ミュージシャンは「土地名」をどのように叫べばよいのか 兵庫慎司があれこれ考える

ミュージシャンが叫ぶ「土地名」が持つ意味

 あともうひとつ、ステージからバンドがその土地の名前を叫ぶ理由、思いあたった。

 ライブをやる側にとって、「その地方であること」の重要度が、昔と比べて上がっているのではないか。

 バンドの主な活動が……というか収入源が、CDからライブ(とその場における物販)に移ったことはご存知のとおりだ。バンドが1年間に行うライブの平均本数を10年前と比べると飛躍的に増えているだろうし、20年前と比べるともうおそろしいことになっていると思う。

 全都道府県を回るツアー、というのも、昔はハウンド・ドッグや浜田省吾などの、徹底的にライブ第一主義であり、またそれをホール規模で展開できる動員力があるアーティストだけができることだったが、今はライブハウス規模でいろんなバンドがやっている。

 冒頭に例に出したフラワーカンパニーズも、昨年2015年12月19日に結成26年で初めて行った日本武道館ワンマンをソールドアウトの大成功に終わらせ、今年2016年は「日本中から来てくれたんだから今度はこっちから行く」という趣旨で、1年かけて全都道府県を回るツアーを、現在行っている。

 ボーカルの鈴木圭介がよく言うのだが、このキャリアで(結成27年、デビュー21年)この歳だと(全員今年47歳)、東京や大阪の時はなんとも思わないが、鳥取とか山形とかに行くと「あと何回来れるだろう」と考えてしまうそうだ。「前回ここに来たのは……2年前だ。2年も空けちゃったかあ。次はもっと早く来れるようにならないと」というような。毎年80本から100本ライブをやる生活を何年も続けている人なのに、改めてそう思うのだという。

 つまり、あらゆるバンドのライブが自分が住んでいる東京で観放題、みたいな、ぬるい暮らしに慣れきっている僕のような奴には実感することのできない、切実な気持ちがこめられているのかもしれない、ということだ。彼らがステージで叫ぶ「米子ー!」や「酒田ー!」には。

 そういえば、今年4月から5月にかけてのSHISHAMOのニューアルバム『SHISHAMO 3』のリリースツアーは、彼女たちにとって初のホールツアー(全11本)だが、埼玉県川口市・茨城県結城市・千葉県市原市・神奈川県横浜市、と東京近郊は4本もあるのに、東京都内での公演はない。ちなみに大阪もない。代わりに神戸がある。

 もうひとつそういえば、くるりが5月7日の高松からスタートした『アンテナ』再現ツアー『NOW AND THEN Vol.3』のスケジュールにも、東京公演は入っていない。やはり、神奈川県民ホール、こちらは2デイズ。

 SHISHAMOは神奈川県川崎市内の高校で結成されたバンドで、ドラムの吉川美冴貴は横浜市民。くるりは京都出身で、デビュー時に上京したが、その後の数年間、東京から京都に居を戻したこともある(今はまた東京に住んでいるようだが)。

 単に渋谷公会堂が工事中で、そのせいで中野サンプラザが混んでいて取れなくて、という理由かもしれない。でも、「いい気になってんじゃねえぞ東京都民」「観たきゃ横浜とか川口まで来やがれ」という理由だったとしたら、素敵かも。と思う、どちらのバンドも。

 そこで「SHISHAMOは7月16日・17日に、日比谷野音2デイズやるからじゃね?」とか言わないでくださいね。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、音楽雑誌などの編集やライティングに携わる。2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」「CREA」などに寄稿中。9割のテキストを手がけたフラワーカンパニーズのヒストリーブック『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。

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