岩里祐穂が語る、作詞家としての歩みと矜持「時代を超える言葉を編み出したい」

岩里祐穂、作詞家としての歩みと矜持

「毎回が新鮮で、更新したものでありたい」

花澤香菜「恋する惑星」(ショートバージョン)

――00年代にはBuono!で再びアイドルの歌詞を書かれるようになりました。

岩里:Buono!は、私の中ではアイドルを書いている意識ではなく、ロックテイストでガンガン書いたつもりでした。Buono!は生き方を模索するような歌を書いたので、私の中ではアイドルに詞を書いているという意識はあまりなかったです。

――ここ最近では、ももいろクローバーZに歌詞を提供しています。それも大きな転機になりましたか?

岩里:ももクロもすごく大きかったですね。最初に書いたのは「LOST CHILD」という曲で、その時は「哲学っぽくていいから」と言われたんですね。もともと、NARASAKIさんがやっていたバンドのCOALTAR OF THE DEEPERSの「DEAR FUTURE」という曲の詞を書いたことがきっかけで。それが『輪るピングドラム』というアニメのエンディングテーマになった。それを書いた後にももクロちゃんを頼まれたんです。だから、実は最初は全然ももクロのことを知らないで書いていたんですね。

――そういう繋がりだったんですね。

岩里:で、横浜アリーナに行って、初めて彼女らのライブを観たら「うわー! え、こうだったの!?」って思って(笑)。「あ、そうか! 私も書ける、こういうの!」と思ったんです。それで宮本(純乃介・音楽プロデューサー)さんにアピールしたら(笑)、2年後くらいに「サラバ、愛しき悲しみたちよ」のお話が来たんです。それが布袋(寅泰)さんの楽曲で、すごく格好いいし、ドラマのタイアップもあって。「よし、じゃあこれを面白くやってやるぞ」というのが2012年でした。

――岩里さんから見た80年代のアイドルと2010年代のアイドルの違いはどんなところにあると思いますか?

岩里:いろんなところが違いますね。まず、ピンじゃないところ(笑)。みんな束になって、グループで何十人もいますからね。あと基本、恋愛がご法度でしょ。だから恋の歌も、片想いだったり、主人公がまだ付き合っていない、恋する気持ちの周辺の歌が多いですよね。あと、頑張れソングが基本になっている気がします。だけど80年代に比べ、逆に制約もないですね。今は男言葉を使ったりもするし、リアルな日常をさらけだすのに抵抗がないし、全然NGがない。

――言葉のセンスも違ってくるわけですね。

岩里:そうですね。どれだけ面白く、だけどメッセージをそこに込めて、ということです。80年代のアイドル楽曲にはあまりメッセージ性を感じませんがが、今のアイドルは、基本的に何かメッセージを届ける歌になっていると思います。

――ここ最近のお仕事でいうと、花澤香菜さんの作詞も手がけていますよね。花澤さんはご自身のインタビューでも岩里さんは自分の思いを汲んでくれる、助けられると仰っていますが、花澤さんとのお仕事はどんな風に捉えてらっしゃいますか?

岩里:花澤さんとの仕事は、今井美樹さん、坂本真綾さんに続く、その人のリアルな女性像を描き出す仕事、内面を掘り下げる仕事として、私にとって大きな位置を占めています。作曲家さんたちも、北川(勝利)さんをはじめ、ミトさんや沖井(礼二)さんや、一つ下の世代の方に知りあえて、すごく刺激を受けますね。

――ミトさんのインタビューでも岩里さんのお名前が挙がってました。クラムボンの歌詞の書き方を抜本的に揺るがすくらいの衝撃を受けたと仰っていました。

岩里:ははははは(笑)。ありがとうございます。私は作詞家としては深入りするタイプなんですよね。ミトさんの曲でも、菅野さんの時と同じように「この言葉をここに入れたいんだけど、どうなのかな」とお伺いを立てたりする。そうすると、詞に合わせてちょっと変えてくれたりして、私が考えていた譜割りと違う方がもっと上手くいったりする。やっぱり作曲家とコミュニケーションをとって進めることができると、どんどん面白くなっていくんですよね。

――これまでは時代の変遷と活動の軌跡を伺ってきましたが、岩里さんが作詞家として常に重視しているポイントはどういうところにありますか?

岩里:詞を作る上において重要だと思っていることはいくつかありますね。いつも何かしらのテーマをもらうわけです。ざっくりとテーマがあって書き始める。でも、そこから、どんな曲でも、何を言うか、何をメッセージにするかというのは1曲1曲、死ぬほど考えます。考えて、それがいつも新発見じゃないとつまらない。自分が過去に書いたものでも、誰かが書いてるものでもつまらないから。同じ「励ます」でも、どう書くかは1回1回切り口を変えている。毎回が新鮮で、更新したものでありたい。そこが重要だと思うし、それがなければ面白くないし、やってる意味がない気がしますね。

――なるほど。

岩里:また、時代を感じることも重要だと思います。たとえば、洋服にしても、毎年ちょっとずつラインが違ったりするじゃないですか。それが歌詞においては、言葉の乗せ方だったり、言葉の選び方だったり、詰め込み具合だったりする。それはトレンドっていうことじゃなくて、時代の空気だと思うんですね。でも、そうやって時代を感じながら選んだ言葉で、時代を超えたいんですよ。10年後も、20年後も聴いてもらえる歌にしたい。時代を超える言葉を編み出したいっていうことなんですよね。

――そうやって磨き上げた言葉を書くというのが、作詞家の一つの矜持である、という。

岩里:そうですね。まあ、言葉だけですからね、私たちは。

――このアルバムも、詩集のようなパッケージになっていますよね。そうやって、歌と切り離して時代を超えて楽しんでもらえるものということも意識されましたか?

岩里:そうですね。縦書きにして読んでもらったらどうなるかなっていうのもあったので、縦書きにして、一冊の本のようなパッケージにしてみたんです。

(取材・文=柴 那典)

■リリース情報
『Ms.リリシスト〜岩里祐穂作詞生活35周年Anniversary Album〜』
2CD+120P(予定)スペシャルブックレット
価格:¥3,334+税
発売日:2016年5月25日

<収録曲>
[DISC1]
01. PIECE OF MY WISH / 今井美樹【1991.7.11】
作曲 : 上田知華 編曲 : 佐藤準
Single : TBS 系ドラマ「あしたがあるから」主題歌

02. サラバ、愛しき悲しみたちよ / ももいろクローバー Z【2012.11.21】
作曲・編曲 : 布袋寅泰
Single : 日本テレビ系ドラマ「悪夢ちゃん」主題歌

03. うつし絵 / 新垣結衣【2009.5.27】
作曲 : クボケンジ 編曲 : 松岡モトキ
Single : 日本テレビ系水曜ドラマ「アイシテル~海容(かいよう)~」挿入歌

04. 幸せになるために / 中山美穂【1993.4.21】
作曲・編曲 : 日向敏文
Single : NHK 連続テレビ小説「ええにょぼ」主題歌

05. How? / 深田恭子【2000.7.19】
作曲 : 織田哲郎 編曲 : 葉山たけし
Single : 映画「死者の学園祭」主題歌

06. MESSAGE / 上戸彩【2004.3.3】
作曲 : HAL 編曲 : Sin
Single : ニベア花王「8×4」CMソング

07. Love is Changing / 西田ひかる【1997.8.20】
作曲 : 久保田利伸 編曲 : 安部潤
Single : フジテレビ系アニメ「烈火の炎」エンディングテーマ

08. 抱きしめたい / 崎谷健次郎【1995.9.21】
作曲・編曲 : 崎谷健次郎
Single

09. Skinny / 中川勝彦【1985.5.25】
作曲・編曲 : 白井良明
Single

10. 夜に傷ついて / アン・ルイス【1992.5.21】
作曲 : 中崎英也 編曲 : 土橋安騎夫
Single

11. つかのまの虹でも / May J.【2014.9.10】
作曲 : 板垣裕介 編曲 : Jun Tanaka
Single「本当の恋」c/w: テレビ朝日系全国放送「musicるTV」ミリオン連発音楽作家塾第1弾ソング

12. アイサレ / 矢野まき【2007.4.29】
作曲・編曲 : 寺岡呼人
Album「BIRTH」収録

13. 冬のめぐり逢い / ル・クプル【1997.7.18】
作曲・編曲 : 日向敏文
Album「Another Season」収録

14. 想いびと / 城南海【2015.11.4】
作曲 : 吉俣良 編曲 : ただすけ
Album「尊々加那志~トウトガナシ」収録

15. 愛をとめないで~Always Loving You~ / 新妻聖子【2007.7.18】
作曲・編曲 : 佐藤直紀
Single : NHK 木曜時代劇「陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~」主題歌

16. Come Rain Come Shine / 布袋寅泰【2013.2.6】
作曲・編曲 : 布袋寅泰
Album「COME RAIN COME SHINE」収録

[DISC2]
01. プラチナ / 坂本真綾【1999.10.21】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single : NHK-BS2 アニメ「カードキャプターさくら」オープニングテーマ

02. 創聖のアクエリオン / AKINO【2005.4.27】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single : テレビ東京系アニメ「創聖のアクエリオン」オープニングテーマ

03. ノーザンクロス / シェリル・ノーム starring May’n【2008.8.20】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Single「Lion」c/w : MBS・TBS 系 TVアニメ「マクロスF(フォロンティア)」エンディングテーマ

04. ドリドリ / 中川翔子【2015.2.18】
作曲 : 鈴木健太朗 編曲 : 黒須克彦
Single : テレビ東京系アニメ「ポケットモンスター XY」エンディングテーマ

05. ロッタラロッタラ / Buono!【2008.11.21】
作曲 : 井上慎二郎 編曲 : 西川進
Single : TV 東京系アニメ「しゅごキャラ!! どきっ」エンディングテーマ

06. 恋する惑星 / 花澤香菜【2013.12.25】
作曲・編曲 : 北川勝利 Strings Arrange : 長谷泰宏
Single

07. マーブル/ 中島愛【2012.8.1】
作曲・編曲 : Rasmas Faber
Single : TVアニメ「輪廻のラグランジェseason2」OPテーマ

08. ライヴ/ 唐沢美帆【2001.9.5】
作曲・編曲 : 島野聡 Strings Arrange : 村山達哉
Single : TBS 系「世界ふしぎ発見!」エンディングテーマ

09. THE REAL FOLK BLUES / 山根麻衣【1998.6.3】
作曲・編曲 : 菅野よう子
Album『COWBOY BEBOP VITAMINLESS』収録 : テレビ東京系「Cowboy Bebop」エンディングテーマ

10. さよならの物語 / 堀ちえみ【1983.1.21】
作曲 : 岩里未央 編曲 : 鷺巣詩郎
Single

11. SHOCK! / 宇沙美ゆかり【1984.6.21】
作曲・編曲 : 後藤次利
Single

12. そうしましょうね / 森尾由美【1985.9.21】
作曲 : 網倉一也 編曲 : 萩田光雄
Single

13. ティラノザウルスロック / 生稲晃子【1988.11.21】
作曲・編曲 : 後藤次利
Album「『生稲』De-Dance」収録

14. さよならの風 / 新田恵利【1988.11.21】
作曲 : 高橋研 編曲 : 山川恵津子
Single

15. ダーリン今をせめないで / 早見優【1985.5.1】
作曲 : 馬場孝幸 編曲 : 伊藤銀次
Album「WOW!」収録

16. 初戀 / さんみゅ〜【2014.8.6】
作曲 : Gajin 編曲 : 佐久間誠
Album「未来地図」収録

17. 海賊戦隊ゴーカイジャー/ 松原剛志(Project.R)【2011.3.2】
作曲 : 持田裕輔 編曲 : Project.R(籠島裕昌)
Single : テレビ朝日系「海賊戦隊ゴーカイジャー」オープニングテーマ

全作詞 : 岩里祐穂
(DISC1 Tr-4 岩里祐穂・中山美穂 / DISC2 Tr-3 岩里祐穂・Gabriela Robin /
DISC2 Tr-4 中川翔子・岩里祐穂)

※【】内はオリジナルリリース日

岩里祐穂オフィシャルサイト

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