兵庫慎司の『Deka Vs Deka〜デカ対デカ〜』作品レビュー
マキシマム ザ ホルモン『デカ対デカ』は、“ホルモンと遊ぶ”ための作品である
ホルモンとハラペコ諸君は、バンドとファンだ。あたりまえだが、だから両者の間にはステージの上と下という一線が引かれている。ゆえに友達ではないし、音源やライブを通してしか向き合えないし、ましてや一緒に遊ぶことはできない。その一線をなんとかして越えるために、ホルモンはこの作品に収録されている「地獄絵図」シリーズや「MASTER OF TERRITORY」のような特殊なライブを企画してきたし、「全国腹ペコ統一試験」や「ホルモン林間学校」まで行ってきたのだと思う。
しかし、それを観て楽しむことはできても、「ホルモンと遊べた」わけではない。本当の意味で「ホルモンと遊べた」のは、それらに参加できた人たちだけだ。
ならば、ライブや音源や映像以外に、なんらかの作品というメディアを通して、それを手にした人たちひとりひとりが「ホルモンと遊ぶ」に限りなく近い体験をできる方法はないだろうか。と、考えた末に生まれたのが、このスタートアップディスクのゲームだったのではないか。だから、このゲームの主人公はCG化されたホルモンの4人で、プレイヤーはあなたで、ホルモンとあなたの5人で亮君の脳内世界に入って、亮君が仕掛けた謎を解いていく、という構成になっているのだ。
じゃあ、そもそもなぜファンと遊びたいのか。亮君にとって、ファンとはそういう存在だからだ。彼がほかのアーティストと比較すると異常なくらい、ファンに自分の真意を伝えること、ファンに理解されること、ファンと感情を共有することを求める人であることはご存知だろう。そして、求める分、自分からも与える人であることもご存知だろう。 映像作品の方は言うに及ばず、ゲームの中にも亮君の思想や考えや理想などなどが、あちこちにばんばんぶちこまれているのも、つまり、そういうことなのだと思う。
少なくともこのゲームをやっていた時間、僕は間違いなく、ホルモンの作品に触れていたのではなく、ホルモンと一緒に遊んでいた。で、クタクタになるくらい遊んでから、「あ、一緒に遊んでたわ、俺」ということに気がついた。
僕は亮君とナヲちゃんとは、親しいというほどではないが、一応面識がある。何度かインタビューをしたこともある。しかし、そのどの瞬間よりもこのゲームの体験のほうが、マキシマム ザ ホルモンと深くコミュニケーションをできた。そんな実感があった。
(文=兵庫慎司)