アジカン・後藤正文が提示する“強い表現”とは? 「殴り合ったりするとかじゃなくて、幸いにも俺たちにはペンがある」

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「『歴史にどうやって接続するか』は大きなテーマ」

――フー・ファイターズも新作『ソニック・ハイウェイズ』で、全米各地のスタジオの歴史を紐解きながらそこで録音するというアルバムを作っていましたよね。デイヴ・グロールのスタジオでレコーディングするというのは、単に「いい音で録りたい」というだけじゃなく、そういう同時代的な問題意識を後藤さんも共有していたんじゃないかと思うんですけれども。

後藤:歴史に接続しようという機運は、デイヴ・グロールだけじゃなくて日本でもあると思うんですよね。河出書房新社から池澤(夏樹)さんの編集で古典の日本語訳の全集が出たりしていることも含めて、「歴史にどうやって接続するか」ということが今の時代の表現の大きなテーマになっていると感じます。音楽も新しい技術が出てくれば出てくるほど、追いやられていくものもあって。でも、将来に向けて残していきたいものもある。そういう気持ちになってはいたんですよね。デイヴはもっと壮大にやっているけど。

――デイヴ・グロールの試みに共感する部分もありましたか。

後藤:本当に素晴らしいと思うし、あのアメリカですら、川の流れみたいに文化や技術、音楽の歴史を繋げていく作業が必要なんだってデイヴは思ったんでしょうね。僕もロスに行って、フー・ファイターズのスタジオを使いたかったのは、自分が好きだったロックの歴史に繋がりたい気持ちがあったんです。

――ロックの歴史に繋がりたい気持ち?

後藤:自分達が使わせてもらったのは、ウィーザーの『ピンカートン』とか、アッシュの『メルトダウン』とか、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかレッド・ホット・チリ・ペッパーズとかニルヴァーナとか、そういう自分が好きだったバンドの作品が作られた機材なんです。で、そこにはその機材を扱うための技術や文化が張り付いているわけで。それと繋がりたい気持ちがあったんですよね。その流れの川下にいたい。デイヴにも、そういう気持ちがあったんじゃないかと思います。いわゆるアメリカのポップミュージックの歴史の川下にいるという意識。だから、あれは表敬訪問のような感じだったと思うんです。一方で、俺たちのやったことは、日本人として、影響を受けてきた音楽の血を受け継ぎにいくような、そういうことをしたいと思っていましたね。

――実際どうでした? 向こうのエンジニアと一緒に作業して。

後藤:日本人だからってナメられるかなとか思ってたけど、そんなことはなかったですね。ギターリフやフレーズにいちいち盛り上がってくれたし。あと、笑いのツボも近くていいなと思いました。というのは、ある曲の仮タイトルを聞かれた時に、俺たちが「ヤマハード」って言ったら、スタッフがみんなメチャクチャ爆笑していて。山ちゃんがおとなしいやつだというのは向こうのスタッフにも一緒に作業して伝わっていたので。ウィーザーの話をしながらドライブして、飯も一緒に食べにいったりもしました。とにかく、本当に音を良くしようと思って頑張ってくれている感じはありましたね。

――こうすればギターの音が良くなるとか、ドラムの音がよく録れるとか、そういうところを掴んだ感じはありましたか?

後藤:最初に、率直に「どうやったらフー・ファイターズみたいないい音で録れるのか?」って訊いたんですよ。そしたら「お前らはいいミュージシャンなんだからあまり考えないでリラックスしてそのままやれ」みたいなことを言われて。「何を言ってるんだろう?」と思ったんですけど、後から考えれば、たぶんコツとかじゃないんでしょうね。いい音・悪い音という感覚が日常的なものとして現場にある。スタジオとか土地にいい音が文脈として張り付いているというか、その人たちの耳を通せばいい音に仕上がってくる。だから、細かい目盛りがどうこうとかじゃなくて、経験として身体で覚えているんだな、と。「ここに来た意味はそれなんだな」と思いました。言葉では説明できないけれど、聴いたらいい音だというのがわかる。そういう土地や場所に張り付いた技術を感じることができた。

――アジカンって、ルーツにはUK、US両方のロックがありますよね。音楽性もいろんなチャンネルを持っている。その中で、曲調としてはどういうものを前面に出そうと意識しましたか。

後藤:シンプルな8ビート、それくらいかな。あと、ヘヴィーとかラウドとかエモとか、そういう言葉で言い表わせるもの。だから、パワーポップはざっくりと外しているんです。過去の曲で言うと、「ループ&ループ」はこのアルバムには入らない。「リライト」はギリギリ入るけど、間奏の部分がちょっと日本的すぎるかな。それくらいのイメージですね。あとは、基本的に「A-B-サビ」のパターンはなるべく避けて、構成も複雑化していかないように、シンプルに作っていった。

――USロックの曲構成が多いですよね。「ヴァース-コーラス-ヴァース」という。

後藤:そこにブリッジとか、向こうの人は「ミドルエイト」と呼んでいましたけど、そういうものが入ったりしてますね。あと、ブリティッシュなものをどれくらい入れるかも考えた。ビートルズのサイケ感はアリだな、とか。最初はフー・ファイターズが『リボルバー』を演奏したようなアルバムになったらいいよねみたいなイメージだったんです。だけど、あっちに行ったらフー・ファイターズというキーワードを出すのはやめようと。それだと本当にお客さんになってしまう。あのスタジオに物真似をしに行っているわけじゃないから。で、結果的には、やっぱり『ウェイスティング・ライト』には全然ならなかった(笑)。

――出来上がったものはアジカンそのものですね。

後藤:1曲目を録り終わった時点で「やっぱり、ああはならないね」って(笑)。俺たちは俺たちらしく、一番いい音で録るのが理想だとみんな感じたと思います。そこからは、ギターをダブルにして重ねたりとか、現場のサウンドに合わせて、向こうで柔軟にプロダクションは変えていきましたね。

――シングル「Easter / 復活祭」は、曲が完成した段階で重要な曲になるという感覚はありました?

後藤:僕としては、あまり気負わずに作ったんですけどね。でも、それがメンバーやスタッフ達に気に入ってもらえた。彼らが喜んだりしているということは、それはいいということだと思って。最近は、そういうジャッジはメンバーの意見を尊重しています。

――「Wonder Future / ワンダーフューチャー」はタイトル曲でもあるし、重要な位置付けの曲ですよね。これはどういうところから作ったのでしょうか?

後藤:ざっくりと言うと別れの曲ではあるんですけど、若い世代に託しているものもあるし、そういう人たちへのメッセージと、老いゆく自分達への「まだまだだぜ」というエールも込めています。あと、アルバムは毎度これが最後だと思って作っているから、ここまでの自分達に別れを告げるというか、葬っていくような感じもある。

――「未来」という言葉をこのアルバムのタイトルに冠しているということについては、どういう考えがあったんでしょうか。

後藤:いま自分達が立っているこの場所も、10代の自分達から見れば驚くべき未来、つまりは「ワンダーフューチャー」なんですよね。まさかフー・ファイターズのスタジオでレコーディングしたとか、10代の僕が聞いたら腰を抜かすはずなんですよ。絶対に信じないと思う。とても夢のあることだと思います。何があるかわからない、ということですね。ジャケットが白いのもそういう意味があって。ここからはみんなが、それぞれ好きに書いていけばいいんだと。だから今回のアルバムのジャケットには、イラストも無くてよかった。

――真っ白なジャケットに文字だけが書かれたデザインになっていますね。

後藤:今回のジャケットはエンボス加工で『Wonder Future』という言葉が刻み込まれているんです。だから、凹んでいる。それは、未来なんてどの地点から見たって真っ白なんだから、そうやって俺たちは一文字ずつ刻んでいくしかないんだという決意でもあって。アジカンが次に何を作るかもわからないし、思い描くことはできても、それを本当に実現できるかどうかは誰にもわからない。明日のこともわからないのは恐ろしいことだけど、同時にワクワクすることでもある。

――デザインにも意志がこもっている。

後藤:そうですね。逆にシングル『Easter』のジャケットは文字の部分が膨らんでいるんです。それは、ある種の墓標みたいなものをイメージしているんですね。そこからの復活であると。

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