『ひらけ!ポンキッキ』の背景にある驚きの音楽史とは? 史上初のテレビ童謡研究書を読む

 大変な労作。一言で説明すると、テレビ童謡の歴史を関係者の証言と資料から描き出した史上初の研究書・資料集となるが、それだけじゃなく、同時にアニメソングの展開史の側面もあり、さらには日本フォーク、ロックの裏面史でもあるのだ。

 著者にクレジットされている小島豊美は、フジテレビの児童向け番組『ひらけ!ポンキッキ』のオリジナル楽曲のほとんどを最初期から担当したディレクターである。

 つまり、「およげ!たいやきくん」も「いっぽんでもニンジン」も「パタパタママ」も「まる・さんかく・しかく」も「おふろのかぞえうた」も「カンフーレディー」もあれもこれも、当時、子供のみならず大人たちまでも口ずさみ、今もって歌い継がれている同番組の楽曲群のほとんどは、小島が手掛け、世に送り出してきたものなのだ。

 本書は、小島へのインタビューを軸に、彼の仕事に関わった重要人物への取材も交えて、『ひらけ!ポンキッキ』、そして同番組リタイア後、小島が手掛けたテレビ朝日『ピッカピカ音楽館』を中心にテレビ童謡の歴史をクロニクルに編纂したものだ。

 小島以外にインタビューされているのは、主力作編曲家だった佐瀬寿一、『ひらけ!ポンキッキ』の名物スポットの音響選曲を手掛けた長谷川龍、四人囃子のマネージャー内田宜政、『ピッカピカ音楽館』の楽曲制作を主に引き受けていた加冶木剛(ダディ竹千代)という面々である。

 アヴァンデザイン活字楽団としてクレジットされている聞き手は、田中雄二。日本の電子音楽の歴史をまとめた『電子音楽 in Japan』といった著作、テクノ歌謡のコンピCD『テクノマジック歌謡曲』ほかの監修などで知られる人物である。といえばピンとくる人も多いだろう。

 田中の仕事を知っている人ならば想像がつくとおり、インタビューをもとに構成されているとはいっても、よくある聞き書きの新書のようなお手軽なものではまったくない。データ収集や調査はあらかじめ入念になされており、外堀を埋めた状態で、資料などからでは知ることのできない当事者の証言を引き出し欠落を補完して、完全なものを目指したという印象である。

 小島はあとがきで、本を書かないかという依頼は何度ももらったものの「ディレクターという仕事は何をする人なのか、リスナーにそれを説明するのは難しい」と二の足を踏んできたと書いている。本書は編集者(田中のことと思われる)からの打診で始まったそうだが、これまで踏ん切りのつかなかった小島をその気にさせたのは、田中の、良い意味での偏執気質が手応えを感じさせたからではないか。

 また田中は、レコード会社や音楽出版社、制作会社といった産業、メディアや楽器といったテクノロジーなど、インフラによって音楽は発展を左右されてきたものだという視点を強く持っている人であり、とりわけその側面の大きいテレビ童謡の歴史をまとめる人材としてドンピシャだったということもあっただろう。

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