奈良発オルタナティヴ新鋭、Age Factoryは“今”だけを見ている――石井恵梨子のライブ批評 

奈良発のオルタナティヴ新鋭、Age Factory
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 まず、ステージに上がった清水の目がいい。なめんな、の気迫に溢れている。髪は短く刈り込まれ、なぜか裸足でギターを構えているから、修行僧みたいなストイシズムも感じてしまう。ウェーイと客を煽りながら笑顔で登場するバンドとは対極の空気だ。長い髪に覆われて顔がよく見えないベース西口の存在感もちょっと異様。そして、増子がドラムを渾身の力でぶっ叩くところから演奏がスタートした。やたらとパワフルなドラミングである。

 ここで絶叫が炸裂するならある意味予想通りだが、しかし一曲目「ロードショー」は、ミドルテンポのフォーキーな歌ものである。何気ない週末の景色、温かさと切なさと悲しさが入り交じる情感を歌い上げる清水のボーカルは、色気というよりは泥臭い男気を感じさせる。ハスキーで、強く太く響いてくる反面、ざらついたトゲやアクも感じさせる不思議な声である。またサビに入ると、リズム隊の二人が女性コーラスかと勘違いするくらいのファルセットを加えていく。男っぽい無骨さと柔らかなハーモニー。歌こそがこのバンドの骨格であると瞬時に理解する。

 その骨に肉付けをするサウンドが、どれも20代前半とは思えないセンスである。ブッチャーズの影響は冒頭にも書いたが、衝動がほとばしるパンクナンバー「疾走」にはゲンドウ(カウパァズ(COWPERS)~スパイラル・コード(SPIRAL CHORD)~現zArAme)の遺伝子を感じるし、極端にヘヴィでフリーキーな「Puke」や「金木犀」には、かつてless than TVやディスコード・レコードから発信されていた個性派たちの匂いが残っている。曲調そのものが似ている、というのとは少し違う。90年代にオルタナ/ポスト・ハードコアと呼ばれたそれらは、どれも作曲者の「キャラ」ではなく「アイデンティティ」を強く感じる音楽だった。Age Factoryもしかり。90’sの意地と反逆と自由度が、今ここで、こんなふうに蘇っているのか。クラクラした。

 音も、佇まいも、若いリスナーにとってはやたらと新鮮だろう。もちろん90年代が青春だった世代が再びライブハウスに戻ってくる理由としても十分だ。懐かしさと新しさ、音源には収まりきらない生演奏の迫力に、何度も背筋がゾクゾクする。40分のセットリスト、一曲目以外はすべてが新作からの未発表曲というのも潔い。清水は「これが奈良スタイル」とMCにしていたが、その真偽はさておいても、とことんまで媚びのないライブをするバンドだった。

 先人の影響が見える箇所も多いから、まだまだ完全なオリジナルとは言い難い。ただ重要なのはそこではなく、若い彼らが昔の音をよく知っていることでもない。Age Factoryの骨はあくまで歌であり、全身から汗を滴らせて歌う清水は、ひたむきに「今」しか見ていないのだ。地方都市で生きている22歳の今。希望も絶望もなく、焦燥とか虚無なら確実にあるという今。「ゆとり世代の心象風景」という言葉で片付くのなら、こんなバンドになってはいない。キャラとは異なるアイデンティティを必死で問い、処し方ではなく生き方を探そうとするロックバンド。たとえば新曲「疾走」の歌詞はこんなふうに始まっている。

 〈生温い腐った風が 俺を時代を舐めて行った
  乾かない心を抱え 俺もお前もどこへ行くの
  吹き抜ける逆方向 終わらない俺の闘争〉

 俺の闘争、訳して『My War』とは、ブラック・フラッグのセカンドのタイトルでもある。それまでのパンクシーンやファンに対して、自分たちは逆方向に行きますよと宣言するような異色作なのだが、その姿勢と意志をAge Factoryは受け継ごうとしているのだと思う。どこに行きたいのか、まだ明言はできない。でも現状は打破したい。少なくとも今の時代とは逆方向へ突き抜けたい。そういう気概が、音に、表情に、ライブ・パフォーマンスにしっかり反映されていた。言い換えれば強烈な野心があるのだろうし、このバンドでこうありたいというイメージをすでに描けている。「奈良なのでたまたまこうなっちゃいました」というボンヤリ感が全然ない。これも好ましい限りだった。

 驚くことだらけだ。若い世代は大人たちが思うほど小粒揃いではないし、物分りがいいわけでもない。奈良発のオルタナティヴ新鋭、Age Factory。この名前は、ここから数年で一気に広がっていきそうだ。

(撮影=西槇太一)

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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