橘高文彦が語る、32年の音楽人生で得た知恵と覚悟「HR/HMを貫いてきたことに誇りを感じる」

「ボーカリストは俺が一番憧れているポジションかもしれない」

──橘高さんは4つのバンドで山田晃士さん、大槻ケンヂさん、二井原実さん、tezyaさんというそれぞれ個性の異なるボーカリストと活動してきました。橘高さんはギタリストにとってボーカリストという存在はどうあるべきと考えていますか?

橘高:これはギタリスト共通の考えだと思うけど、ギタリストにとってのボーカリストって自分自身の声なんだよね。なのでいつも曲を書くときというのは、例えばEuphoriaの曲だったら隣にtezyaがいると想像して、tezyaがパフォーマンスを始めるのを待つ。そして歌い始めたらそれをコピーする。それが俺にとっての曲を書くという行為。つまり俺の音楽を奏で始めるのは、そのときのボーカリストなの。

──それは面白い話ですね。

橘高:で、ボーカルがサビを歌い上げた後にギターソロへ突入するところで、俺はカタルシスを感じる。だから、歌い上げてくれないとギターソロの意味も感じないくらい。曲によってはCHEAP TRICKやグランジの曲みたいにギターソロがなくてもいいと思ってるけど、ボーカリストがグワーッと行った後にギタリストがギターソロを弾くのってたまらなく快感なんだよ。なので、俺にとってのボーカリストというのは音楽を奏で始めるきっかけの存在であり、そのきっかけの存在がいる限りは枯渇しない。逆に言えば、その俺を触発してくれる「隣に立つ人」を探し続けた日々なのよ。

──なるほど。

橘高:筋少に入った理由も、大槻が俺を煽るボーカリストだったから。山田晃士もそうで、俺は彼と16歳のときにスタジオで会ってるけど、歌った瞬間にイマジネーションがいっぱい湧き出てきたの。二井原さんなんか当然そうでしょ。俺がガキの頃から聴いてきた人だから、触発されないわけがない。で、tezyaはオーディションで選んだんだけど、実はそのとき候補が2人いて。1人はHR/HMをやってたボーカリストで、その人からは俺は新曲は聴こえてこなかった。なぜなら、俺は筋少をやってるしAROUGEをやってきたから。でもtezyaからはすごくグラマラスで退廃的なものが感じられて、イマジネーションを掻き立てられた。ちょうどEuphoriaでやりたかった世界観もグラマラスでデカダンスなものだったし、彼は俺と同じネガティブなタイプだったのもよかった(笑)。

──今まで会ったことのないタイプだったからこそ、余計にインスピレーションを得られたと。

橘高:そうだね。結局ボーカリストっていうのは、実は俺が一番憧れているポジションなのかもしれない。やっぱりボーカリストというのはいつでもバンドの代表だと思うし、そうじゃないバンドはダメだと思ってる。こうやって30周年を迎えることができたのは、いいボーカリストに恵まれてきたからというのが象徴的な事実だと思うよ。だって弱いボーカリストとはやりたくないし、だったら俺はひとりでやるなあ。実際そういうバンドもいるけどね、こと様式美の世界には(笑)。でも俺の場合はひとりでやるよりもボーカリストと戦い続けている関係が一番健全だと思うし、そういうライバルでありパートナーが欲しかった。これはずっと言いたかったことだけど、今まであまり言う機会がなかったことですね。

──そこが橘高さんと世の様式美ギタリストとの大きな違いなんでしょうね。様式美ギタリストの中には自分のプレイを一番に聴かせたくて、そのプレイを映えさせるために隣にボーカリストを置くという人もいますし。

橘高:例えばマイケル・シェンカーは……って、同じレコード会社だからあんまり言わないほうがいいか(笑)。ボーカリストが何人もチェンジしたようなバンドの場合、個性が弱いボーカリストのほうがギターソロが良かったっていうケースも確かにあるからね。ゲイリー・バーデンとは言わないけど(笑)。

──(笑)。でもすごく納得できました。

橘高:でも本当にあるんだよ。ギタリストは同じなのに、ボーカルによってギターが違うように聴こえるというのは。あとボーカリストのキーや声域の違いでギターソロのレンジも変わる。俺の場合も、筋少もX.Y.Z.→AもEuphoriaも違うって言われるし。こういうジャンルをあまり聴いてない人には全部一緒に聴こえるかもしれないけど(笑)。

「ギターのフレーズは無限だし、それが様式美の楽しいところ」

──日本のロックリスナーの中には、橘高さんの音楽で初めてHR/HMの世界に触れたという人も多いと思います。

橘高:そうかもしれないですね。例えば筋少としてテレビによく出たことで、俺がギターを弾く姿を観て初めてギブソン・フライングVを知った人もいれば、初めてマーシャルアンプを観た人もいる。そういう人たちを相手にしていると、たまに俺のフレーズに対して「またああいう曲か」という人もいる。だからこそこの30数年、俺は世界観は同じでも、全く同じフレーズにならないようにするのを生きがいに頑張ってるのね。1弦から3弦に行ったんだったら、今度は3弦から1弦に行く。数の組み合わせは本当に無限だし、それが様式美の楽しいところでもある。と同時にすごく閉鎖的な世界でもあるから、余計にボーカリストが大事になってくるのかもしれない。

──それが橘高さんのオリジナリティにつながったわけですね。そういう橘高さんに影響を受けたギタリストも多いのではないでしょうか。

橘高:そういうギタリストの中には、すでにプロの世界で活躍している人もいる。でも、なぜ彼らがプロになれたかというと、影響を受けつつも俺と同じことをしなかったから。俺がきっかけでギターを初めて、俺が昔出した『100%橘高文彦』っていうギター教則本を買ってくれたと言うバンドマンも多いし、フェスでも楽屋に挨拶に来てくれる人もいる。そういう人は「え、君が俺から?」っていう異ジャンルに多くて、逆に同ジャンルの人は俺に直接会ったときは言ってくれるのにインタビューではあまり言ってくれない(笑)。でも言ってくれないってことは、俺のことをライバルだと思ってくれてるんだなと解釈できて、それはそれで嬉しいんだけどね。

──それこそ、様式美の人たちならではの負けず嫌いというか。

橘高:かもね(笑)。でも、俺を超えるために俺と同じ方向じゃないところに独自性を見出してくれた異ジャンルの人たちに対しては、とっても嬉しいなと思ってる。俺はこれでひとつ極めるために、このジャンルをやってるのに、彼らは違う考え方、違う遺伝子を持って別の方向を極めようとしてる。POLYSICSのハヤシくんなんて、まさにそうだよね。もちろんバリバリの同系統で極める人もいて欲しいと思うし、そういう人たちもそろそろ「影響受けました!」とインタビューで言ってくれると嬉しいんだけどな(笑)。俺はLOUDNESSの高崎晃さんやBOW WOWの山本恭司さんからバリバリ影響受けてると言ってきたけどね。

──さて、ここまでたくさん貴重なお話を伺ってきましたが、今後も橘高さんは今のペースで筋少、X.Y.Z.→A、そしてEuphoria、もしかしたら山田晃士さんとも一緒に(笑)、このペースで活動を続けていくんでしょうか?

橘高:いやいや、このペースはなかなか大変なんですよ(笑)。ただ、もうひとりの自分がこのペースを望み続ける限りは、リクエストに応え続けられる限り……っていうかね、負けたくないだけなんだよね。これはギタリストによくあることなんだろうけど、弾けないフレーズを意地でも弾けるようにする人種だからさ(笑)。今はもう酒は止めたんですが、昔は朝まで酒飲んだりしたのもそうなんだけど、負けず嫌いでいる限りはこのペースで続けていきたいし、それで喜んでくれる人がいてくれるのなら嬉しい限りだなと思います。だって作品をリリースしたりライブをやったりしても、「別に誰も望んでないよ」って言われたら“永遠の24歳”とか言ってられないし。ただの変なオジさんになっちゃいますよ(笑)。そういう変なオジさんが変なままでいられて、それを待ってくれている人がいて、さらに次も望まれることがある限りは、ずっと変な人でい続けられるからね。それが一番幸せなこと、つまりEuphoriaな状態、至福の瞬間なんだと思います。

(取材・文=西廣智一)

■リリース情報
『橘高文彦デビュー30周年記念LIVE“Fumihiko Kitsutaka's Euphoria”』
発売:7月13日
価格:¥6,300(税抜)
01. Opening ~ Euphoria
02. ディストレス
03. 絶望という名の…
04. 君を失くして
05. Bass Solo ~ ダンス・デザイアー
06. Keyboard Solo ~ 僕の女神
07. Find My Life ~ Drums Solo
08. Gone Crazy
09. 傷だらけのローラ
10. 月の雫
11. Guitar Solo ~ Justice Of Black
12. 聖なる楽園
13. 変わらぬ朝陽
14. Falcon
15. 水曜日の憂鬱
16. 夢こそ真実

【特典映像】
・“Fumihiko Kitsutaka's Euphoria”メンバーお祝いコメント
・橘高文彦インタビュー“Euphoria”編
・“Perpetual Dreamer”メンバーお祝いコメント
・“Perpetual Dreamer”LIVE

・販売店特典
多売店特典:オリジナルステッカー“Fumihiko Kitsutaka's Euphoria”Ver.

『橘高文彦デビュー30周年記念LIVE“AROUGE”』
発売:7月13日
価格:¥6,300(税抜)
01. Opening ~ Rock Emotion
02. Dead Or Alive
03. Don't Get Back
04. Everybody's Rock & Roll
05. Rock Emotion
06. In My Vision
07. Medley (Night ~ 見果てぬ夢 ~ For Those Who Dare)
08. Tonight
09. See You In The Dream
10. Makin' Love
11. Winter Days ~ Guitar Solo
12. Falcon
13. 傀儡のワルツ
14. 指
15. No.No.No!
16. Remenber
17. Chains
18. I Don't Know What Is Love
19. 真夜中の愛劇
20. Play A Game

【特典映像】
・“AROUGE”メンバーお祝いコメント
・橘高文彦インタビュー“AROUGE”編
・“Zig+Zag”メンバーお祝いコメント
・“Zig+Zag”LIVE

※タワーレコード、Amazon、ブラスティーアーティストショップにて販売

・販売店特典
タワーレコード限定特典:オリジナルポストカード“AROUGE”Ver.
ブラスティーアーティストショップ及びLIVE会場限定特典:未発表秘蔵映像DVD-R
「1986年6年22日 AROUGE解散LIVE」より
1. Gt.Solo ~ Falcon (Rehearsal) 2. Opening ~ Dead Or Alive 収録

『橘高文彦デビュー30周年記念LIVE“X.Y.Z.→A”』
発売:7月13日
価格:¥6,300(税抜)
01. Opening ~ Reasons
02. ZtoA
03. Screamers
04. Shine Your Loving Light On Me
05. 69
06. Faster! Harder! Louder! Deeper!
07. Dream Castle
08. Ambition
09. Forever Be With You
10. Justice
11. Maria
12. Midnight Train
13. Open Your Heart ~ Guitar Solo
14. Incubation
15. Violence ~ Drums Solo
16. Real Man ~ Bass Solo
17. Razor's Edge
18. Patriot's Dream (美しく花と散れ)
19. Yesterday! Today! Tomorrow!
20. Never Ending Story
21. Don't Let The Sun Go Down
22. Ending ~ Promised Land

【特典映像】
・“X.Y.Z.→A”メンバーお祝いコメント
・橘高文彦インタビュー“X.Y.Z.→A”編

※タワーレコード、Amazon、ブラスティーアーティストショップにて販売

・販売店特典
タワーレコード限定特典:オリジナルポストカード“X.Y.Z.→A”Ver.
ブラスティーアーティストショップ及びLIVE会場限定特典:橘高文彦ソロ固定カメラ映像DVD-R
1. Z to A 2. Yesterday! Today! Tomorrow! 収録

『橘高文彦デビュー30周年記念LIVE“筋肉少女帯”』
発売:7月13日
価格:¥6,300(税抜)
01. Opening ~ サーカスの来た日
02. ゾロ目
03. くるくる少女
04. ノゾミのなくならない世界
05. 踊る赤ちゃん人間
06. レジテロの夢
07. 球体関節人形の夜
08. おわかりいただけただろうか (Vo.橘高 Ver.)
09. 小さな恋のメロディ (Vo.橘高 Ver.)
10. 交渉人とロザリア
11. レティクル座の花園
12. 橘高文彦 Guitar Solo ~ 再殺部隊
13. 詩人オウムの世界
14. パブロフの犬
15. ア・デイ・イン・ザ・ライフ
16. Thank You (Vo.橘高)
17. 影法師
18. 少女の王国
19. イワンのばか
20. トリフィドの日が来ても二人だけは生き抜く
21. Ending ~ 航海の日

【特典映像】
・“筋肉少女帯”メンバーお祝いコメント
・橘高文彦インタビュー“筋肉少女帯”編

・販売店特典
タワーレコード限定特典:オリジナルポストカード“筋肉少女帯”Ver.

■オフィシャルHP
http://www.kitsutaka.net/index.html

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