『君の名は。』、『怒り』、『シン・ゴジラ』……音楽と映画の新しい関係を柴那典が考察

V.A『シング・ストリート 未来へのうた』

『シング・ストリート 未来へのうた』予告編

 そしてもう一作。「音楽と映画の幸福な関係」というテーマにおいては、この作品を外すわけにはいかないだろう。『Once ダブリンの街角で』『はじまりのうた』も最高だったジョン・カーニー監督による自伝的な映画『シング・ストリート 未来へのうた』。80年代、冴えない日々を送る少年がバンドを組み、憧れの女性とMTVで流れるロックスターのおかげで少しずつ変わっていく青春の物語を描く一作。サウンドトラックには、劇中で使用されるデュラン・デュランやザ・キュアーやザ・ジャムなどの80年代ロックの名曲と、劇中バンド「シング・ストリート」が奏でるオリジナルソングが混ざって収録されている。『はじまりのうた』時代からの付き合いでもあるアダム・レヴィーンの歌う主題歌「ゴー・ナウ」もいい。

アダム・レヴィーン - ゴー・ナウ

 でも、これ、映画がほんとに素敵だっただけに、サントラの作り方には個人的にはちょっと不満があるのだ。ここまで音楽と密接に関わり合う映画なのだから、単なるサントラとは別に、映画の世界と現実の世界をつなぐようなアイテムとしてのサントラを作ってほしかったな、とも思う。たとえば劇中バンドの「シング・ストリート」が高校のダンスパーティーで披露した曲をまとめたようなアイテムとか、劇中曲「モデルの謎」のミュージックビデオを収録した(あえてVTR画質の)アイテムとか。

Sing Street "Riddle of the Model" clip - in cinemas May 20

 『はじまりのうた』もそうだった。せっかく「ニューヨークの街をスタジオ代わりにゲリラレコーディングでアルバムを作る」というストーリーなんだから、そして音楽もストーリーも本当に素晴らしいもんだから、通常のサントラとは別でいいから「劇中で完成したアルバム」のていのサントラ盤を企画して発売してほしかったな、とも思う。断言していいけど映画観た人は絶対買うと思う。

映画『はじまりのうた』スペシャルミュージッククリップ「Tell Me If You Wanna Go Home」

 そんな風に、サウンドトラックって、いろんな可能性があるなあ、という5枚でした。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

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