新作『Konjac-tion(コニャクション)』インタビュー
バッファロー・ドーターが到達した新たなモードとは?「自分たちなりの『パーティー観』を表した」
バッファロー・ドーターの4年ぶりの新作『Konjac-tion(コニャクション)』がリリースされる。本作はそもそも2011年に金沢21世紀美術館で行われた英国の現代美術家ピーター・マクドナルドの展覧会で、バッファローが演奏したことをきっかけに本格的に制作が始まった。さらにカヒミ カリィ、坂本慎太郎をはじめとする多数のゲスト・ミュージシャンが参加し、故・レイハラカミがアレンジを一部担当した曲なども含まれるなど、話題性もたっぷりの力作である。
そして今回はオリジナル・ディスクに加え、国内外のリミキサーが全曲のリミックスを手がけたリミックス盤も同梱される。チボ・マット、まりんこと砂原良徳、ゆらゆら帝国のプロデューサーである石原洋(これが凄まじい出来)、相対性理論の永井聖一、シャーロット・ケンプ・ミュールなどが参加している。常に新しい挑戦を忘れないバッファローの本領発揮ともいうべき多彩にして刺激に満ちた傑作の登場である。
「日々いろいろ感じてることは言葉じゃなくて雰囲気で共有してる」(シュガー)
ーー去年ベスト盤が出た時に、新作の制作が進んでいることを話されてましたよね。そのキーワードが「ブロック・パーティー」であり「ディスコ」だとお聞きしました。そこから想像していたのは、明るくポップでオプティミスティックなものだったんですけど、実際にできあがってきたものを聴くと、必ずしもそうでもないような…。
シュガー:暗いよね。
ーーだよね(笑)。
大野:あはははは!
ーーそもそもどういう経緯で本作の制作はスタートしたんでしょうか。
大野:ピーターさんの展覧会があるから、その絵の前でライヴをやりませんかってオファーをいただいて、一回見に行ったんですよ。すごく広い部屋で、誰もいなくてしーんとしてて、ただ絵だけがすごい楽しげな感じで(笑)。週末になるとDJイベントとかパフォーマンスとかいろんなイベントをやってたらしいんですけど、その中でバッファローも演奏してくださいと。
ーー日本通の方なんですか。
大野:日本とイギリスのハーフの方なんですよ。
シュガー:日本とイギリスを行き来してて。
ーーその過程でバッファローを知ったということですかね。
シュガー:絵を描いてる時にバッファローをよく聴いてたらしいんですよ。それで実際にここでナマで鳴ったらいいのにな、と思ったのがきっかけだったらしいです。
ーー絵はCDのジャケットに使われているものですね。実際にその絵が飾ってある部屋で演奏したと。
大野:うん。お客さんもたくさんいる状況で。招待された人たちで、ほんとに老若男女。肩車されるぐらいの子供から、お年を召した方まで。いろんな人がいて。
シュガー:ふだんロック・コンサートとか行かないような人もいっぱいいて。
ーー反応はどうだったんですか。
シュガー:めちゃくちゃ良かったですね。みんな楽しそうで。ライヴ自体もすごく楽しかった。いろんな人たちがいて。まさにピーターの言ってたブロック・パーティーの楽しさってこれなんだなと。彼の絵が、彼が子供の頃経験したブロック・パーティーの楽しさーー年寄りから子供まで集まって、みんなで音楽を聴きながら踊ったり楽しく過ごしてるーーを絵にしたらしいんですけど、その感じがナマで再現できたかなって感じがあって。とにかく楽しかったんですよ。だからほんとはそういう気分で(アルバムを)作り始めたのよ。だけど…(笑)。
大野:あはははは!
シュガー:最後はああいうもの(暗いもの)になっちゃうのは…なんでかな。
ーーベスト盤の時点で制作はどれぐらい進んでたんですか。
大野:70%ぐらいかな。ベーシックはけっこう録れてた。
シュガー:けどその詰めはまだって段階。曲はあって、どれも悪くないんだけど、アルバムにしようとすると、どうもピンとこない。楽しく明るい方向で考えてたんですけど、うまくまとまらないんですよ(笑)。
大野:たぶんね、性格が明るくないんだなっていう…
シュガー:性格はね、明るいんだよたぶん。
大野:(笑)。そうなの?
シュガー:明るくなくないと思うんだよ、あたしたち。だけど…なんだろうね、明るいものにしようとするとうまくいかない。ほんとはそういうものを作りたかったけど、作れなかった(笑)。
ーー昨今の社会状況とか…
シュガー:いやあ、あるでしょうそりゃあねえ。
大野:それはあります。
シュガー:毎日怒ってるじゃないですか。
ーーそれがアルバム作りに影響した。
大野:それは絶対ある。これ(新作)はやっぱり地震の影響とかもあったから。制作がちょっと途切れちゃったりとか。そこで心境の変化も絶対あるし。
ーー風営法問題について直接的に言及した曲もありますね(「Don't Stop The Music」)。
シュガー:そうですね。それはもう、はっきりとものを言おうと思って。今まであまりそういうのはなかったけど、これはもう、「この件に関しては、はっきり言わせていただく」みたいな気分はありましたね。ただ歌詞は日々の怒りみたいなものが反映されてても、曲はもっと楽しい感じだったんだけど、その楽しい曲も、どうも違うような気がしてきて。全然変えて暗い曲にしちゃったりとか。そういう作業を最後の段階でやって、結局暗いものになりました(笑)。
ーー「Vicious Circle」という曲が特にダークなムードですね。
シュガー:これこそが日々の怒りみたいなものが込められたりもするんですよ。でもそれだけじゃない。
ーーインストですけど、日々の怒りみたいなものは歌詞に直接に反映されるというよりは、サウンドで表現していく。
シュガー:自然とそうなりますよね。気分が演奏に反映されるじゃないですか。特にその曲みたいにスタジオのセッションから生まれてくると、その日の気分みたいなものが乗っかってくる。日々それぞれにいろいろ感じてることはあるけど、そこは言葉じゃなくて雰囲気で共有してるというかね。あえて喋らなくても。だからそういう音になる。
ーー前のアルバムがかなり怒りのテンションの高いものだったでしょう。
シュガー:うん。パキンパキンの音で。
ーーあのモードが続いてるっていうのとは、また違うんですか。
シュガー:あのモードは底辺にはあります。でももう一丁という感じでもないし。あれからもう4年もたってるから、いろいろ変わってくるし。