他のトランスジェンダー映画と一線を画す? 『アバウト・レイ 16歳の決断』が描く“心の交流”

トランス映画として新しい『アバウト・レイ』

 「何者かになりたい」という願望を、おそらく多くの人が抱いたことがあるだろう。本作『アバウト・レイ 16歳の決断』の主人公レイ(エル・ファニング)にとっての「何者」とは、「男」である。しかし、レイはまだ16歳で未成年のため、女性の身体を男性化させるための治療を受けるためには、親の承諾が必要となる。そこでためらい、戸惑うのは周りの大人たちの方であり、レイ自身は毅然とした姿勢を貫いている。レイの母親マギー(ナオミ・ワッツ)が、将来もし後悔したら……と心配するように、青少年が自身の性別違和感を訴えた場合、思春期の気まぐれや思い込みだと見なされてしまうことは少なくない。しかし、子供は大人が思うよりもずっと「自分」をわかっている。

 本作は性転換という題材を扱いながらも、それをセンセーショナルに描き出そうとするのではなく、両親から治療のための書類にサインをもらうまでのささやかなる過程における、それぞれの心の交流を丁寧に紡いでいく。これまでガーリーな役どころの多かったエル・ファニングは、チャームポイントであるブロンドのロングヘアをバッサリ切り、赤毛の短髪の少年を熱演している。

 昨今、『わたしはロランス』(2013)、『リリーのすべて』(2015)、『彼らが本気で編むときは、』(2017)をはじめとして、トランスジェンダーを主人公にした映画が数多く世に送り出されている。しかし本作のように、「女性」から「男性」への性別移行を描いた映画作品というのは、前述した作品群の全てがそうであることからも分かるように、「男性」から「女性」への性別移行を描いた作品に比べると、極めて少ない。

 例えば『アルバート氏の人生』(2012)でグレン・クローズが演じたアルバートは、自ら男性として生きることを望んだのではなく、社会的・文化的要請によって男装をし、男性として生きざるを得なかった人物である。

 また、ハリウッドには実在したトランスであるブランドン・ティーナを描いた名作『ボーイズ・ドント・クライ』(1999)があるが、現実と同じく映画の中のブランドン(ヒラリー・スワンク)もまた、男性の人生を実現させることなくこの世を去った。

 スウェーデン映画『ガールズ・ロスト』(2015)は、性別を変えてしまう不可思議な花を巡って3人の少女が性別のトランジションを経験する物語を描く。その中の1人であるキムは、自らの男性性をその花とともに開花させていく。「身体にチャックがついているみたい。勇気を出して開けたら中に別の人がいる気がする」というキムの言葉は、トランスの人々が抱える自身のアイデンティティーと肉体の齟齬を端的に表している。キムの苦しみは孤独のまま解消されることもなく、映画は幕を閉じる。

 フランス映画『トムボーイ』(2011)の主人公は、16歳のレイよりもさらに若い10歳のロールである。ロールは両親に女の子として育てられているが、ミカエルという名前を使って男の子のふりをしている。そのことを知った母親は、ミカエルを厳しく叱責し、無理やり女の子の服を着せる。ミカエルがその後どちらの性別を選びとって生きたのか、映画は語ることなく終わる。

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