『MIU404』が『アンナチュラル』の世界線と繋がっている意味 ガマさんと中堂の運命の対比

『MIU404』ガマさんと中堂の運命の対比

 どうして、こんな目に遭わなければならないのか。なぜ、こんな理不尽なことが起こるのか。私たちは、最愛の人を「不条理な死」で失ったとしても、どんなに胸が引き裂かれる思いをしても、命ある限り生きていかなければならない。「許さない」「許せない」その憎悪の渦に、心を持っていかれてしまう可能性は、誰にだってある。どんなに多くの人を救った人であっても、自分がどれだけ救いたかった人でも……。

 金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)第8話の副題は「君の笑顔」。伊吹(綾野剛)の恩人、元ベテラン刑事の蒲郡、通称ガマさん(小日向文世)は「もうずっと麗子の笑った顔が思い出せない」とぼやく。それは、認知症によって亡くした妻の記憶が戻らないのではなく、ガマさんの心の闇が隠しているものだった。

 私たちは悲しみに打ちのめされると、手のひらからこぼれ落ちた幸せを直視できず、愛する人の笑顔を思い出すのも辛くなってくる。そのうち、その幸せを奪った憎い相手の不敵な笑みばかりがフラッシュバックして、近くにいてくれ人の笑顔にも、うまく返せなくなってくる。死ぬほど苦しいのに、それでも生きていかなければならないとき。一体、「誰の笑顔」と向き合うのか。それこそが、人生の分岐点の目印かもしれない。

 八王子の山中で、3本の指が切断された遺体が発見される。荷札には“獣=人間にあらず”という意味の文字が書かれ、3本の指を切断したのは断罪の証のようだ。それは未解決の連続事件と同様の手口で、犯人だけが知る特徴だった。事件の被害者・堀内は、かつて茨城県警で逮捕歴があり、担当者がガマさんだったと知った伊吹は、志摩を連れて意気揚々と訪ねていく。

 貧しい少年時代、厳しい世間に負けまいと喧嘩三昧だった伊吹。そんな彼をまっすぐな道に戻してくれたのがガマさんだった。伊吹にとっては、腐っていた自分を救ってくれたスイッチと呼べる人。そのガマさんの様子が、どこかおかしい。病気で亡くしたと言っていた妻を生きているように話してみたりと、ところどころ記憶が曖昧だ。遺品である歩行器も、そのまま。施設に入らなければならなくなるようなら、一緒に住んだらどうだろうか。そんなことを本気で考えて、今度は自分がガマさんを助けるスイッチになりたいと願うのだった。

 そんな伊吹に、志摩は「お前の勘は、いま何を感じてる?」と、ゆっくり問いかける。ガマさんの妻は病死ではなく、交通事故で命を落としていた。そして、ガマさん自身もそのひき逃げ事故に巻き込まれる形で、脳を損傷していた。一時期は、まったく事故のことを思い出せないほどに。その事実を静かに伝える志摩。一度見た犯人の車両を忘れない伊吹のことだ。歩行器の不自然な歪みにも気づいていたはずだ。そして、堀内の首にかけられていたロザリオにも、もしかしたら見覚えがあったかもしれない。

 それでもガマさんを慕う感情のバイアスが、それを見ないようにしていた。「人は、信じたいものを信じるんだよ」。第2話で、そう志摩が叫んでいたシーンが脳裏をよぎる。きっと、伊吹の中には、もっと前からさまざまな違和感があったのではないだろうか。でも、それから目をそらしてきた。なぜなら4機捜に異動したばかりで忙しく、妻を亡くして傷心していたガマさんと向き合えなかった負い目があったから。あのときは自分自身で精一杯だったけれど、今ならガマさんを支えられるはず。いや、今度こそ救いたい。そうした願望が、認識を歪ませ、堀内を断罪したのはガマさんかもしれないという可能性から、目を背けさせた。

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