Appleが30億ドルでBeatsを買収した背景とは? 音楽業界との関係強化が狙いとの見方
もうひとつの理由として音楽業界とのパイプを強めるためと分析する者も多い。アップルCEOのティム・クックはウォールストリート・ジャーナル紙のインタビューで次のように答えている。「シリコンバレーとロサンゼルス(音楽業界)の間にはベルリンの壁のようなものがある。互いを尊敬しておらず、理解しあってもいない」。かつてはスティーヴ・ジョブズの手腕によってiTunesを成功に導いたアップルだが、その強引ともとれる態度にいまだ音楽業界からの反発は根強い。一方でBeatsは音楽業界から生まれた企業。ジミー・アイヴォンはU2、やシェリル・クロウ、ブラック・アイド・ピーズなどを手掛け、エミネム、レディー・ガガを世に送り出した敏腕プロデューサー。またドクター・ドレーはグラミー賞を複数回受賞しており、ヒップホップの分野で最も影響力があり有名なプロデューサーのひとりとして「ローリング・ストーン誌の選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」にも選ばれたミュージシャンでもある。Beatsのもつコネクションを活かし、音楽業界と新たに良好な関係を構築したいというアップルの狙いが今回の買収から透けてみえる。
ソニーミュージックCEO兼会長のドッグ・モリスは今回の買収劇について以下のようにコメントを寄せている。「アップルとBeatsの組み合わせは、音楽ビジネスとテクノロジーの橋渡しとなるだろう。アップルは賢い。そしてこの業界の未来である音楽ストリーミングの成功を加速させる。ティム・クックとエディー・キューは賞賛に値する。アップルは、この業界で、既成概念にとらわれずに物事を考えられる、非常に独創的な人の1人を手に入れたと思う」。今後アップルがBeats買収によって、再びデジタル音楽ビジネスにおいて覇権を握るのか。その動向が注目される。
(文=北濱信哉)