くるり、Mr.Childrenらが雨の中で“名演”見せた『京都音博』 兵庫慎司が全アクトをレポート

くるり主催『京都音博』レポート

 そんなことを考えながら、会場をあとにし、続く大雨の中、街に出て着替えを買ったりしていたのだが(雨具をがっちり着ていても染みこんでくるぐらいの雨量だったのです)、ふとツイッターを見たら、くるりがLINE LIVEでライブを生配信をすることを決めたと知る。四条の地下道で、あわててスマホをつなぐ。
 
 配信場所は、梅小路公園の中にある、控室として使っている建物の中のようだ。岸田のあいさつに続いて、予定していた11曲の中から、「JUBILEE」「さよなら春の日」「デルタ」「ブレーメン」「宿はなし」の5曲が演奏された(「宿はなし」は岸田・佐藤のふたりで弾き語り)。

 見る限り、オーケストラはフルメンバーではなかったし、映像もPAもライブ生配信用の機材を備えて行ったものとは思えない状態だった。あとでツイッターをさかのぼったら佐藤が「完全アコースティックの簡易バンドでライブします!」と告知していた。PAはマイク1本、映像はスタッフのスマホのカメラを使ったという。

 なので、しっかり聴ける状態ではなかったが、たとえそうであってもとにかくやるべきだと彼らが判断したこと、それが、とてもグッときた。

 それに、ケチくさいことを言うと、彼らは『京都音博』に来てくれた人たちにこれを届けたかったんだろうが、この方法だと誰でも視聴できてしまう。そんなことどうでもいいと思った、もしくはそんなこと考えすらしなかったであろうことにも、とてもグッときた。

 10回目の『京都音楽博覧会』は、そんなふうに、くるりもお客さんも望まない形ではあるが、とにかく強く強く記憶に残る回になった。

 なお、さっき、さも岸田と佐藤の無念がよくわかるみたいなことを書いたが、その3日後、全然わかっていなかったことを知ることになる。

 せっかくのめったにない機会なのに、『京都音博』でしかやらないのはもったいない。おそらくそんな理由で決めたと思われる(違ったらごめんなさい)、QURULI featuring Flip Philipp and Ambassade Orchesterによる、渋谷・オーチャードホール2デイズ・コンサート『NOW AND 弦』の2日目を観たのだ。

 すごい音楽体験だった。何度も「うわ、俺今すごいもん聴いてる」とゾワゾワきた。9年前のパシフィコ横浜も観ているのだが、全然違った。あたりまえだ、指揮者が違うし曲が違うしサポートメンバーも違うし、何よりも岸田と佐藤が当時のままじゃないんだから。でも震えた。

 そしてそのように「うわ、すげえ」とおののけばおののくほど、「そうだよなあ、これ、『京都音博』のお客さんにフルで見せたかったよなあ」と、ふたりの無念がよりいっそう染みてくる思いをしたのでした。

 ただ、この編成による演奏、岸田と佐藤にとってもすごくスペシャルな体験であるようで、MCの度に「これすっごい集中するけどめちゃめちゃ楽しい」「終わるのが悲しい」「この編成でツアーやりたい」「またやりたい」というようなことを、ふたりとも何度も口にしていた。

 じゃあ来年の『京都音博』でぜひ。というほど簡単に実現することではないだろうが、いつか必ずリベンジを果たしてくれると思うので、それを楽しみにしながら今後も足を運びたい。先に楽しみができた、と思うことにします。フジロックもサマソニも皆勤ではない自分にとって、唯一の全回通っているフェスが、この『京都音博』だし。

(取材・文=兵庫慎司/写真=久保憲司)

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