星野源が語る“イエローミュージック”の新展開「自分が突き動かされる曲をつくりたい」

星野源が語る“イエローミュージック”の新展開

 星野源が9thシングル『恋』を10月5日にリリースした。昨年12月2日にリリースされ、大ヒットを記録した4thアルバム『YELLOW DANCER』以来となる待望のニューシングルだ。
 今回のインタビューでは、その『YELLOW DANCER』で打ち立てた“イエローミュージック”のコンセプトから音楽への取り組み方、今作に与えた影響など『恋』収録曲について星野源の現在の考えが詳細に語られている。聞き手は音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏。(編集部)

「自分の感覚に自信をもてるようになった」

――『YELLOW DANCER』のリリースから約10ヶ月が経過しました。『YELLOW DANCER』は星野さんのキャリア的にも日本の音楽シーン的にもエポックメイキングな作品になったと思いますが、改めて星野さん自身『YELLOW DANCER』で得た最大の収穫はなんだと考えていますか?

星野:自分の好きな音楽を好きなようにやっていいんだって思えたことです。『YELLOW DANCER』は、ファンの人にもファンじゃなかった人にも、本当にたくさんの人たちに聴いてもらえたので。自分の音楽趣味や自分が追求していたことを、ようやく受け入れてもらえたような感覚があるんです。

――ここまでの反響は予想していましたか?

星野:ぜんぜんです(笑)。すごいものができたっていう手応えはあったんですけど、なにかのニーズに応じてつくったアルバムというよりは、好き勝手に楽しくつくれた満足感が大きいアルバムという感じだったので。たとえば、海外の音楽との同時代性みたいなものがこのなかにはあるんじゃないかとか、そういう感覚もあるにはあったんですよ。ただ、それが日本で受け入れられるにはもう少し時間がかかる気がしていたし、そういう部分も評価されたうえで大ヒットにつながるとはまったく予想していませんでしたね。

ーー「好き勝手につくったアルバム」が商業的にも批評的にも大きな成功をおさめたことは、星野さんの音楽への姿勢やモチベーション、特に今回のニューシングル『恋』の制作にどんな影響を及ぼしていますか?

星野:いろいろあります。まず、予算を気にすることなく曲をつくれるようになりました。レコード会社さんが、もっとお金を出してくれるようになった(笑)。

ーーフフフフフ……とても大事なことですよね。

星野:以前にはできなかったこととして、無目的に曲をつくれるようになったんですよ。リリースも決まっていなければタイアップも決まっているわけでもない曲を、自分の好きなタイミングでつくらせてもらえるようになりました。『恋』のカップリングの「Continues」は、そういうなかでできた曲なんです。2016年のリリースは今回のシングルだけになることがあらかじめ決まっていたこともあって、誰かから「『YELLOW DANCER』の次、期待してるよ!」みたいに言われる前に自分がつくりたいものを先につくってしまいたくて。別にそんなに緊張するようなタチではないんだけど、「『YELLOW DANCER』の次」というのはいざ制作に着手したらいやがうえにも意識することになるだろうと思ったんですよね。だから、こうやって無目的に曲をつくれる環境を手に入れることができたのはすごく大きいです。あとは、自分の感覚に自信をもてるようになったというのもありますね。自分がつくりたいと思ったものを忠実に、欲望のおもむくままにつくったのが『YELLOW DANCER』だったので、そういう気持ちで曲をつくっていっていいんだなって。そんなこともあって、今回は「つくりたい!」と思い立ってから実際につくり始めるまでがものすごく早かったです。

――精神的にも物質的にも理想的な制作環境ができあがりつつあると。

星野:そうですね。スタッフのみんなとの息もどんどん合ってきてますね。そんなにコミュニケーションをとらなくても伝わるぐらいになっているし、いろいろな意味ですごく良い状態だと思います。

――『YELLOW DANCER』を通じて“イエローミュージック”という大きな指標ができたことにより、音楽の取り組み方になにか変化はありますか?

星野:イエローミュージックという、僕が思い描いているジャンルや言葉をもっと浸透させていきたいという思いは強くありますね。僕はもともとブラックミュージックが好きなんですけど、でもブラックミュージックを突き詰めていくだけではそれが自分たちの音楽にはならないという葛藤がずっとあって。もう血の段階で絶対に敵わないし、うまく真似できることが賞賛される時代はもう終わったと思うんですね。そんななかで自分たちの音楽とは何かと考えたときに、いろんな国の音楽を吸収しつつも真似をするのではなく自分たちのフィルターをしっかり通した音楽、イエローミュージックというものを考えたんですけど、今回の『恋』に関しては「これがイエローミュージックです」と提示して「ああ、なるほど」と感覚的に思ってもらえるようなものをつくりたくて。「恋」と、あと「Continues」もそうなんですけど、もう説明をしなくても身体感覚でイエローミュージックとしてフィットする曲をつくりたいとは思っていました。

――そのほか、今回のシングルの制作にあたって自分に課したハードルやテーマはありますか?

星野:最初にできた「Continues」では、『YELLOW DANCER』を通じて僕がつくったものをよりイエローミュージックにしていくこと……さっきも言ったように、説明しなくてもイエローミュージックを理解してもらえるような曲にしたいという大きなテーマがありました。その「Continues」で理想に近いものができたこともあって、次につくった「Drinking Dance」は特になにも意識することなくただ楽しい曲にしたくて。ずっとファルセットでふわふわ歌っていたり、アレンジも含めて遊びの感覚が強い曲ですね。で、この2曲ができてから「恋」の制作に取り掛かったわけなんですけど、先につくった「Continues」と「Drinking Dance」は『YELLOW DANCER』でつくりあげたものを引っ張っていく力を持った曲というよりは、どちらかというと足元を安定させるための曲だと思っていて。一方の「恋」はその2曲や『YELLOW DANCER』でやったことを踏まえつつ、僕自身も引っ張ってくれるようなものすごく力のある曲、もっと言うとJ-POPとしての強さみたいなものを出すことをいちばんの目標にしていました。とにかくワクワクして、ムズムズしてくるような曲……細かいところを言い出すといろいろあるんですけど、大まかに言うと「すべてを引っ張ってくれるような力がある曲」をつくりたくて。これはもう自分のなかでの感覚でしかないんですけどね。自分がワクワクできるかどうか、自分で聴いて元気が出るようなものを探していくっていう感じです。金属探知機で宝探しをするみたいに、自分がビビッと反応するまでひたすらつくり続けました。

――直接的に影響を受けているかどうかはともかく、今回のシングルをつくるにあたってなにか刺激になった音楽作品はありますか?

星野:「恋」に関してはそんなにないんですけど、「Continues」ではジョージ・デュークとグローヴァー・ワシントン・ジュニア、それから細野(晴臣)さんの要素を入れ込むという目標があって(笑)。

――フフフフフ……それはまたとんでもないアイデアを。

星野:それぞれのエッセンスを『YELLOW DANCER』でやったことに組み合わせたかったんですけど、特にジョージ・デューク的な要素は聴いてみてもぜんぜんわからないと思います(笑)。実は、ジョージ・デュークはツアーのときに会場でずっと流していたんですよ。自分の好きな曲を選んで、プレイリストをつくって。週に一度は必ず聴いていたし、移動のときもずっと聴いていたぐらいに好きなんです。キーボードプレイヤーなんだけど、すごく歌心があるんですよね。

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