シンプリー・レッド新作『ビッグ・ラヴ』インタビュー
シンプリー・レッドのギタリスト鈴木賢司が語る、在英27年のキャリアと音楽シーンの変化
「“売れてる”とか“売れてない”ということにはそれほど価値があるとは思わない」
ーーイギリスに活動の拠点を移した後、日本のミュージシャンとの交流はどうなっていたんですか?
鈴木:80年代は日本のミュージシャンがけっこうイギリスに行ってたんですよ。プラスティックスの中西俊夫さんだったり、土屋正巳さんだったり。当時はみんなで友達付き合いしてましたけど、みんな日本に帰っちゃいましたね。最近、布袋さんがロンドンに来たので、プライベートで会うこともありますよ。もっとも若い人とはあまり接点がないからわからないですけど。
ーー日本人のミュージシャンがヨーロッパで活動しようと思ったら、やはり大きな壁があるんでしょうか?
鈴木:まずはビザの問題ですよね、いまは保守党の政権だから、外国人に対する政策はわりと厳しいので。円安の問題もあります。イギリスの地価、不動産の値段は世界一高いレベルになっているので、ポンドで稼げないと、生活が成り立たないというか。それはミュージシャンやDJだけではなくて、ファッション・デザイナーや俳優も同じですが。
ーー音楽的な技術、センスに関してはどうでしょうか?
鈴木:さっきも少し言いましたが、向こうの人たちと近いモノの見方、考え方が出来るか、それを理解できるかどうかが大事でしょうね。日本はどうしてもアメリカ経由のコマーシャルナイズされたエンターテインメントが中心なので、その感覚でヨーロッパに来ると肩すかしを食らうというか。まさにロンドンに渡ったばかりの頃の僕がそうだったわけですけどね。
ーーでは、日本のシーンについてはどんなふうに感じていますか?
鈴木:27年も日本から離れているので、シーンを語れるほどの知識や情報はないんですけどね。ただ、インターネット以降、どんどん多様化が進んだじゃないですか。いまは“売れてる”とか“売れてない”ということにはそれほど価値があるとは思わないんです。たとえばジャイブ・ミュージックを追求して、海外のフェスに出演することになれば、肌の色は関係なく、どれだけオーセンティックなジャイブを演奏できるか?ということになりますよね。海外のアーティストとつながる機会も増えてると思うし、そういう意味では健康的なんじゃないかなと。コマーシャルなことに徹しようとする人は、そのなかで起こる問題やストレスを抱えながら生きているでしょうけど。
ーー決して悲観はしていない?
鈴木:そうですね。たとえば噂で聞いただけなんですが、ピーター・バラカンさんが50代後半のブルース・ギタリスト(昨年、『濱口祐自フロム・カツウラ』でデビューした濱口祐自)を推したりするのもすごくいいなって思うし。音楽が細分化されているからこそ、そういうミュージシャンが発見されたりすると思うんですよね。
ーー最後にこの後の予定を聞かせてください。シンプリー・レッドは9月にロシアで演奏するそうですね。
鈴木:そうなんです。ソウル経由でウラジオストックに行って、そこで演奏する予定です。その後はロンドンに戻ってツアーのリハに入って、10月、11月、12月はヨーロッパ・ツアー。来年の春にもヨーロッパと南米でツアーをやって、夏はフェスかな。その後も出来ればツアーを続けて、アジアも回りたいですね。そのときはぜひ日本でもやりたいですが、それはまだわかりません。
ーー“Kenji Jammer”としてのソロ活動もあるし、活動の幅は本当に広いですよね。
鈴木:いろんな時代、いろんなところで僕の音楽を聴いて、フォローしてくれるファンがいてくれるのも嬉しいですね。Kenji Jammerとしては「Hula Hula Dance」というハワイアンとダブを融合させたチルアウトな音楽をやってるんですが、そこから僕のことを知った人は、フジロックで派手にギターを弾いてると「あんなに激しく弾くこともあるんですね」って驚いたりするんですよ。シンプリー・レッドもそうですけど、活動を続けることでそれぞれの活動の違った側面を少しずつ認識してもらって、その点を線で結んでもらえるようになって、やっと最近は「なるほどね」と理解してもらえるようになったというか。
ーー“ギタリスト・鈴木賢司”の全体像が浸透してきたと。
鈴木:以前は「これだけ違う活動をやってたらなかなか理解してもらえないだろうな」と思っていた時期もあるんですけどね。30年近く経って、こうやっていろんな真実を語れるのもいいことだと思うし。続けてきて良かったですよ。
(取材・文=森朋之/撮影=下屋敷和文)
■リリース情報
『ビッグ・ラヴ』
発売:2015年8月5日
価格:¥2,400(税抜)
【収録曲】
M-1 SHINE ON / シャイン・オン
M-2 DAYDREAMING / デイドリーミング
M-3 BIG LOVE / ビッグ・ラヴ
M-4 THE GHOST OF LOVE / ザ・ゴースト・オブ・ラヴ
M-5 DAD / ダッド
M-6 LOVE WONDERS / ラヴ・ワンダース
M-7 LOVE GAVE ME MORE / ラヴ・ゲイヴ・ミー・モア
M-8 TIGHT TONES / タイト・トーンズ
M-9 WORU / WORU
M-10 COMING HOME / カミング・ホーム
M-11 THE OLD MAN AND THE BEER / 老人とビール
M-12 EACH DAY / イーチ・デイ
M-13 HEART OF GOLD / ハート・オブ・ゴールド(* Bonus Track)
■「Shine On」日本語字幕つき
https://www.youtube.com/watch?v=vAxUqVpdDQE
■「The Ghost of Love」日本語字幕つき
https://www.youtube.com/watch?v=CdyXfeTL-JA
■『BIG LOVE』トレイラー
https://www.youtube.com/watch?v=s5wqjXkuWBA
http://wmg.jp/artist/simplyred/