世界の定額制音楽配信は今どうなっている?  ジェイ・コウガミが分析する各サービスの現状と今後

音楽をライフスタイル化させるSpotify

 Apple Musicと同じレベルでインパクトを与え続けているのが、「Spotify」だ。彼らは世界最大の定額制音楽配信として業界トップのユーザー数を獲得しているため、Spotifyの動向がこの分野の基準としてメディアや音楽業界では注目されている。そして2015年も積極的な動きを残してきた。

 まずはSpotifyの規模。有料会員数は2000万人を超えて、成長速度がさらに加速した。2014年で有料会員1000万人獲得を発表してわずか1年で1000万人以上が増えたことからもSpotifyの人気は高まる一方と言える。有料会員に加えて、タダで音楽を楽しむ無料ユーザーも集めるSpotifyは業界で数少ないフリーミアム・モデルを実践するサービスだ。現在無料ユーザー数は7500万人以上と発表されており、無料から有料への転換を高い確立で成功させてきた。Spotifyのビジネスモデルは、さらなる収益化を狙う音楽業界が2016年に注目するポイントの一つになるのではないかと思う。

 ここ最近のSpotifyを象徴する動きとして、「外部パートナーとの提携」という取り組みがある。例えば2015年は、スターバックスやUberとの提携を発表している。意外だったのは、ライバルだったソニーと提携し「PlayStation Music」を共同で発表、Music Unlimitedに替わる音楽プラットフォームをゲームユーザー向けに提供し始めたことだ。

 Spotifyが注目されるもう一つの理由は、プレイリストの文化を広めていることがある。2015年は、アプリを起動した時間帯やアクティビティに合わせてパーソナル化された「Now」機能や、個別にカスタマイズされた「Discover Weekly」機能、ランニングに特化したプレイリスト機能を発表するなど、プレイリストを介した新曲の紹介や再生に注力している特徴がある。外部パートナーとの提携、パーソナル化されたカスタム・プレイリスト機能と合わせて、ライフスタイル志向の強い日常的な音楽サービスへ進化している。さらに今後は動画コンテンツの配信に取り組みことを発表するなど、SpotifyはCDやダウンロードの時代とは全く異なるアプローチで、音楽再生の概念を作り変えようとしているように感じる。2016年は日本でのサービス開始に期待が高まる。

ジェイ・ZのTidal、そして日本発のサービスが続く

 2015年に始まった新サービスに、ヒップホップアーティストのジェイ・Zが運営を統括する「Tidal」がある。CDと同じ16 bit/44.1kHz FLACによる音質で配信する定額制音楽配信のTidalは「良い音質の音楽を楽める」という分かりやすい差別化と、音楽ビジネス家としてのジェイ・Zのリーダーシップが話題になった。Tidalにはビヨンセやリアーナ、マドンナ、コールドプレイのクリス・マーティン、ジャック・ホワイトなど影響力あるアーティストたちが共同オーナーとして参加していることも特徴的だ。アーティストの作品を独占配信することは、後発かつ資金力が小さい(アップルやSpotifyと比べて)Tidalにとってユーザー獲得戦略で大きなポイントとなっている。動画やコンサートの配信にすでに進出しているTidalだが、会員数はやっと100万人突破と状況は良いとは言いがたい。今後はアメリカ以外の国でも展開できるかどうかがカギになるように思える。

 ここで2015年に消えてしまった音楽配信にも触れたい。悪名高かった「Grooveshark」、グーグルが買収した「Songza」、かつてはSpotifyのライバルと言われた「Rdio」などが挙げられる。特にGroovesharkは許諾のない楽曲をアップし続ける違法サービスとして、レーベルと長年法廷で争ってきた存在だった。違法音楽サービス摘発で動いてきた音楽業界にとっては大きな勝利で、合法の定額制音楽配信が注目される現状を象徴する出来事だった。

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