『#N/A』リリースインタビュー
にせんねんもんだいが掴んだ新しい表現方法「エゴイスティックなメロディーがイヤだと思い始めた」
「もともとタイトルに意味は込めてなかった」(姫野)
――きっかけになったダンス・ミュージックとは具体的にどういうものだったんですか。
高田:特定の誰の曲というのではなく、ストリーミングで聴けるDJミックスみたいなものをいろいろ聴いて、ですね。
姫野:いろいろ聴いていくうちに、この人のミックス好きだなあ、というのも出てきて。ファクトリー・フロアの人とか。ちょっと無機質な感じというか。そういうのもヒントになっていたと思います。
――そうして聴き手としてハマった音楽の感覚を、にせんねんもんだいの音楽にも反映させていくことは多いんですか。
高田:そこは厳密にジャッジしてますね。グルーヴが合うものとそうでないもの。そこは絶対に。聴いてる音楽の中でも、このパーツは私たちにも合うかも、とか。そういう判断もありますね。
――たとえば?
高田:たとえばダンス・ミュージックでも、ディスコみたいな、ああいうノリはあわないな、とか。それはバンドでやりたいこと、自分たちが表現したいことの基本にも関わるので、何かを始める時には絶対、そこだけはちゃんとしようと。
――ディスコ的なものというと?
高田:ファンキーなリズムとか、たぶん合わないだろうと思います。…て私は勝手に思ってますけど、ほかの2人がどうかはわからない(笑)。やったら面白いかもしれないけど、もっとアタマ打ちのソリッドな感じでやった方がかっこいいんじゃないかと。そういうイメージがあります。聴いた音楽をそのまま取り入れるんじゃなくて、そこは判断を間違えないようにしてるつもりです。
――にせんねんもんだいらしさ、ということですね。それに合致するかどうか。
高田:そうですね。自分たちが思う「にせんねんもんだいらしさ」。
――それはなんでしょう。
高田:なんでしょうね?(笑)。スタジオでいろいろ試してみて、やっぱり違うな。とか。これは合うな、とか。そういう取捨選択を繰り返してできあがってくるんだと思うんです。
――にせんねんもんだいの音楽も時代ごとに微妙に変化してますが、みなさんのいろんな試行錯誤の過程が演奏に出ている。
高田:出てると思います。出てて欲しいな。
――その試行錯誤の過程を経て、『N』以降のにせんねんもんだいの、いろいろなものを削ぎ落としてフォーカスが定まった感じの音楽性があるのかな、と思います。
高田:うん、今の段階ではそう言えると思います。
――『N』以降の変化はタイトルにも表れています。アルバム・タイトルもそうですし、曲名も「A」「B-1」「B-2」とか、今回も「#1」「#2」など、完全に記号化していますね。このへんはどういう意識なんでしょうか。
姫野:もともとタイトルに意味は込めてなかったんです。それは昔からずっと。それでも昔は普通の言葉を使っていたんですが、最近はそれすらもなくなってアルバム・タイトルも『N』とか『#N/A』にしちゃったんで、曲名もそれに準じて、できた順番に上からA,Bってつけたという。
――曲はどうやってできることが多いんですか。
高田:基本的にはスタジオで音を出しながら作ります。演奏しながら、最初にまずループみたいな基本の素材と、音の雰囲気を決めてからリズムを構築していく、というやり方ですね。ドラムとベースで基本のグルーヴが生み出せれば、あとの雰囲気は私(ギター)が作る、という。
――楽曲の形式も通常のロックやポップとはまったく違いますね。そのへんの意識が定まってきたのはいつごろからですか。
高田:私たちがバンドを始めたきっかけが(大学の)サークルの先輩たちのバンドなんです。ふくろってバンドなんですけど、その人たちがやってるノイズっぽいロックを聴いて、すごくかっこいい、これなら私たちにもできるかも、と思ったんです。姫野さんはドラムをやってたけど、私たちはギターもベースも弾いたことなかった。最初の入りがそんな感覚だったので、そもそも音楽のフォーマットの概念がなかったのが大きかったかも。
――ふくろを知る前は、みなさんどういう音楽を聴いてたんですか。
姫野:私は普通にJ-POP(笑)。ミッシェル・ガン・エレファントとか。なので大学に入ってふくろを見て、こんな音楽があるんだってすごい衝撃で。その気持ちが今もずっと続いてるって感じです。
――自分の音楽に対する概念が変わった。
姫野:変わりましたね! 音楽ってこんなに自由なんだって。それはすごく感動しました。
――そういう出発点だから、普通のポップ・ソングの形式とかロックの決まり事みたいなものとは無縁だった。
姫野:そうですね。それを意識したことはなかったです。
――なるほど。現在のにせんねんもんだいはずっとミニマルなリフレインを繰り返して10数分演奏し続けるようなスタイルですが、演奏している最中はどんな気持ちなんですか。
姫野:必死です(笑)。ずれないようにって。
――トランス状態に入り込むんじゃなく?
姫野:トランス状態っていうよりは、ただ必死に、そのことだけを考えるようにしてますね。
――ひたすらストイックに演奏に集中する。
姫野:そうですね。ギターの音とベースの音と自分の音がマッチして、それがちゃんとグルーヴになっていると感じた時はすごい楽しいです。
――以前フリクションのレックさんが、バンドが調子いいときは「音が回っている」という言い方をしてました。そういう感覚はありますか。
姫野:ありますあります。
高田:ほんとにいい時のライブはそうなりますけど、そういうライブってそんなにない…。
――いいライブとそうじゃないライブって何が違うんですか。
姫野:音の聞こえ方…いい感じで聞こえる環境…。
――環境……音響ってことですか?
姫野:そうですね。まずそれはすごく大きいと思います。
高田:あとはコンディションだよね、自分たちの。
――ああいうシンプルな音楽だと、自分たちの体調や感情の揺れみたいなものが…。
姫野:すごく出ますよね。わかりますよ自分でやってて。今日は調子が悪いって。
――スタジオレコーディングの作品でも、音響面でのこだわりは強く感じられます。
高田:自分がその時聴いてる好きな音源の、このバスドラの音がいい、とか。こういう音にするためにはどうすればいいのか、そのバスドラがこの位置にあるなら、ベースはどの位置にあればいいのか、エンジニアの人と相談しながら決めていくんです。もっと上で、とかもっと下で、とか。ギターの音はこういう感触で、とか。マイクのチョイスもこだわるし、そういう「音」に関しては気にして作っています。プロフェッショナルではないので探り探りしながら、もっとわかりたい、という感じで作ってます。
――漠然と感覚で作るというよりは、設計図を作りながら構築していく感じ。
高田:ちょっとそれに近いです。正解がないから、どれが一番いい状態なんだろうと、いろいろ考えながらやってます。エイドリアンや石原(洋)さん(ゆらゆら帝国のプロデューサーとしても知られるミュージシャン。にせんねんもんだいの『Nisennenmondai - EP』でリミックスを手がけた)みたいに尊敬できて感覚が面白い人なら、自分たちは演奏に徹してあとは任せられるんですけど、インストで素材が少なくて、一見勘違いされてもおかしくない音楽なので、そのへんは自分たちでわかった上で提示していかないと、自分たちの思いとは別のものになってしまう可能性がある。それは絶対にいやだし。それはライブの音響面も同じなんですけど。
――ライブの音響は自分でコントロールできない部分が多いですからね。
高田:難しいですね。だからエンジニアさんといかにコミュニケーションをとるか、いつも悩んでる…というか挑戦してて。自分がわからないことも一杯あるので、教えてもらったり。そういうやりとりはけっこうしてます。
――なるほど。今回のプロジェクトで得られたもの、今後に生かせそうなものは何かありましたか。
姫野:いろいろありました。セッションで結構いいネタ(素材)ができたので、今後それをライブで演奏できるぐらいに曲として作り上げたいなと。そういう環境を作ってくださったおふたり(エイドリアン、内田)の影響は当然あると思います。
高田:自分たちの演奏にプロフェッショナルな人たちが手を入れてできあがったものを見ることができたのは良かったと思います。自分が「いい!」と思ってても、人は違う感覚なんだなと思うことが私は結構多いから、そういう客観的な視点を知ることで、今後の曲作りにおいてまた新しい感覚を得ることができたと思います。
(取材・文=小野島大)
■リリース情報
『#N/A』
発売中
価格:¥2,500 (+tax)
<収録内容>
01. #1
02. #2
03. #3
04. #4
05. #5