『Ms.リリシスト〜岩里祐穂作詞生活35周年Anniversary Album〜』インタビュー
岩里祐穂が語る、作詞家としての歩みと矜持「時代を超える言葉を編み出したい」
「今井美樹さんと坂本真綾さんは年齢が違うだけで、私の中では同じ」
――岩里さんにとって今井美樹さんとの出会いが大きかったということですが、その次に岩里さんのキャリアの中で大きなターニングポイントとなったのは?
岩里:坂本真綾さんですね。真綾ちゃんに出会えたのが96年だと思います。彼女にどうして出会ったかといえば、今井美樹さんの『Love Of My Life』というアルバムで菅野よう子さんと出会うんです。そのすぐ後に、真綾ちゃんが主役の『天空のエスカフローネ』というアニメを菅野さんが全部手掛けることになって。その主役であった坂本真綾に歌わせたら「声が良いのよ」っていうことになり、その子のプロジェクトも始めるから手伝って、と声を掛けられた。そういう経緯でした。
――なるほど。そこからアニメの世界でのお仕事を本格的に始めるようになった。
岩里:でもね、真綾ちゃんにはあまりアニメを感じなかったんです。アニメだからどうこう、ということは全くなくて、彼女を一人のシンガーとして捉えていました。そこに菅野よう子というプロデューサーがいた。彼女の作る音楽は素晴らしかったですし、菅野よう子という人の音楽と、坂本真綾という素晴らしいシンガーとのトライアングルで書いただけで。アニソンという意識はなかったですね。今井美樹はたまたまドラマの主題歌であり、坂本真綾はたまたまアニメの主題歌だったというだけのことなんですよ。
――なるほど。外側から見るとジャンルが違うけれども、歌詞を書いている側の意識としては変わらなかった。
岩里:変わらないですね。今井美樹はもっと年齢が上だから、20代から30代くらいの女性像を書いていたものが、10代の少女になったというだけで。内面を掘り下げる感じは一緒なんですね。今井美樹と坂本真綾は年齢が違うだけで、私の中では同じなんです。
――坂本真綾さんの作詞を手掛ける中で、80年代の時代性とはまた違った表現も生まれてきましたか?
岩里:譜割りはどんどん変わりましたね。言葉の音への乗せ方。さっき「BIN・KANルージュ」という曲を書いたって言いましたけど、あの曲のサビは「ビ・ン・カ・ン・ルージュ」なんですね。これが80年代だった。今だったら絶対そうならない。「ビン・カン・ルー・ジュ」となるんです。
――ひとつの音符に「ビ」「ン」「カ」「ン」と1文字ずつ当てていく時代だった。
岩里:やっぱり80年代は1音に1文字ずつでしたね。でも、90年代にリアルで10代だった坂本真綾は、全然そういうふうには乗せないんですね。その頃、彼女と共作で詞を書く機会があって、そこに驚きました。他の新しいバンドの人たちもそうだったし。「あ、この曲にこう乗せるんだ」って大変勉強になりました。
――どういうところが刺激になったんでしょう?
岩里:作詞家は、プロデューサーやディレクターから、作曲家が作った曲に「こういうテーマで書いて」とリクエストされて書くんですよね。大体は曲先ですから。そうすると、その人が作った曲に忠実に書いていくのが当たり前になる。それに、ディレクターが「これじゃダメなんだよ」と言ったら世の中には出ないし、歌手が「この言葉は嫌だな」と言ったらこれまた世の中に出ないんですよ。だけどバンドは、自分で曲を作るし、歌詞を書くし、基本自分で歌いたいように歌える。だから言葉が制限なく好きなように入るわけで、面白い表現がどんどん出てくる。作詞家にとっては、そういう宿命というか、ストレスはありましたね。でも、菅野よう子と坂本真綾とのトライアングルの中では何でも許された。だから、私は作詞家なんだけれども、菅野さんは私が好き勝手に譜割りを変えても全然大丈夫だったんですね。そういう作詞家を超えた実験の場のようにさせてもらったってことは、私としてはありがたかった。それが90年代の後半から2000年真ん中くらいまでですね。
――その後「創聖のアクエリオン」は、坂本真綾さんに書いた時とはまたちょっと違って、よりアニメの作品性に寄り添うような歌詞になっています。
岩里:これは、アニメの曲ですね。そういうものが求められて、菅野さんの楽曲もがらっと変わってきた。『創聖のアクエリオン』や『マクロスF』は、ある意味、遊び心というか、ケレン味というか、そういうところで書いたという感覚があります。
――アニメの作品の世界を意識して歌詞を書くというのは、どういうところを意識されますたか?
岩里:私はいつもあまり深くストーリを読まないんですね。テーマの骨の部分だけもらって、あとは好きなように書かせていただく。アニメはある意味、非日常のシチュエーションのわけで、歌詞も難しい言葉を並べたりもしますが、その中でも日常を生きるリスナーが共感できるポイントがどこなのかと、そこを探すようにしています。