段が<A♭Maj7 /D♭Maj7ーE♭・Edim /Fm7ーB♭m7 /Cm7ーB♭m7 /E♭>で、後段が<A♭Maj7/D♭Maj7 ーE♭/Fm7ーB♭m7 /Cm7ーB♭m7 /Cm7ーD♭Maj7・Cm7 /B♭m7ーE♭>。経過和音にディミニッシュコード<Edim>を使っている以外、シンプルなダイアトニック・コードで構成されており、メロディもコード構成音で成り立つシンプルなもの。“ドレミ、ドレミ”と繰り返す歌い出しなど、一発で覚えてしまうほどキャッチーだ。この、わらべ唄のようなメロディと、モータウン・コード進行、ファンキーな譜割、ソウルフルな節回しが絶妙なバランスで配合されているからこそ、マニアックなアレンジの「SUN」がお茶の間でも広く受け入れられたのだろう。

 最後に「恋」。キーは<A>で、オリエンタルなフレーズが印象的なイントロのコード展開は、前段が<DMaj7 /G7(9)ーF#m7 /A7(9) ーDmaj7/ G7(9)ーF#m7 /A7(9)>。後段が<DMaj7 /G7(9)ーF#m7 /A7(9)ーBm7 ・C#m7 /DMaj7ーBm7onE>。フレーズの1音目は、<DMaj7>に対してメジャーセブンスの<レ♭>であり、これも中毒性のある「居心地の悪さ」の秘密。ちなみに「SUN」のBメロと聴き比べてみると、非常によく似た旋律。これは星野による「遊び心」というか、ちょっとした「仕掛け」なのかもしれない。ソウルっぽさは、オクターブユニゾンで歌われるBメロや、<Bm7→C#m7 →DMaj7>と駆け上がっていくコード進行に見て取れる(ジャクソン5「ABC」やシュープリームス「Heat Wave」などでお馴染み)。サビのコードは、<A /C#m7ーF#m7 /C#m7ーDMaj7 /C#m7ーBm7・C#m7 /E7sus4ーA /C#m7ーF#m7/ A7ーBm7ーBm7onE>。“ミソミソラ〜ソミド、レ、ミ”という、強烈な中毒性を放つ「ヨナ抜き音階」のメロディが、この曲の肝である。Aメロ、Bメロ、そしてサビと、メロの音数も変化し、それによって楽曲のスピード感をコントロールしているのも注目すべきポイントだ。

 以前、CINRA.NETのコラム(http://www.cinra.net/review/20151201-hoshinogen)でも述べたが、「下半身モヤモヤ、みぞおちワクワク、頭クラクラ」という、細野晴臣がYMOを結成する際に掲げたスローガン ーーつまり、モヤモヤするようなリズムと、ワクワクするような和音やメロディ、クラクラするような(知的な)コンセプトは、自ら「イエローな音楽」と称した近年の星野の楽曲に、そのまま当てはまる。イエロー・マジック・オーケストラの正当後継者はやはり、星野源ではなかろうか。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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