ROTH BART BARONが語る“インディペンデント精神”の矜持と展望「今の状況はエキサイティング」

ROTH BART BARON、新作と活動方針を語る

 ROTH BART BARONが、10月21日に2ndアルバム『ATOM』をリリースした。同作は彼らの特徴でもある壮大なサウンドスケープはそのままに、メンバーが幼少期に見た80年代、90年代初頭のSF映画の世界観を取り入れた幻想的な作品に仕上がっている。また、カナダ・モントリオールや日本のミュージシャンたちとともに、主にモントリオールのスタジオ「Hotel 2 Tango」で録音からマスタリングまでを行っており、現地の音楽環境も伝わってくる一作だ。今回リアルサウンドでは三船雅也(以下、三船)にインタビューし、録音面や心境を含めた前作からの変化に加え、現地の音楽家との交流や今後の展望などについて、じっくりと話を聞いた。

「全部のレコーディングが終わったときには半泣き状態でした」

――前作はフィラデルフィア、そして今作はモントリオールの「Hotel 2 Tango」スタジオでレコーディングされています。どのような経緯でこのスタジオに決めたのでしょうか。

三船:ツアーで各都市を回っているときから曲を作りはじめましたが、だんだんと曲もできてアルバムという形に近づいてからも、プリプロダクションの作業などは自分の家のスタジオでやることが多かったんです。その作業をしているうちに、このアルバムはもっとたくさんのスタッフが必要で、ものすごくビックなサウンドになるだろうという気持ちがはっきりとしてきました。それで、どのスタジオで収録しようかとか、参加してくれそうなミュージシャンたちの候補などをいろいろと考えているうちに、行きついたのが『Hotel 2 Tango』でのレコーディングだったんです。

――同スタジオは、Owen PalletやArcade Fireなどがレコーディングを行った場所ですね。実際に足を踏み入れてみてどうでした?

三船:見た目の外観は倉庫みたいでしたが、中に入ってみるとすごく広くて。Godspeed You ! Black EmperorのEfrim Menuckが設立に関わっているそうです。彼らのバンドが参加しているレコードレーベルの<Constillation>がスタジオ上のフロアに入っていて、マスタリングスタジオもあるので、すべての作業がその場所でまかなえるんですよ。カナダのバンドミュージック界隈の音楽家は、ポップス的な感覚はもっていても、すごくノイジーで実験的なサウンドを試しますし、常に歌心は忘れずに、それでいてヨーロッパ風クラシックの方法論もミックスされているという感覚がします。僕は彼らの音に対して「人懐っこい」と感じているのですが、そう思っている理由を知りたいと思ったし、そういうサウンドが自分たちのバンドにとっても必要だと思いました。もちろん、1stを録ったフィラデルフィアのスタジオも大好きなんですが。

――スタジオ界隈のミュージシャンだけでなく、スタジオに出入りしているスタッフの人たちとの触れあいもありましたか。

三船:そのスタジオを中心に半径数キロメートルの範囲は、都市から少し離れていて家賃も安いので、みんなも住みやすいんでしょうね。芸術家とかアーティストやミュージシャンもたくさん住んでいて、自分たちが借りた宿もミュージシャンの家でした。

――参加したプレーヤーたちは、幅広い世代の方がラインアップされていますが、その中にはArcade Fireなどで活躍するJessica Mossもいたそうですね。

三船:はい、彼女はバイオリンをものすごい数のエフェクターに繋ぎ、ギタリストのようにアンプを使ってノイズをフィードバックさせながら演奏するのが得意でしたね。長い期間一緒に仕事をするならば可能かもしれませんが、日本でクラシック音楽を専門にしているバイオリニストに、そういう演奏をお願いしても、こちらの意図することの意味はなかなか伝わらないと思います。でも、ジェシカは、スタジオに彼女が到着して、こちらから「こういう曲をやりたいんだけど」というようなことを話したら、「よく分からないから、あなたが指揮して」と言うんです。自分はダニー・ケイが(1981年に)ニューヨーク・フィルハーモニックを指揮しているのを映像で見たことがあるくらいで、ちゃんとした指揮者の演奏はほとんど見たことがないから、テンパリながら指揮をしました。そして、スタジオの中で彼女の演奏を聴いただけで、自分は“あてられてしまった”というか……胸がいっぱいになってしまって、全部のレコーディングが終わったときには半泣き状態でした。現地に来てよかったな、と思ったいちばん最初の衝撃的な出来事ですね。

――そして、一部の曲は日本でレコーディングされたということですが。

三船:曲によってバラバラですが、半分くらいの曲は日本で様々なレコーディングスタジオを使いました。ただ、一曲丸ごと日本で収録したものはなく、パートごとに様々ですが、何かしらの部分で海外の音は入っています。また、作りこんだノイズの部分だけは自分の家を使って、集中した状態で収録しました。それでもうまい具合に全部できたと思います。

――曲ははじめから揃えたものが出来上がっていて、そこからレコーディングをしたのでしょうか?

三船:事前に30曲くらいのアイディアはあったのですが、パワーを持った曲たちが生き残ったという感じです。1stは一筆書きのようなニュアンスだったと思っているので、今回『Atom』では一曲一曲が独立したアルバムを作ろうという気持ちで制作をスタートしましたが、いざ聴いた人の意見を聞いてみると「多角的だ」という人もいれば「コンセプショナルだ」という人もいて様々でした。また、今回は“外に広がる”ようなビッグなサウンドを求めていたので、その部分を感じていただければもっと楽しいのかなと思います。

――その“外に向かう”志向は、どんなプロセスで生まれたのでしょう。

三船:1stをリリースして、ツアーで色んな土地を回ったことが、かなり大きいのだと思います。そこで初めて出会ったお客さんを前にして、限られた時間のなかでどうやってお互いに共有できる時間をつくろうかということを考えることによって、自分の嗅覚が発達して動物的になったという感覚を覚えました。そしてアメリカの7都市を回るツアーでは、日本語も分からない観客を目の前にして、自分たちはどのようにしてプレイしたらいいのだろうという思考がどんどん強くなり、そのままの気持ちで今年のレコーディングがスタートしたという感じです。

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