特別企画1: 藤井徹貫の『TM NETWORK 30th FINAL』創作ドキュメント
検索しても出てこない『FINAL』の核心 TM NETWORKの30年の軌跡を辿る
あの晴天の日、TK車の後部座席で小室哲哉は言った。2月のコンサート(HUGE DATA)には、満足していると、修正したい点はほぼないと。だからこそ、それを今一度解体し、再構築するFINALが難しいと。つまり、もっと良くなるのではないか、もっと観客に楽しんでもらえる余地があるのではないかと、頭のなかにあるコンサート脚本をギリギリまで更新し続けていたのだ。
以上のような経緯があっての『TM NETWORK 30th FINAL』だったから、Blu-ray Discを見終ったとき、小室哲哉の笑顔が印象に残ったのかもしれない。失敗の許されない30周年プロジェクトをやり遂げ、再構築の脚本も完成させ、何かから解放された証しの笑顔だったのかもしれない。事実、ドラムの阿部薫もこう言っていた。「横アリの思い出?テツの笑顔。やけに楽しそうだったね」。
さて、話を『TM NETWORK 30th FINAL』に戻そう。それは30年の軌跡に点散するさまざまな出来事の面影と出会えるコンサートだった。たとえば「月はピアノに誘われて」。TMN時代の木根尚登ソロ曲。原題は「ピアノは月に誘われて」だったが、ピアノと月をひっくり返したのは小室哲哉。そして、ライブでの木根ソロ曲を、それまでの「LOOKING AT YOU」から、いきなり変更したのも小室哲哉。
初日3日前、FINALのためのリハーサルがほぼ終了した時点での提案だった。「せっかくだから、違う曲のほうがいいよね」。「月ピなら、カツGと2人で何回もやってるから、できると思うよ」と、木根尚登。しかし、いきなり言われても、ガットギターはおろか、アコースティックギターすら、リハーサルスタジオに持参していなかった葛城哲哉。「貸してくれよ」と、松尾和博のアコギを抱え、木根尚登と演奏を始めた。聴き入る小室哲哉。演奏が終わると、「いいじゃん」と即決。
小室哲哉の木根尚登へのむちゃぶりも30年変わらぬTM名物。早着替え、パントマイム、足長パフォーマンス、小説執筆、フライング(宙吊り)等々。しっとりと「月はピアノに誘われて」を歌う木根尚登は、こう思っていたかもしれない。3日前の曲目変更なんて、歴代のむちゃぶりと比べたら、慌てるレベルじゃないと。