アジカン・後藤正文が提示する“強い表現”とは? 「殴り合ったりするとかじゃなくて、幸いにも俺たちにはペンがある」

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「みんなの鑑賞する視点を少しでもずらしたい」

――このアルバムは、歌詞も重要な要素になっていると思います。推敲を重ねて、何を歌うかということをかなり意識して書いた言葉なんじゃないかと思うんですが。

後藤:「自分が感情移入できたのかどうか」という聴き手の感情だけがこのアルバムの物差しにならないように注意して書きました。最近はどんな表現物も受け手が「いま・ここ・自分」みたいなところからばっさりと斬ります。歌われている心情や言葉が、自分にわかるかわからないかということだけで作品の価値が判断されてしまう。つまり善し悪しではなくて、好きか嫌いかだけなんです。そういう「自分」という物差しから、みんなの鑑賞する視点を少しでもずらしたいと思いました。

――耐久性の高い表現が意図的に選ばれていると思いました。

後藤:物語みたいなものを立ち上げて、それを外から眺めてもらった方がいいんじゃないかと思ったんですよね。多くのソングライターは自分の内側から言葉を書いて、みんなはその叙情性と自分の感情が重なり合うかどうかを表現のひとつの善し悪しの評価基準にしている。そうではなくて、小説を読むように感じ取れる歌詞、そこにちゃんと物語があって、ある種の文学性やメッセージが立ち上がるような作品でありたいということは考えて書きましたね。

――これは僕の感じたことなんですが、このアルバムは、フー・ファイターズのスタジオで録音することで、アメリカのロックの文脈に繋がることを意図していたわけですよね。ということは、言葉においても、ブルース・スプリングスティーンとかボブ・ディランとかニール・ヤングとか、そういう北米のロックミュージシャンとの繋がりを意識したんじゃないかと思ったんです。彼らが、当時どんな言葉で時代を切り取ってきたかという、それと共通するスタンスを自らに課している気がしました。

後藤:ボブ・ディランのやっていることは本当にクールだと思うし、いく重にもすごいなと思います。ただ、アメリカ的だとも感じます。自分としては世界文学を意識したところがありますね。たとえば村上春樹の小説とか、国境を超えた普遍性があるんですよね。言葉によるイメージが限定されていない。どこか限定された地域にしか響かないようなドメスティックな世界観ではない。そういう言葉遣いをすることは意識していました。

――英語に訳せる言葉を使うとか?

後藤:そうですね。あとは、外国の小説を読んでいると、その景色が分からなくても伝わることとか、飛び越えてくる何かがあるんですよね。いつ、どこの国の言葉で書かれたものかわからなくても、時間や言語や国境とか、いろんな条件を飛び越えてくる普遍的な何かにはいつもタッチしたいなと思っていますね。

――そう思うようになったきっかけは?

後藤:アジカンはわりと世界中で聴かれていることからの影響もあります。ヨーロッパに行っても南米に行っても、日本と同じくらいのキャパシティでチケットが売れる。それはすごいことだと自分でも驚くので。外国の人に「いい歌詞だ」って言われたりするんですよ。そこにはある種の達成感があるし。

――そういう風に海外に届く、受け入れられるというのは、なかなか意識できないことですね。

後藤:ただ、もともとそういうことを考えて始めたバンドでもあるので。冠に「ASIAN」とつけて、俺たちはアジアのバンドだと名乗って、世界中の人に聴いてもらおうと思っていたから。それは10代のころに、パッとスケベ心で思い描いたことだったかもしれないけど、それがこうやって実になってくると面白いなと思いますね。

――ただ、書き方としては国境や文化を超えて届く普遍的なものにするという話でしたけど、テーマとしては、やはり2015年の日本の社会とリンクした歌詞にしようという意識を感じます。その辺はどうでしょうか?

後藤:今のことしか歌えないからですね。今感じていること、今思っていることがサウンドになるのが一番いい。そうでないと普遍性が宿らない気がするんです。優れている表現というのは時間や時空を超えて瑞々しくその人の前で立ち上がるんですけど、同時にそれが生まれた時代性みたいなものが色濃く刻まれているように感じるんですよね。70年代でも80年代でも90年代でも、レコードを聴いてそう感じます。そういう作品の方が逆に時間の審判に耐えうる気がします。だから、ある種の叙事性は持っていた方が表現としては強い。そして、俺たちはロックにこだわっちゃっているから、社会性とかも考えてしまうんですけど。

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